いよいよメンバー全員が還暦を迎えるハードロックバンド、人間椅子は2026年を還暦イヤーとして記念ツアーを行っている。
人間椅子の魅力は様々であり、轟音サウンドや文学的な日本語詞などがよく挙げられるものである。また70年代ハードロックに影響を受けた音楽性にも注目される。
しかし人間椅子を好きな人が、意外にもハードロック好きではない場合もあり、人は人間椅子の何に惹かれるのか、が筆者のずっと気になっているポイントである。

実は人間椅子に惹かれる要因の1つに、リズムやグルーヴがあるのではないかと考えた。
誤解を恐れずに言えば、人間椅子は「ダンスミュージック」とでも言えるほど、独特の”踊れる”リズム・グルーヴを持った音楽なのである。
ヘヴィメタルへと続く洋楽ハードロックの流れとはやや異なる、土着的で日本的な踊りのリズムがあり、日本人だけでなく海外にまでその独自性が刺さっているのではないか、と考えている。
サウンドは似ているのに洋楽ヘヴィメタルと人間椅子の明らかな違いは?
人間椅子の持つリズム・グルーヴについて考える上で、ずっと気になっていた疑問について触れておきたい。
それは、洋楽のヘヴィメタルとサウンドは似ているのに、明らかに人間椅子はそれと異なるのはなぜか?という疑問である。
人間椅子は音楽的に70年代ハードロックの影響を公言しているが、サウンド的には80年代~90年代くらいの、人間椅子にとって同時代的なヘヴィメタルに近いところがある。
メンバーの和嶋慎治氏・鈴木研一氏が2人でコンサートに行ったというMetallicaの「Enter Sandman」などは人間椅子と非常に似たサウンドやリフを持つように聞こえる。
しかし何かが違うようにも思われる。いずれのバンドも70年代のハードロックには影響を受けつつ、Metallicaはやっぱりヘヴィメタルと言えるし、人間椅子はヘヴィメタルとは違うように思う。
Metalicaと人間椅子の違いを考えると、決定的なのはリズムやグルーヴなのではないか、と考えている。
Metallicaの特徴は、縦に揃ったリフの刻みであり、ギター・ベース・ドラムが縦にきっちり揃ったリズム感であることで、メカニカルで重いサウンドになる。
ソリッドなサウンドとも表現され、その冷徹なサウンドが非常に攻撃的で斬新だったのだ。これをさらに強力にしたのがPanteraの「Walk」だったように思える。
このようにリズムやグルーヴの揺れをあえて減らし、ソリッドなサウンドで攻撃性を強めたのがヘヴィメタルの1つの流れだったように思う。
一方の人間椅子はリズム・グルーヴの面では、70年代ハードロックを固持したバンドだったと言えるだろう。
70年代の洋楽ハードロックを聴くと、そのリズムにおいて、まだ多様な音楽ジャンルの要素が詰まったジャンルだったことが分かる。
ハードロックはブルースやR&B、ロックンロールなどがルーツにあり、ルーズに踊れるようなリズム感が特徴としてあった。
人間椅子の最新作『まほろば』のタイトル曲「まほろば」は、あえてヘヴィメタル的なリフの刻みを止め、ハードロックのグルーヴを大事なした楽曲となっている。
音に隙間があり、各楽器パートの自由度が高いので、揺れが生まれ、グルーヴになるのだ。
70年代ハードロックが持つ、良い意味でのルーズなリズム。これが人間椅子のノリであり、筆者にとっては”ダンスミュージック”と言っても良いほど、心地好いノリを生み出している。
ダンスミュージックの中でも、近年の打ち込みサウンドではなく、1960年代からの初期ファンクのような、ヘヴィさがありつつノリのあるダンスミュージックに近い要素を感じる。
人間椅子はブラックミュージックの影響は薄いとされるが、やはり70年代ハードロック自体にそうしたダンスミュージックに繋がるノリが含まれているのだと思う。
※ハードロックバンド人間椅子の”ヘヴィ”さはどこから来るのか? – 海外ヘヴィメタルとは異なる重さの魅力

人間椅子のリズム・グルーヴの独自性 – 踊りと土着性
ここまで洋楽ヘヴィメタルがメカニカルなリズムに変貌していったのに対し、人間椅子のリズム・グルーヴには良い意味でルーズな”ダンスミュージック”の要素があると書いてきた。
それは70年代ハードロックが持っていた、多様なジャンルを内包していた未分化の状態にある、ダンスミュージック的要素に通じていると感じる。
人間椅子は加えて、独自のリズム感をさらに持っている。それは日本的な土着のリズムであり、ハードロックとの融合があまりに見事である。
人間椅子はハードロックの日本的解釈、と言われるが、日本語詞を乗せたところにとどまらない。
リズムにも注目すると、人間椅子の独自性が見えてくる。その核となっているのは、やはり作曲を担当するフロントマンの2人、和嶋慎治・鈴木研一である。
ドラマーが変わっても独特なリズム・グルーヴが残り続けているのは、やはりフロントマンの持つ東北の独特なリズム感なのだろうか。
とりわけ日本的で独特な鈴木氏のリズムが強烈で、洋楽的なリズムを土台にしつつ、ダークなうねりが特徴の和嶋氏の2人について、楽曲を挙げながら紹介する。
ベース・鈴木研一のリズム
ベース・ボーカル鈴木研一氏の作る楽曲には、とりわけ日本の土着的リズムとハードロックの融合が分かりやすく見られている。
鈴木氏の楽曲には、日本の祭りの掛け声が似合うような、土着的なリズムの楽曲が多くなっている。たとえば「どだればち」も民謡のような歌と、ハードロックが見事に融合している。
※「どだればち」は青森県(津軽地方)の代表的な民謡である「津軽甚句(つがるじんく)」の別名である。
また鈴木氏の地元である弘前市のねぷた祭りのお囃子を楽曲に取り入れている。ねぷたが移動する際の囃子は、以下のように楽曲で用いられているという。
- 「あやかしの鼓」:行進
- 「ねぷたのもんどりこ」:戻り
- 「月夜の鬼踊り」:休止
ねぷた囃子のダイナミックさと、ハードロックの攻撃性が合わさり、人間椅子にしか出し得ないグルーヴを生み出している。
リズムだけではなく、日本の童謡や地方に伝われる伝承曲の節回しが歌に取り入れられることがある。たとえば「心の火事」「晒し首」などがあり、これも独特なリズムをもたらしている。
鈴木氏の音楽的な趣向では、80年代以降のメカニカルなヘヴィメタルも聴くようである。しかし和嶋氏があまり好きではないので、人間椅子には持ち込まないようにしているという。
逆に和嶋氏の好きなブルースは好まず、こうした土着的なリズムは、まさに鈴木氏が幼少期に青森で培ったものなのだろうか、と想像する。
ギター・和嶋慎治のリズム
ギター・ボーカルの和嶋慎治氏は、鈴木氏ほどダイレクトに土着の日本的リズムを取り入れている訳ではないようにも見える。
感覚的に自分の持っているリズムを取り入れる鈴木氏に対して、理論的に楽曲を組み立てていく和嶋氏と言う、作曲のスタイルの違いも影響しているのだろう。
和嶋氏の場合、1つは意図して日本的な音階やリズムを取り入れている楽曲が存在する。
デビュー前からのレパートリーである「人面瘡」は、ハードロックとプログレ、そこに日本のお祭り的な合いの手を融合させた楽曲である。
日本的なリズムと言う意味では、落語を取り入れた「品川心中」なども、洋楽ハードロックにはあり得ないリズム、ノリが生まれている。
これらは割と意図して日本的なリズムを取り入れたものだが、和嶋氏にも意図せず独特なリズムが表れているタイプの楽曲がある。
それはダウンチューニングのヘヴィな楽曲において、地を這うような重苦しいリズムである。ダンスミュージックとは無縁に思えるが、ブルースやソウルなどの持つヘヴィさに通じるものだ。
たとえば「黒猫」「黒い太陽」「見知らぬ世界」「無情のスキャット」などに通じる、重々しくも身体が揺れてしまうようなビートである。
思わず身体が動かされるような感覚、これこそダークなダンスミュージックではないだろうか。
先ほど書いた通り、和嶋氏は80年代以降のヘヴィメタルはあまり好まないようで、70年代までのハードロック、そしてブルースやロックンロールなどに影響を受けている。
和嶋氏の持つリズムは、鈴木氏ほど日本的な土着のものとは異なり、ブラックミュージックから来ているノリのような感じがする。
これはやはり敬愛するBlack Sabbathの影響が大きいようにも思える。彼らの「Into The Void」のようなダークなうねり、これが和嶋氏の身体に染み付いているようだ。
まとめ
今回は人間椅子の持つリズム、グルーヴに焦点を当てて考察してみた。
最初にあった疑問として、「なぜハードロックを聴かないのに人間椅子が好きなのか?」について、ダンスミュージックとしての人間椅子を考えると合点がいく面もある。
ハードロックはギターの技巧やフレーズなどに注目されがちであるが、もっと感覚的に聴くのであれば、そのダイナミックなリズムやグルーヴが心地好い、ということである。
人間椅子もそうしたリズムの心地好さ、身体を揺らされるような感覚が根強くある。そうしたリズムのうねりは、やはり生演奏でこそ最大限に伝わって来る。
楽曲や歌詞の良さなど、家で分析的に楽しめる要素はもちろんありつつ、もっとシンプルに身体を揺らされるような体験を楽しめるのが人間椅子のライブである。
これはやはりメンバーの持って生まれたリズム感、そしてメンバーどうしの化学反応によって起きるもので、唯一無二である。
人間椅子の場合、個々の持つリズム感の良さ、そして3人の化学反応が絶妙なのだと思う。


コメント