日比谷野外大音楽堂の建て替えの話題が出てしばらく経つ。2024年10月からの休止のはずが、業者の入札がなく、2025年10月までコンサートを行える期間が延長となった。
野音の建て替え前最後のコンサートに選ばれたのがロックバンド、エレファントカシマシだった。
エレカシは1990年の野音での初公演以来、実に40回以上の公演数を誇る、日本でも随一の野音バンドである。
そんな最後の公演は「〜日比谷野音 The Final〜 俺たちの野音」と銘打って行われた。幸運にも筆者はそのチケットを入手することができ、本公演を目撃したのだった。
エレカシの野音、おそらくそこでしか観ることのできない、得ることのできないものが確かにある。
そんなエレカシの聖地とも言える野音でのラストコンサート、2025年9月28日の日比谷野外大音楽堂のコンサートをレポートする。
レポート:エレファントカシマシ〜日比谷野音 The Final〜 俺たちの野音
本公演のレポートについて、今回は開演前・開演中(ライブレポート)・セットリストの3部で書くことにした。
開演前
エレカシが野音での最後の公演を行うことが告知されたのは、割と急なことであった。
ファンクラブ向けのメールが届いたのが、8月18日、公演の行われる1か月ちょっと前のことだった。(一般向けの告知は8月28日、コンサートの1か月前だった)
最後にあの野音でエレカシがコンサートをする、ファンクラブ会員だけでも入りきれないほどの申込みが殺到することがすぐに想像がついた。
しかし今回はなぜか確信めいた感覚があり、絶対に中で観るのだ、と決意したのだった。
なおチケットはイープラスでの申込みだったが、郵便番号が、PAOに登録の郵便番号と一致していないと、自動的に抽選から漏れるので注意せよ、というお達しが今回は強調されていた。
筆者は今回引っ越しをしたのでその告知に気付くことができた。案の定、いくつも前の住所の郵便番号のままだった。
それで過去に何度も野音の抽選に外れたのかと今さら気付いて残念な思いだった。
今回は郵便番号も直し、行くと決心して申し込んだからか、ファンクラブ先行で当選の通知が届いた。
なお筆者にとっては地方に移住してから初の遠征での野音だった。ただチケットが取れなくても、公園での”外聴き(音漏れ)”で現地に足を運ぶつもりでいた。
会場に到着したのは、16:30前頃という開演に近い時間帯だった。いつも客席の裏手の入場口側から公園に入るのだが、いつもに増して外聴きの人数が多い。
今年の野音に関しては、外聴きを遠慮してほしい、というような運営側からのお達しは出ていなかったようだ。
なお2023年の野音では、もうコロナも明けていたのに、外聴きは遠慮願いたい、という野暮な運営のお願いに筆者は反発して以下のような記事を書いたのだった。
野音は外聴きも含めて風物詩なのであり、野音での公演にこだわるならば、外聴き・音漏れにも寛容な運営であってほしかったのだ。
今回のコンサートは、アミューズに在籍していた当時から独立しており、配信やライブビューイングなどはあっても、外聴きは自由な緩やかな方針に戻っていた。
入場するとお花が届いていたが、こちらもアミューズ時代の同事務所の芸能人から届くようなことはなくなり、近い関係者やレコード会社やライブ運営に関する会社からだった。

個人的にこれは少し安心したところであった。

なお最後の野音でのコンサートということで、音楽のメディアのみならず、新聞などでもニュースになっていたようである。

開演前はオルタナティブロックやアンビエントっぽい洋楽の曲が流れていた。
ライブレポート

BGMが鳴りやみ、ステージ上のライトが点灯するだけ、という非常に簡素な始まり方である。
そして静寂になった瞬間、ステージ袖の「お願いします!」というスタッフさんの威勢の良い声が場内に響き渡ったほどであった。
場内、そして外聴きの人たちも含め、それほど固唾を飲んでエレカシの登場を待っていた。
メンバー4人のみで披露されたのは「「序曲」夢のちまた」であった。野音の1曲目の定番でもあり、静かに歌われる前半と最後の絶叫が野音の始まりを告げてくれる。
2曲目「俺の道」からはキーボードに細美魚氏が加わった。「デーデ」「星の砂」と野音での王道とも言える選曲が続いていく。
この辺りまではボーカルの宮本氏が、ドラムの冨永氏にテンポを上げるよう指示する仕草が見られたり、ギターの石森氏にもっと弾くように煽る場面が見えた。
「星の砂」の終わりの部分では、演奏の流れを無視して、宮本氏が「ばああ」と大声を上げる場面もあり、バンド内のエネルギーが不均衡な感じになっていたように思われた。
ずっとライブ活動を続けてきた宮本氏と、野音が久しぶりのコンサートとなる他メンバーのライブの感覚や体力のようなもののズレがあるのか、と少し気を揉んだのだった。
バンドの息が合ってきたのは、次の「太陽ギラギラ」辺りからだった。エレカシ独特のうねりや躍動感、阿吽の呼吸とも言える演奏が蘇ってきた。
序盤はエピックソニー期を中心に据え、まさかの『エレファントカシマシ5』から続けて「お前の夢を見た(ふられた男)」「ひまつぶし人生」が1番野音らしいレアな選曲だったかと思う。
「ひまつぶし人生」を始める前には「古くて新しい曲」といった紹介があった。
「お前の夢を見た(ふられた男)」ではどっしりヘヴィな演奏を聴かせてくれたが、後半で「感電しそう」とスタッフの人に訴える場面も。
マイクを通じて感電しそうになっていたようだった。
ここで初めてポニーキャニオン期の「昔の侍」が披露された。うっすらストリングスサウンドが聞こえて、今回は同期が少し入っていたように思われた。
圧巻だったのは「東京の空」と「月の夜」の流れである。「東京の空」は故・近藤等則氏との野音でのコラボ映像もあったが、野音と言う場所で聴くこの曲は格別である。
変幻自在の転調と展開が凄まじいこの曲、宮本氏のギター・歌ともに冴え渡り、見事な緊張感と一体感で抜群の演奏を見せてくれた。
さらに完成度が高かったのは「月の夜」であり、これまで聴いた中でも一番完成度が高かったように思われる。
この曲は細海氏のアンビエントな雰囲気のキーボードが実に相性が良く、この日のハイライトの1つだった。
これにて第1部が終了。振り返ってみれば、「俺の道」を除くと、全てエピック時代に作られた楽曲で構成されていた。(「昔の侍」はエピック時代にできていた曲だったらしい)
後半に進むほど、バンドとしての一体感も出てきて、第2部がとても楽しみになっていた。
「第2部です」と宮本氏が言って始まった曲は、『Wake Up』収録の「旅立ちの朝」だった。これも野音や通常のライブでも結構披露される、隠れた名曲である。
じんわりと沁みてくる曲であるが、そのまま「友達がいるのさ」もまた、野音ならではの楽曲であり、とても沁みる曲である。
野音で披露されるたびに、毎回素晴らしい演奏であり、ラストも見事に胸を熱くさせる「友達がいるのさ」であった。
序盤で披露されることの多い「悲しみの果て」は第2部の序盤で披露され、立て続けに「なぜだか、俺は祷ってゐた。」と沁みる曲が4曲続いた。
「なぜだか、俺は祷ってゐた。」も今回の野音のハイライトの1つだった。今回の選曲は第1部の攻撃的なモードと、第2部はグッと来るタイプの曲が多めになっていた。
たとえば「too fine life」や「Baby自転車」と言った比較的ハッピーな曲はほとんど選ばれなかったのだが、唯一そのタイプの曲が「星の降るような夜に」だった。
メンバー同士の関係性を表すような曲であり、まさに野音に集う”俺たち”の繋がりを示すような曲でもある。”俺たちの野音”のタイトルには欠かせない曲だった。
溜めて冒頭を歌った「今宵の月のように」、そして2023年のシングル曲「yes. I. do」と、歌モノ2曲をしっかりと歌い上げた。
イントロのコード進行をつま弾き、「so many people」が演奏されると、場内では多くの人の腕が上がり、やはり大いに盛り上がったのだった。
宮本氏がギターを弾き始め、「笑顔の未来へ」が始まったものの、エフェクターの踏み損じで、やり直しになった。
仕切り直しのMCでは「20年近く前の曲で、でも大事に歌っている曲で」と語られた時、もうそんなに昔の曲になったのか、と驚いたのだった。
2回目となった「笑顔の未来へ」であるが、今度は序盤で歌詞が飛んでしまい、再度のやり直しへ。3度目の正直で、3回目は見事な演奏を聴かせてくれた。
そして野音には欠かせなくなった「ズレてる方がいい」「RAINBOW」の2曲が立て続けに披露された。野音とともにあったこれらの曲については、事前に記事に書いたのだった。
ユニバーサル時代の楽曲が並んだので「俺たちの明日」で締めるのかと、筆者以外にも予想した人はいたのではなかろうか。
そうした予想を大いに裏切る展開が待っていた。まさかのここであのドラムのカウント、「奴隷天国」である。
そしてよく見ると、キーボードの細海魚氏がステージから去っていたのだった。本編の最後は、エレカシ4人だけで野音のコンサートを締めくくったのである。
しかも再び怒涛の絶叫が霞ヶ関に響き渡る、「奴隷天国」「男は行く」というエピック時代の荒々しいロックナンバーの2つだった。
ハッピーでもなく、別れを悲しむのでもなく、今この瞬間の感情を爆発させるようなパフォーマンス、これこそ野音でのエレカシの姿なのだ、と不思議な感動を覚えた。
そして本編ラストは期待を裏切らず、「ファイティングマン」で盛大に締めくくられた。宮本氏がジャンプして終わる恒例の締めくくりも行われた。
アンコールの呼び出しに応え、最初は宮本氏が一人で登場した。
ほとんど長いMCはなかったのが、今回の野音に最後に呼んでくれたことへの感謝を伝える場面があった。「なんて幸せなバンドなんだろう」と語る言葉が印象的だった。
そんな万感の思いで演奏された「涙」、宮本氏の伸びやかな声が野音から空まで突き抜けて響いて行くようだった。
「悲しいときには涙なんてこぼれない」と、この曲の歌詞には心揺さぶられるものがある。この曲が歌われるコンサートは、何か特別なものがあるような気がしている。
最後はメンバー4人だけで渾身の「待つ男」であった。
何となく最後のMCと「涙」の時には現実に戻ってきた感があったが、また感情の渦と言うのか、「待つ男」で異世界に飛ばされたかのような衝撃だった。
エレカシをコンサートで聴いている瞬間、音楽を聴いているのではあるが、どこか異世界にいるような不思議な感覚になる。
赤いライトに照らされ、最後の最後も絶叫で締めくくったコンサートだった。「長い」とアウトロで言う宮本氏、余韻など残さず演奏が終わりを迎えた。
最後には演奏に加わらなかった細海氏もステージに登場し、5人で手を繋いで観客にお辞儀をして去って行った。
エレファントカシマシ 「〜日比谷野音 The Final〜 俺たちの野音」終演いたしました。
— エレファントカシマシ (@elekashi_ofcl) September 29, 2025
記念すべき日比谷野音の最後の日、エレファントカシマシにしか成し得ない圧巻のステージで、まさに歴史の1ページを刻み込みました。ありがとうございました!#エレファントカシマシhttps://t.co/tuKJkIzLu0 pic.twitter.com/1NI5YOcAi4
アンコール演奏後もまだ手拍子は鳴りやまなかったが、終演のアナウンスが流れてコンサートは終了となった。
セットリスト・収録アルバム
以下にライブのセットリストを示した。収録アルバムは初収録となったものを記している。
No. | タイトル | 収録アルバム |
---|---|---|
第1部 | ||
1 | 「序曲」夢のちまた | 『浮世の夢』(1989) |
2 | 俺の道 | 『俺の道』(2003) |
3 | デーデ | 『THE ELEPHANT KASHIMASHI』(1988) |
4 | 星の砂 | 『THE ELEPHANT KASHIMASHI』(1988) |
5 | 太陽ギラギラ | 『THE ELEPHANT KASHIMASHI II』(1988) |
6 | お前の夢を見た(ふられた男) | 『エレファントカシマシ5』(1992) |
7 | ひまつぶし人生 | 『エレファントカシマシ5』(1992) |
8 | 珍奇男 | 『浮世の夢』(1989) |
9 | 昔の侍 | 『明日に向かって走れ-月夜の歌-』(1997) |
10 | 東京の空 | 『東京の空』(1994) |
11 | 月の夜 | 『生活』(1990) |
第2部 | ||
12 | 旅立ちの朝 | 『Wake Up』(2018) |
13 | 友達がいるのさ | 『風』(2004) |
14 | 悲しみの果て | 『ココロに花を』(1996) |
15 | なぜだか、俺は祷ってゐた。 | 『町を見下ろす丘』(2006) |
16 | 星の降るような夜に | 『東京の空』(1994) |
17 | 今宵の月のように | 『明日に向かって走れ-月夜の歌-』(1997) |
18 | yes. I. do | シングル『yes. I do』(2023) |
19 | so many people | 『good morning』(2000) |
20 | 笑顔の未来へ | 『STARTING OVER』(2008) |
21 | ズレてる方がいい | 『RAINBOW』(2015) |
22 | RAINBOW | 『RAINBOW』(2015) |
23 | 奴隷天国 | 『奴隷天国』(1993) |
24 | 男は行く | 『生活』(1990) |
25 | ファイティングマン | 『THE ELEPHANT KASHIMASHI』(1988) |
アンコール | ||
26 | 涙 | 『東京の空』(1994) |
27 | 待つ男 | 『THE ELEPHANT KASHIMASHI II』(1988) |
全体の感想

現在の野音で行われる最後のコンサート、それがエレカシの野音であった。そして良い意味で、”いつもの野音”であったことが嬉しかった。
筆者は幸運にも中で観ることができたが、終演後も多数の人が外聴きしていた様子が窺われて、野音の内外で楽しめる自由な空間だったことも、”いつもの野音”だった。
昔の野音のように、音量が結構大きかったのが個人的には嬉しかった。近年は音量の制限などがあるようであるが、宮本氏の絶叫とも言える歌が響き渡っていた。
また2023年の「ARENA TOUR “35th ANNIVERSARY TOUR 2023 YES. I. DO”」での、何かパッケージ化されたようなコンサートとは違う、いつものエレカシだったのも嬉しかった。
筆者としてはアミューズを退所後、株式会社elephants(エレファンツ)に所属後、初めてのコンサート参加であった。
アミューズ在籍を個人的にはあまり良く思っていなかったのだが、今回のライブで概ねいつものエレカシに戻っていた感覚があったので、その点も良かった。
ライブレポートの中でも書いたが、ライブの序盤はややバンドの熱量がアンバランスな感じもしたが、割とすぐにいつものエレカシの演奏に戻ったのも安心した。
選曲に関しては、野音の定番曲を振り返りつつも、かなりエピックソニーの時代に寄った選曲だった。エピックソニー期の全アルバムから披露されていたのである。
時代別に見ると、エピックソニー期が15曲、ユニバーサル期が5曲、東芝EMI期が4曲、ポニーキャニオン期が3曲だった。
改めて野音(とりわけ秋の)でのエレカシでしか得られない成分があると思った。外聴きも含めて、野音という風物詩がなくなるのはとても寂しいことである。
そして4人だけのエレカシの演奏も聴いて、エレカシというバンドの良さを再確認したのだった。音楽ではあるのだが、感情の爆発と言うのか戦いと言うのか、形容しがたい現場なのである。
宮本氏の声はよく出ていたし、ロックなボーカルの良さを堪能した。やはりエレカシとしての、バンド活動も続けてほしいと願うところである。
※【エレファントカシマシ】日比谷野音で聴くと魅力が倍増する曲たち – 野音の定番曲と言えば?
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