バンドはギター・ベース・ドラムが最低限の編成とされるが、ベースの役割はなかなか楽器演奏をしたことがない人にはイメージしにくいものだ。
ベースはドラムとともにリズムを作るものであり、リズム隊がいるからこそ、ギターやキーボード、そして歌がメロディを奏でることができるのだ。
ただ3ピースバンドの場合、ベースはリズムを作るとともに、ギターと一緒にメロディを弾いたり、音色を作り出したりと、役割が大きくなる。
ハードロックバンド人間椅子の鈴木研一のベースも、人間椅子サウンドには欠かせないものだ。今回は鈴木研一氏のベースの効きどころが分かりやすいおすすめの曲を紹介することにした。
※なおこちらの記事をコンパクトにまとめた内容になっている。
鈴木研一のベースの聴きどころが分かりやすいおすすめの楽曲
人間椅子のベース・ボーカル鈴木研一氏の紹介についてはこちらの記事に書いているが、ギター・ボーカルの和嶋慎治氏とともに人間椅子を結成し、その独特な世界観を作り出している。
彼の不気味なベースサウンドは人間椅子に欠かせないものであり、ギターとともにサウンド作りにも貢献している。
鈴木氏のベースプレイは決して難解なフレーズや動き回るものではないが、逆にここぞというところで目立つようなポイントを作ることで存在感を示している。
今回は鈴木氏のベースが非常に分かりやすく目立つポイントのある曲を10曲に絞って紹介することにした。ベースの聴きどころを中心に紹介している。
鉄格子黙示録
- 作詞・作曲:和嶋慎治
- 収録アルバム:1st『人間失格』(1990)、ベスト『人間椅子傑作選 二十周年記念ベスト盤』(2009)
ベースで始まる楽曲は、ベースの存在が分かりやすい。人間椅子の元祖ベースで始まる楽曲と言えば「鉄格子黙示録」ではなかろうか。
和嶋氏がBlack Sabbathの影響を強く受ける前の高校生の頃に作ったと言う曲。しかしBlack Sabbath的な不気味さを既に持っていたところが興味深い。
冒頭に刻まれる鈴木氏のベースはシンプルながら力強く、ドラムやギターが入ってからも同じフレーズが繰り返されているのがよく聴くと分かる。
なお『人間失格』では前半部のみしか収録されておらず、後に『人間椅子傑作選 二十周年記念ベスト盤』では完全バージョンが新録されている。
前半部はベースが引っ張っていく形で、後半はギターがより目立つアップテンポな展開になっている。
あやかしの鼓
- 作詞:和嶋慎治、作曲:和嶋慎治・鈴木研一
- 収録アルバム:1st『人間失格』(1990)など
夢野久作の小説からタイトルを借りた、初期の人気曲である。おどろおどろしく、土着的なリズムはねぷた囃子の「行進」が用いられている。
前半のダークな雰囲気のベースラインも聴きどころではあるが、分かりやすいのは中間部でドラムだけになり、そこにベースが加わる部分である。
非常にシンプルなフレーズであるが、まるでベースの弦を打ち付けるように力強く弾くことで、ドラムとともに打楽器のようなパワーがもたらされる。
なお後半の展開ではギターソロの後に、ベースソロも挿入されているところがもう1つの聴きどころである。
審判の日
- 作詞:和嶋慎治、作曲:鈴木研一・和嶋慎治
- 収録アルバム:3rd『黄金の夜明け』(1992)など
ベースリフから始まるこの曲、もはや発明と言って良いレベルの人間椅子屈指の名リフである。基本的にこのリフが曲全体を引っ張っていくので、ベースが目立つ曲の最たるものだろう。
フレーズ的に見ても、ギターで弾くよりベースで弾く方が映えるリフである。手数の多さなのか、リズムなのか、歪んだベースで鳴らしてこそカッコ良さが伝わるリフとしか言いようがない。
非常にシンプルな構成かと思いきや、中間部では複雑な展開があり、ギターの見せ場もちゃんと存在する。この部分もメインリフを引き立たせるために一役買っているようにさえ思える。
埋葬蟲の唄
- 作詞:和嶋慎治、作曲:鈴木研一・和嶋慎治
- 収録アルバム:4th『羅生門』(1993)など
どんよりとヘヴィなリフから始まる楽曲であるが、Bメロからサビへとメロディアスな要素もあり、展開も目まぐるしい楽曲である。
聴きどころは中間部のギター・ベースが両方ソロでばらばらのことを弾き始める部分である。ギターは不気味なフレーズで、ベースがオーソドックスなソロと言う感じで割り振られている。
そしてギターソロの後半では、ベースはリフを弾いて、綺麗な形に戻るところがカッコいい。他の曲にはない展開で、ベースがここまでアドリブっぽく様々なフレーズを弾く曲は珍しい。
近年では映像作品『バンド生活三十五年 怪奇と幻想』のブートレッグ映像にこの曲が収録され、久しぶりにツアーでも披露されたことが記憶に新しい。
莫迦酔狂ひ
- 作詞・作曲:和嶋慎治
- 収録アルバム:6th『無限の住人』(1996)
和嶋氏が作る不気味でプログレ風味の強い楽曲である。酒や酔っ払いがテーマの曲だからか、おどろおどろしい部分とアップテンポな部分とが行ったり来たりしている。
ベースの聴きどころは、唐突に挿入される中間部の始まりの部分である。個々ではギターがなく、ベースとドラムだけなのだが、非常にヘヴィでベースの極悪なサウンドが楽しめる。
さらにギターが入ってきた後は、フレーズが動き、ベースのうねるようなサウンドも楽しむことができる。ここはベースがグルーヴを作る場所で、ベースの聴きどころと言って良いだろう。
暁の断頭台
- 作詞:和嶋慎治、作曲:鈴木研一
- 収録アルバム:8th『二十世紀葬送曲』(1999)
ベースとドラムから始まるこの曲も、鈴木氏らしいベースの音色とプレイが楽しめる楽曲である。全体的に重苦しいトーンで進む曲は、歌詞の世界観もさることながら、サウンド面でも暗い。
やはり冒頭のベースとドラムのみのイントロ、そこに不気味なギターフレーズが入る部分が象徴的である。Eの開放弦を鳴らすだけなのだが、メロディよりリズムで歌うような曲である。
あの冒頭のベースが弾くリズムこそ、この曲の1番の中心である。鈴木氏お得意の土着的なリズムであり、ヘヴィメタル的というよりも、民族音楽のようなリズムとベースが鈴木氏らしい。
黒い太陽
- 作詞・作曲::和嶋慎治
- 収録アルバム:8th『二十世紀葬送曲』(1999)
和嶋氏の心の闇がそのまま表現されたかのような暗黒な雰囲気の1曲。人間椅子史上最も重厚感のあるリフと言っても良いもので、シンプルながら不気味な曲である。
そんな轟音リフの合間、そしてイントロ部分にはベースが目立つ部分がある。ベースのルート音と、ファズギターが絡み合い、何とも言えない不気味なサウンドが出来上がる。
またこの曲ではアウトロ部分でドラムが一定のリズムを刻みながら、メインリフをベースのみが弾く箇所がある。どことなく虚無感のあるアウトロで、唐突に曲が終わる感じもする。
芋虫
- 作詞・作曲:鈴木研一
- 収録アルバム:9th『怪人二十面相』(2000)
ベースの悲しげなリフが全体を引っ張っていく名曲である。イントロではベースがリフを弾き、歌が始まるとギターとベースがハモりながらリフを弾く展開になる。
人間椅子のアンサンブルの作り方の中では、かなり凝った作り方である。その分、歌いながら弾くことにはかなりの困難が伴うようだが、非常に美しい展開である。
中間部の長いギターソロでは、一転してシンプルかつパワフルなベースが後ろで鳴っているのが聞こえる。ベースプレイのバリエーションが楽しめる、結構珍しいタイプの楽曲である。
大団円
- 作詞・作曲::和嶋慎治
- 収録アルバム:9th『怪人二十面相』(2000)
和嶋氏の作曲した、ヘヴィでありながらどこか軽妙洒脱な作風の楽曲。歌の部分ではポップな要素を込めつつ、演奏はかなりヘヴィなサウンドになっている。
その不気味なパートを担っているのが鈴木氏のベースと言えるだろう。冒頭はベースのみで始まり、不気味なギターのフレーズとともに、ヘヴィでおどろおどろしい世界観を演出している。
メインリフが始まった後にも、ベースのみメインリフを継続し、ギターが不気味なフレーズを弾くパートが挿入されている。随所にベースの不気味さが際立つパートが挿入されているのが面白い。
地獄変
- 作詞:和嶋慎治、作曲:鈴木研一
- 収録アルバム:17th『萬燈籠』(2013)
芥川龍之介の小説からタイトルを借りた楽曲。Black Sabbathを感じさせるギターの和音リフに、ベースの低音が合体して、人間椅子らしいヘヴィさを感じさせる。
後半までは一定のリズムで進んでいく楽曲だが、アウトロ部分でやや展開がある。最後のサビが終わった直後に、叩きつけるようにヘヴィなベースからややトリッキーな展開になる。
全体のキメの直後には同じベースのみのフレーズが繰り返されるのが印象的である。こうしたベースのみのフレーズが挿入されることで、楽曲に味付けがなされている。
まとめ
今回は人間椅子の鈴木研一氏のベースの聴きどころが分かりやすい楽曲を10曲紹介した。
人間椅子はギター・ベース・ドラムと言う3ピース編成ゆえに、ベースの役割も大きく、ベースが目立っているパートが作られることも多い。
とは言え、あまり楽器に馴染みのない人からすれば、ベースの聴きどころは分かりにくいかもしれない。今回は中でもかなり聴きどころの分かりやすい楽曲を選んだ。
さらにベースの聴きどころを知りたい人は、今回の内容をさらにマニアックに掘り下げたこちらの記事をお読みいただくことをおすすめする。
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