2023年にデビュー35周年を迎えたロックバンド、エレファントカシマシ。初のアリーナツアー、2枚のシングルリリース後は、しばらく沈黙を保ってきた。
2024年3月、ここに来て入ってきたニュースは、所属していた事務所であるアミューズの契約が満了となり、株式会社elephantsの所属となる、というものだった。
正直なところ、まだこの知らせがどのような意味を持つのか、我々には窺い知れないところがある。これから起きることについて憶測を述べることは、あまり意味がないことではあろう。
ただ、いくつか明らかになっている点や、アミューズ在籍時代のエレカシの活動から考えるに、何かが起きていること、そして変化のタイミングとなっているとは言えるのではないか。
筆者としては、アミューズに移籍前後からのエレカシに関しては違和感を持つことの方が大きかったのが率直な意見である。
この記事では、できるだけ“恨み節”にはならないように注意し、アミューズ在籍時代のエレカシを振り返りつつ、今後のエレカシに期待したいことを書いた。
今回の告知に至る流れと現時点で分かっていること・考えられること
エレファントカシマシ、宮本浩次 マネジメントに関するお知らせ#エレファントカシマシhttps://t.co/UQMBXozYBa
— エレファントカシマシ (@elekashi_ofcl) March 31, 2024
最初に今回の告知内容に至る流れ、告知の文章から分かることをまとめておきたい。
まずは告知に至る流れについて、筆者はファンクラブ(PAO)会員として得た情報も含め、以下の通りまとめてみた。
- 3月28日:ファンクラブ向けのお知らせハガキ(圧着ハガキ)発送のお知らせ(3月27日発送)とだけ書かれたメールが到着。
- 3月30日:圧着はがきに書かれたのと同様の内容として、アミューズとの契約満了、窓口が株式会社elephantsとなる旨のファンクラブ向けメールが到着。
- 3月31日:オフィシャルサイトで告知が正式に行われる。ネットニュース等でも話題となる。
- 4月1日:筆者(横浜市在住)のもとにファンクラブから圧着はがきが到着。
- 4月2日:お問い合わせフォームに関するファンクラブからのメール。株式会社elephantsのサイトオープン。
当初はファンクラブメンバー向けに、書面で告知するという流れをとりたかったようだ。しかし思いのほか、郵便の到着に時間がかかると見たのか、結局30日にメールで告知されることとなる。
この時点でも、一般解禁は3月31日であるから、SNS等での知らせることは控えるよう注意書きがあった。そして31日の正午に情報の一般解禁が行われている。
圧着はがきの到着は、一般解禁よりもさらに後になってしまっていた。こうした展開を見ると、ややドタバタと告知に向けた動きが行われていた感は否めない。
そして告知の全文については、株式会社アミューズのホームページに掲載されている。
この文章からも、いくつか読み取れることがあるように思う。
まずは「契約が満了」ということであり、契約が切られたというニュアンスでは一応ない。字義通りに読めば、決まっていた年数で契約が切れるタイミングで、更新しないという選択をしたということだ。
ただし”円満”なのかどうかは疑問が残る。
エレファントカシマシ・宮本浩次の窓口は株式会社elephantsになるとのことである。現時点ではこの会社については不明な部分が多く、どういう意味を持つのかはわからないことが多い。
PAOの会員情報を管理するシステムはアミューズのものを使う、とファンクラブ向けのメールには書かれていることから考えるに、アミューズとの関係は一部続くようである。
なお株式会社elephantsの法人登記情報については、以下で知ることができる。法人番号指定年月日が「令和6年3月27日」と、かなり最近の日付になっている点には注目しておきたいところである。
こうした点を総合すると、アミューズ的には形としては問題のない告知をしているが、ドタバタと退所が決まった感は否めない。
こちらのブログ記事で詳しく分析されている通り、円満な退所・独立であれば、もう少しスケジュール的に余裕を持った告知になるはずである。
さらにはエレファントカシマシの公式Xも紅白歌合戦出場時で止まっている点も大いに気なる。今年に入ってから何か事態が変化する出来事が起きたのかもしれないと読めてしまう。
なぜドタバタと告知をしたのか、なぜ紅白以来更新できなかったのか、なぜギリギリのタイミングで新たな窓口の会社が作られているのか、不可解な点は多い。
何かが“ズレて”いたアミューズ在籍時代
ここまでアミューズとの契約満了、窓口の移行への流れや意味するところを述べた。ただまだこれから何が起きるかわからない、というのが一番正直なところである。
とは言え、アミューズから抜けて環境が変わるということは、エレカシの活動に対して(もちろん宮本氏ソロも)何らかの影響を及ぼすこと、あるいは変化するためのものだったと言える。
筆者としては、アミューズ時代のエレカシを振り返れば、どんな形であれ、変化した方がいいのではないか、とは考えている。
それはアミューズ時代の少し前くらいから、エレカシの活動や作品に言いようのない違和感があり続けたからである。
ここではアミューズ時代のエレカシの活動を振り返りつつ、その違和感とはなんだったのか、見解を述べておきたい。
アミューズ時代のエレカシと違和感
最初にアミューズ移籍前後から今日までのエレカシについて少し振り返っておこう。
エレカシがアミューズに移籍したのは、2019年2月1日のこと。1月31日にフェイスミュージックエンタテインメントを退社しており、同年2月21日に発表していた。
アルバムとしては『Wake Up』をリリースした後であり、リリースツアーと年明けの新春ライブ2019を終えた後でのタイミングだった。現時点では『Wake Up』以降のアルバムリリースはない。
2018年から宮本浩次氏のソロ活動が始まっており、アミューズ移籍後ほどなくして、『冬の花』が2019年2月12日に宮本氏初のソロ作品としてリリースされている。
その後は、宮本氏のソロ活動が本格化し、エレカシとしての活動は限定的なものとなる。
折しも2020年よりコロナという事情が入ってきた訳だが、2022年までにワンマンライブが行われたのは以下の3本のみである。2021年には31年間続いていた日比谷野外大音楽堂公演も行われなかった。
- 2020年10月4日‐ 野音2020
- 2022年1月12日‐ 新春ライブ2022(日本武道館)
- 2022年9月25日‐ 野音2022(東京)
2023年に入り、デビュー35周年として久しぶりにエレファントカシマシとしての活動が本格化した。3月8日にシングル『yes. I do』をリリースしており、シングルCD盤リリースは5年4ヶ月ぶりだった。
3月12日から4月23日まで全国4か所、計9公演にわたる初のアリーナツアーである「35th ANNIVERSARY TOUR 2023 YES. I. DO」を行っている。
2023年はいくつかのフェスにも出演、10月8日には恒例の日比谷野外音楽堂も行った。10月25日にはシングル『No more cry』をリリースしている。
2020年~2022年頃はコロナがあり、2023年はしっかりエレカシとして活動している、という状況は確かにある。が、それを差し引いても筆者としては違和感の残るアミューズ時代である。
まずもって、アミューズ移籍は宮本氏のソロ活動本格化とリンクしており、どうしても宮本氏のソロ活動のために移籍が行われたと言っても良いように思える。
ソロ活動自体を否定するものでは全くないが、ソロに集中するのであれば、エレカシの活動は休止に入る、など立場を明確にしてほしかった。エレカシが宙ぶらりんの状態であったのが違和感の1つだ。
そして2023年のデビュー35周年の活動も、エレカシの継続的な活動の中で必然的に行われたものではない。それなのに、自身初のアリーナツアーがブッキングされるのも不思議である。
筆者も横浜アリーナ公演に参加したものの、どこか大人の事情で組み立てられたエンタテインメントという感じが拭えず、結局現在のような状況になっているところからも、宙に浮いた感じの活動だった。
宮本氏のソロ活動としては華々しいアミューズ時代だったと思うが、エレカシとしてのアミューズ時代は違和感が残るものだった。
エレカシとアミューズ時代の”ズレ”
アミューズ在籍時代のエレカシに持った違和感であるが、筆者の極めて主観的なものながら、それが何なのか言語化しておきたいと思う。
エレカシへの微妙な違和感の始まりは、宮本氏の急性感音難聴によりライブ活動を休止した辺りである。ちょうどシングル『ズレてる方がいい』をリリースした後のことである。
2013年に活動再開後のエレカシには何か言葉にしにくいものの違和感があった。復帰後にリリースされたシングル『あなたへ』などの楽曲の雰囲気、宮本氏のボーカルが今までと何かが違うのである。
どこか万全ではない状態のまま、一方で初のさいたまスーパーアリーナ公演や紅白初出場など、華々しい活動となっていくちぐはぐ感があった。
2018年のアルバム『Wake Up』は力作であったため、次の展開に期待していた。が、アミューズに移籍し、活動が実質的に休止状態に入ってしまったのだった。
そしてアミューズに移籍後はその違和感はさらに大きなものとなる。中途半端な活動状態、どこからともなくしてくるお金の臭い、それも結局は不完全燃焼のまま終わった印象がある。
また2023年の野音においては、外聴きを”お控えください”という対応も、どこかエレカシらしからぬ対応に思えて、個人的には違和感があった。
外まで音が聞こえてしまうことも含めて、ずっと続いてきた野音と言う風物詩であり、それを運営側から控えてくれ、というのはどこかお役所的な対応だったように思えた。
エレカシの良さは、1stアルバム収録の「ファイティングマン」に流れている「黒いバラとりはらい 白い風流しこむ」の精神だと思っている。
分かりやすくいってしまえば反骨精神であり、尖がった存在であり続けることだった。それも文学青年の静かなる怒りであり、内なる炎が燃え盛るようなものである。
しかし常に鬱屈としている訳でもなく、それでも前に向かって行くのだ、というヤケクソであり、力強さである。そこにエレカシとしての希望が常にあった。
筆者としては「ズレてる方がいい」までは、その立ち位置から”ズレた”ことはなかったが、アミューズ時代についにズレてしまった感があるのだ。
「ファイティングマン」「珍奇男」「奴隷天国」「悲しみの果て」「今宵の月のように」「ガストロンジャー」「友達がいるのさ」「俺たちの明日」「ズレてる方がいい」…とずっと繋がっている感覚だ。
エレカシ(と言うより宮本氏)は事務所やレコード会社など、環境が変わると露骨に影響を受けるところにも特徴がある。
アミューズ移籍だけが原因なのか分からないが、エレカシとしての変わらない立ち位置から”ズレて”しまった感じが、アミューズ移籍前後から筆者にはどうしてもしてしまった。
まとめ – やっぱりエレカシは“ズレてない方がいい”
今回の記事では、エレファントカシマシのアミューズから退所、株式会社elephantsへの移籍について、現時点で言えることやこれまでの違和感などについて述べた。
最後に今後のエレカシに期待したいことを書いておきたい。
どこまで”円満”だったのか定かではないが、ニュアンスとしては”独立”して活動するような形になりそうだ。それは新たな会社の名前、所属がエレカシ・宮本氏のみであることからも窺える。
この”独立”がどれほど周到に行われたのかによって、事態の深刻度が変わって来るというものである。
筆者としては、アミューズへの移籍は宮本氏のソロ活動の本格化とリンクしたものと考えている。しかしそのアミューズからエレカシのみならず、宮本氏のソロも含めて独立することとなった。
宮本氏ソロ活動も一定の役割を果たした、ということだろうか。筆者が期待するところは、やはりエレカシとしての本格的な活動再開である。
アミューズ在籍を継続することで、宮本氏ソロ活動+エレカシとしては実質休止状態が続くのだとすれば、”独立”は活動の方針が変わる可能性を増すものである。
”ズレてる方がいい”と歌ってアミューズに移籍したエレカシであるが、やっぱりエレカシとしては”ズレてない方がいい”と思うのが、筆者の正直な願いである。
事態の深刻度によっては、前途多難な可能性もあるものの、それでも筆者としてはどこかで”ズレて”しまったエレカシの活動がまた戻ってくることに期待したい。
※やっぱりエレファントカシマシに惹かれてしまう理由とは? – ずっと”未完成”の最強バンドの魅力
<35周年としてリリースされた映像作品>
・35th ANNIVERSARY TOUR 2023 YES. I. DO
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