ポケビ・ブラビといって通じる世代はどれぐらいいるだろうか?1990年代にテレビ番組の企画で誕生した音楽ユニット、ポケットビスケッツ・ブラックビスケッツである。
2023年の年末に「第74回NHK紅白歌合戦」の企画として21年ぶりに2つのユニットが共演する(紅白出場は25年ぶり)ことになり、にわかに注目を浴びている。
テレビの企画ユニットではあるが、音楽を担当した人物は非常に豪華であり、テレビ番組を知らずとも音楽的にも非常に高度で名曲揃いであるのが特徴だ。
そこで知らない世代の人にはポケビ・ブラビを知ってもらいつつ、改めてその音楽的な魅力、両者の音楽性の違いなどを楽曲とともに書いていきたい。
なお本記事はテレビ番組の企画に関する情報ではなく、2グループの楽曲について主に書いたものである。
ポケットビスケッツ・ブラックビスケッツとは?
ポケットビスケッツ・ブラックビスケッツとはどのようなユニットなのか、簡単に紹介しておこう。
両グループは日本テレビ系のバラエティ番組、『ウッチャンナンチャンのウリナリ!!』(1996-2002年放送)から誕生した音楽ユニットである。
ドキュメント系のバラエティ番組の音楽企画として、おまけのような形でポケットビスケッツが1996年、先にデビューすることになった。
デビュー曲「Rapturous Blue」がヒットし、ポケットビスケッツは企画の中心になっていった。
後に対決企画が行われる中でブラックビスケッツが1997年に登場し、「STAMINA」でデビュー。両者ともにヒットを飛ばすこととなる。
リリースやユニット解散をかけた2グループの対決が何度も行われ、ポケットビスケッツの新曲リリースのための100万人署名運動など当時は社会的なムーブメントとも言える現象となっていた。
ポケットビスケッツはシングル3枚(「YELLOW YELLOW HAPPY」「Red Angel」「POWER」)がそれぞれ100万枚、ブラックビスケッツは「Timing」が200万枚を売り上げている。
もはや番組を視聴していない層(筆者もそうだったが)も、楽曲を評価して聴かれていたことが分かる。
1998年の第49回NHK紅白歌合戦に「ポケットビスケッツ&ブラックビスケッツ スペシャルバンド」として出場し、「POWER & Timing 大晦日MIX」をメドレー形式で披露した。
そして2023年の第74回NHK紅白歌合戦、テレビ放送70年特別企画「テレビが届けた名曲たち」のコーナーで両者が出演し、「YELLOW YELLOW HAPPY~Timing」を披露することが決まった。
なお両グループの歴史は、ポケットビスケッツのWikipedia等にかなり詳しく書かれているので、興味のある方はお読みいただきたい。
ポケットビスケッツと作品について
ポケットビスケッツのメンバーは、TERU(内村テル)、CHIAKI(坂本千秋)、UDO(独活野大木〈うどのたいぼく〉)の3人。楽器を弾くバンドと言うスタイルをとっていた。
6枚のシングルと1枚のアルバム、またベストアルバムもリリースしている。
<ポケットビスケッツのシングル曲>(カッコ内は発売日)
- Rapturous Blue(1996年4月17日)
- YELLOW YELLOW HAPPY(1996年9月4日)
- Red Angel(1997年1月22日)
- GREEN MAN(1997年6月18日)
- POWER(1998年7月22日)
- Days/My Diamond(1999年7月23日)
アルバム:『Colorful』(1997年7月16日)
ベストアルバム:『THANKS』(2000年3月24日)
ブラックビスケッツと作品について
ブラックビスケッツのメンバーは、南々見狂也、天山ひろゆき、ビビアンの3人。なお1999年にケディが加わって4人となったが、近年の再結成後は当初の3人で活動している。
楽器を弾くポケットビスケッツに対して、ダンスユニットの色合いが強い。当初はポケットビスケッツに対するヒール役だったが、後にイメージチェンジをした。
4枚のシングルと1枚のアルバムをリリースしている。
<ブラックビスケッツのシングル曲>(カッコ内は発売日)
- STAMINA(1997年12月3日)
- Timing(1998年4月22日)
- Relax(1998年10月21日)
- Bye-Bye(1999年5月26日)
アルバム:『LIFE』(1999年5月26日)
ポケットビスケッツ・ブラックビスケッツの音楽性と魅力
ポケットビスケッツ・ブラックビスケッツはお互いにライバル関係であったように、音楽性の面でも両者は異なる魅力を持つユニットだったように思う。
筆者のように、テレビ番組の企画を詳しく知らずとも、純粋に音楽として楽しめるのである。改めてその楽曲を聴いてみて、楽曲のジャンルなど音楽的な側面についてここでは語ってみた。
ポケットビスケッツはプログレ風ロック
ポケットビスケッツの音楽性はかなり明確に定まっているように思える。ポケットビスケッツはプログレ風のロックを目指した楽曲が多くなっている。
ポケットビスケッツの作曲・プロデュースを担当したのは、爆風スランプのパッパラー河合であった。代表的な楽曲は1996年リリースの2ndシングル「YELLOW YELLOW HAPPY」である。
この曲では印象的なキーボードによるイントロから始まり、ハードなギターサウンドと打ち込みのドラムを中心に、時折不穏な旋律やアンビエントなサウンドを織り交ぜつつ進行していく。
とりわけこの曲と次作「Red Angel」では、どこか異国風の旋律を織り交ぜた独特のサウンドに仕上がっている印象である。
こうした要素はパッパラー河合氏の中にあるハードロック的サウンド、そして何よりプログレッシブロックが持つ抒情性や難解さ・不気味さのようなものを感じ取ることができる。
ポップなメロディラインを軸には置きつつも、こうした70~80年代のロックやプログレの要素を取り入れたところが音楽的に大変興味深い。
当時の爆風スランプの楽曲もまるでポケビのような楽曲があるくらいであり、この方法論が彼の中でハマったのかもしれない。
※ちなみに爆風スランプの1997年のアルバム『怪物くん』収録の「恋愛妄想ショー」はサウンドもメロディラインもポケビの曲と言っても良い。
さらにより直接的にプログレのオマージュと言える楽曲もある。アルバム『Colorful』収録の「Pink Princess」のイントロをお聞きいただきたい。
これはKing Crimsonの1973年のアルバム『Larks’ Tongues in Aspic(太陽と戦慄)』収録の「Larks’ Tongues in Aspic, Part Two」のイントロのオマージュではないか、と思っている。
このような細かい遊びからも、プログレ風ロックを土台にした楽曲が一貫していたことが窺える。
ブラックビスケッツはダンスミュージック寄りのポップス
ブラックビスケッツはポケットビスケッツの敵役としてスタートしたことも関係するのか、ポケットビスケッツに比べると音楽的な統一感は緩やかに思われる。
ポケビが楽器を弾くスタイルであれば、ブラビはダンスを踊るのが特徴であり、必然的にダンスミュージックを主体とした楽曲となっている。
なおブラックビスケッツは特定の人物が作曲・プロデュースをするのではなく、楽曲ごとに名だたるシンガーソングライターや作曲家が名前を連ねている。
またブラビのキャラクターの変化も楽曲に影響を与えている。1997年のデビュー曲「STAMINA」(作曲:林田健司)は悪役のキャラクターだった時代のためか、ややヘヴィなファンク曲になっている。
その後イメージを変えて、最大のヒット曲である1998年の「Timing」では明るく爽快なダンスナンバーになっており、その作曲は中西圭三氏が担当している。
こうしたダンス要素を加えたポップスは、当時のJ-POPでもかなり主流だった印象があり、「Timing」はポケビ以上に直球で分かりやすく良い曲だったことで、大ヒットに結びついたのかもしれない。
なお2021年にKlang Rulerがカバーしたバージョンが、2022年頃にTikTokで流行し、ブラックビスケッツ復活のきっかけとなっている。
令和の今になってTimingが流行ったことからも、やはり普遍的なビートやメロディを持つことが分かる。さすがにプロの作曲家たちが名を連ねたことが、名曲として受け継がれているのではないか。
なおオマージュと言う意味では、1998年の3rdシングル「Relax」は作詞:森浩美、作曲・編曲:小森田実の組み合わせは、まさしくSMAPの「SHAKE」を思わせるものである。
そして曲調やアレンジ面でもそっくりと言っても良い仕上がりになっている。
ブラックビスケッツはポケットビスケッツに比べれば、”クセ”は弱めであり、当時のJ-POPらしい曲調・サウンドである。
その中でも、ファンクやR&Bなどのダンスミュージックの影響を感じさせるビートが特徴と言っても良いだろう。
まとめ
今回は90年代に一世を風靡したポケットビスケッツ・ブラックビスケッツについて紹介した。
テレビ番組企画で誕生したユニットながら、その音楽的なレベルは非常に高く、それゆえ番組を視聴していない層まで巻き込んだ大ヒットに繋がったと考えられる。
最初に誕生したポケットビスケッツは、作曲・プロデュースに爆風スランプのパッパラー河合氏を迎えたことで、彼のハードロック・プログレへのリスペクトを感じるサウンドに仕上がっている。
一方でブラックビスケッツは、ポケビほど音楽的なコンセプトは明確ではないが、ダンスミュージックを中心に据えつつ、ポップな良曲が揃っている。
当時、番組企画ではあり得ない予算が組まれて、楽曲制作やMV撮影等が行われたというエピソードも聞かれる。
90年代、音楽が巨大なビジネスであったこと、そして音楽を欲するリスナーがたくさんいたことを物語っているようにも思える。
2023年になり、もう一度紅白歌合戦に両ユニットが登場するというのも驚いたが、やはり良質な楽曲が求められているのではないか、とも思う。
今後も両ユニットの活動が続いていくのか、期待したいところである。
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