活動35年に迫ろうとする日本のハードロックバンド人間椅子、その作品数もかなり多くなっている。これまで発売されたオリジナルアルバムは22枚(2023年7月現在)である。
歴代のアルバムの中には様々な”第1位”が存在する。むろん記録を目指してアルバムが制作されている訳もないが、長年の活動で作風が変化し、その当時の特徴が表れた結果と言えるだろう。
今回は人間椅子のアルバムの中で様々な”第1位”となった作品を紹介し、その事情や背景なども含めて紹介したいと思う。
人間椅子の様々な”第1位”のアルバム紹介
人間椅子がこれまでリリースしたオリジナルアルバム全22作(2023年7月現在)の中で、様々な第1位を紹介する。
人間椅子の作風は基本的には変わらないが、作詞・作曲のあり方や収録曲数など、時代とともに変化してきた部分もある。
「昔はこんな時代もあった」「今はこうなっている」など歴史を感じられるようなテーマを筆者が選び、第1位の作品を中心に書くこととした。
収録曲数の第1位は?
最初は最も収録曲数の多いアルバムである。第1位は2019年の21stアルバム『新青年』であり、収録曲数は14曲である。
バンド生活30周年を記念して制作された本作は、YouTubeの再生回数を大きく伸ばした「無情のスキャット」を収録するなど、非常に気合の入ったアルバムであった。
ただ収録曲数に関しては、正式には13曲である。14曲目に収録された「地獄のご馳走」はボーナストラックと言う扱いで、サブスクリプション等では配信されておらず、CD限定である。
なお「地獄のご馳走」については、鈴木氏によるスラッシュメタル調の地獄シリーズとして作られたが、和嶋氏に「突き抜けない」と言われ、ボツになりかけた楽曲のようである。
しかし鈴木氏は和嶋氏の指摘から曲を直したところ、ちょうど「新青年まえがき」を追加で録音することになったタイミングで、録音することができたようで、ボーナストラックとして復活したそうだ。
ライブでも披露されている楽曲なので、14曲目の正式な楽曲でも良いのではないかと思うところだ。
収録時間第1位は?
続いて最も長い収録時間のアルバムについてである。ちなみにCDの収録時間は、かつて74分だったが、最近では80分まで収録できるようになっているそうだ。
そうした背景からか、かつての人間椅子のアルバムは長くても74分に収まっていたが、その記録が破られたのが、2009年の15thアルバム『未来浪漫派』である。
本作の収録時間は74分50秒で、いまだ歴代最長のアルバムである。曲数は13曲ながら、9分23秒の「深淵」、8分54秒の「塔の中の男」など、1曲がかなり長い曲が収録されている。
なお前作の2007年の14th『真夏の夜の夢』も73分05秒とかなり長かったが、次作であっさりと記録を破っている。
しかしその後の作品では、収録曲数は12~13曲と変わらないが、収録時間はこの当時よりは短くなる傾向にあった。
2010年前後、和嶋氏の作風に実験的な要素が強く、長尺の楽曲が多数生まれていた背景がある。そのためこの時期のアルバムはとりわけ収録時間が長いのだ。
ダウンチューニング曲数の第1位は?
人間椅子のアルバムには、ギター・ベースのチューニングが2種類の楽曲が収録されている。ノーマルチューニング・ダウンチューニングの2種類である。
楽器を弾かない人には馴染みがないかもしれないが、よりヘヴィなサウンドを作り出すため、ギターのチューニングを下げて、低い音が出るようにする、というのが昔から行われている。
人間椅子の場合は1音半下げて、最も低い音がC#になるようにチューニングされる。これはBlack Sabbathが行っていたチューニングで、影響を受けたものと思われる。
1991年の2nd『桜の森の満開の下』よりダウンチューニングが導入され、「東京ボンデージ」「太陽黒点」で初めて披露された。以後、人間椅子のアルバムでは何曲かずつ収録されている。
近年、ダウンチューニング曲数の増加がみられており、最大収録曲数となったのが2021年の22nd『苦楽』であり、その曲数は7曲(全13曲入り)で、アルバムの半分以上となった。
しかも1曲目の「杜子春」から4曲目「暗黒王」まで4連続でダウンチューニングとなったのも初のことである。
これまでのアルバムではダウンチューニングが2~4曲程度で、アルバムの味付け的な位置だったが、最近は中心的な楽曲になっている。
※【アルバムレビュー】人間椅子 – 苦楽(2021)かつてないほど”現代”と向き合った超充実作
オリコンチャートの歴代第1位は?
なかなか”売れる”ことと縁の薄い人間椅子ではあるが、近年は”再ブレイク”とも言われるほど、人気が高まっている。そんな状況を端的に示しているのが、オリコンチャートの順位である。
人間椅子のアルバムの中で、オリコンチャート順位の歴代1位だったのは、2019年の21stアルバム『新青年』であった。その順位は14位である。
人間椅子と言えば、かつて”イカ天”というテレビ番組をきっかけにデ、1990年の1st『人間失格』でデビューしている。このデビュー盤が最高位かと思ったら、順位は31位だった。
当時と今では順位と枚数の対応はずいぶん違うであろうが、それでもデビュー30年を経て、最高位を獲得しているのは凄いことである。
しかも2000年代後半からずっとオリコンチャートの順位を上げてきており、一過性のブームなどではなく、着実にファン層を拡大してきたことが窺える。
ドラマーが歌う曲数の第1位は?
人間椅子は作曲者がボーカルを取る、というルールが基本のようである。そのため、基本的には和嶋慎治・鈴木研一の2人がボーカルを取ることになる。
その中でドラマーがボーカルをとることがあり、だいたいアルバムに1曲程度であることが多い。その中で、ドラマーが歌う曲数の歴代1位はどのアルバムだろうか。
それは2006年の13th『瘋痴狂』である。ドラマーであるナカジマノブが3曲もボーカルを取っているのは、本作が最多である。
ちなみにその3曲とは、「ロックンロール特急」「無慈悲なる青春」「孤立無援の思想」であり、そのうち「無慈悲なる青春」では人間椅子に加入して初の作曲にもトライしている。
3曲もボーカルを取ることになったのは、ナカジマ氏の歌が上手いことが理由の1つにあったようだが、”新生”人間椅子を模索する過程での試みでもあったのかもしれない。
なお次に多いのは、1999年の8th『二十世紀葬送曲』であり、後藤マスヒロが2曲を歌っている。「不眠症ブルース」では作詞・作曲も担当し、ドラマーが作詞を行ったのはこの曲が唯一である。
「作曲:和嶋慎治」の曲数の第1位は?
人間椅子の作曲は和嶋慎治・鈴木研一の2人が中心であるが、そのバランスは時代によって少しずつ変化している。どちらが多いかによって、アルバムのカラーも異なってくる。
ギターの和嶋慎治が作曲している楽曲数の最も多いアルバムは、2011年の16th『此岸礼讃』と2014年の18th『無頼豊饒』であり、いずれも8曲(どちらも全13曲入り)である。
この時期はアルバム収録曲数が12~13曲と、かつて10~11曲程度だったところから、まず増えている。そして和嶋氏の勢いが最も盛んだった頃でもある。
2009年の『未来浪漫派』頃から鈴木氏よりも和嶋氏の楽曲数が多くなり始め、その流れが定着した。
8曲と特に多い2作に共通するのは、漢字4文字によるタイトルで、いずれも和嶋氏による造語である。いずれも和嶋氏の中ではコンセプトがしっかりあるが、やや難解な印象も与えるものだ。
「作曲:鈴木研一」の曲数の第1位は?
一方でベース鈴木研一による作曲の最も多いアルバムはどれだろうか。2009年『未来浪漫派』を境目に和嶋氏の楽曲が増えたことから、全体的にはそれ以前の作品と言うことになる。
しかし割合ではなく曲数でみると、実は2021年の22nd『苦楽』が最も多く、7曲を担当している(全13曲入り)。
ナカジマ氏のボーカル曲は、ナカジマ氏・和嶋氏による楽曲が多いが、本作では「至上の唇」が鈴木氏による作曲であり、鈴木氏による楽曲が多くなっている。
前作の『新青年』までは和嶋氏の作曲の方が多い流れがずっと続いていたが、『苦楽』で鈴木氏の方が多いと言うかつての流れに戻った。今後その流れが続くのか、注目である。
なお昔の作品に遡ると、2000年の9th『怪人二十面相』や2001年の10th『見知らぬ世界』もアルバム曲数が多いものの、鈴木氏の作曲は6曲であった。
和嶋・鈴木による共作の曲数の第1位は?
かつての人間椅子は、作曲に和嶋慎治・鈴木研一の2人の名前が並ぶことが多かった。2人のリフや展開を持ち寄って1曲に仕上げる、ということが昔はよく行われていた。
それは大学時代にお互いの家を行き来しながら、人間椅子の楽曲が生まれていたアマチュア時代からの流れもあったのだろう。
1995年の5th『踊る一寸法師』以降は、基本的に単独の作曲に移行し、数年間はアルバムに1曲ずつ程度、共作が残り続けていた。
そんな過去のアルバムの中でも、最も共作が多いアルバムが、1992年の3rd『黄金の夜明け』である。共作は6曲であった(全11曲)。
初期の3枚のアルバムはいずれも半分くらいが共作であり、ある意味、人間椅子の青春が詰まった3作と言って良いかもしれない。
中でもプログレッシブな要素を感じさせる、長尺の楽曲が多い『黄金の夜明け』は、2人の共作曲が光るアルバムと言えるだろう。
※【人間椅子】和嶋慎治・鈴木研一の共作曲一覧 – その魅力となぜ共作をしなくなったのか?
「作詞:鈴木研一」の曲数の第1位は?
最後に作詞に関する内容である。人間椅子の歌詞の多くは、ギターの和嶋慎治が担当しているが、一部には鈴木研一による作詞曲もある。
鈴木氏自身は「自分には作詞の才能はない」と近年は特に作詞をアルバムに1曲程度と決めているようだ。しかしかつての作品では、複数曲で作詞を担当していたこともあった。
そこで鈴木研一による作詞曲が最も多いアルバムを調べたが、3作品が並んだ。いずれも4曲作詞しており、1998年の7th『頽廃芸術展』・2000年の9th『怪人二十面相』・2003年の11th『修羅囃子』だ。
中でも『修羅囃子』は11曲入りのアルバムで4曲であり、鈴木氏による歌詞の割合が最も高いアルバムだ。
一方で和嶋氏が作詞した楽曲の多いアルバムは、近年の作品ほとんどであり、12曲が最大である。
まとめ
今回は人間椅子の歴代アルバムの中から、様々な第1位を選んで紹介した。
こうしていろいろな角度から選んでみると、作品の特徴が見えてきて面白い。また特定の時期に特徴があるなど、人間椅子の歴史も見えてくる。
近年になるほど収録曲数や時間数などが増えており、それに伴って第1位となった作品も新しい作品が多めとなっていた。
レコード会社から10曲くらいのアルバムだと「少ない」と言われてしまう実情もあるようだが、その分充実した作品を聴くことができる。
2023年9月6日には、2年ぶりとなるアルバム『色即是空』がリリース予定である。本作で新たな”第1位”が生まれるのか、楽しみにしたいところである。
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