今年活動49年目となる、シンガーソングライター南佳孝。毎年夏の終わりの時期に開催されるライブ「Simple Song」で、今年はゲストに作詞家の松本隆氏を迎えて行われた。
曲目は「作詞:松本隆、作曲:南佳孝」による楽曲のみで構成される。9月3日に大阪公演が行われ、10日に東京の大手町三井ホールで開催された。
今回はライブ「南佳孝 松本隆を歌う Simple Song 夏の終わりに」の模様をレポートする。筆者は事前に「作詞:松本隆、作曲:南佳孝」による楽曲を一覧表にした記事を作成していた。
選曲についても振り返りつつ、南・松本両氏の関係についても思いを馳せてみた。
※【南佳孝】”作詞:松本隆、作曲:南佳孝”の全楽曲の一覧表+収録作品別の楽曲紹介
開演まで・NIGHT AND DAY 水曜日の美術室 南佳孝作品展
9月10日(土)、カラッとした秋晴れ。会場は大手町三井ホール、初めて行く会場だが、皇居の近くである。
OTEMACHI ONEというオフィスや商業施設の入った巨大ビルの中にある。
会場では常に入場列ができており、来場している人数も多いことが分かる。ざっと見渡して、今回も来ている中では30代半ばの筆者が最年少の部類に入りそうであった。
入場すると「NIGHT AND DAY 水曜日の美術室 南佳孝作品展」と題して、絵画が展示されていた。
全く予備知識なしだったのだが、南氏のラジオ番組NIGHT AND DAYの企画で自身が描いた絵画が展示されているとのことだそうだ。
番組ブログでも作品が紹介されているが撮影可とのことだったので、こちらにも展示されていた作品を掲載する。
南氏と言うと、アルバムのジャケットに絵画作品を使うことが多く、絵画への思いが強いことは窺えた。
そして南氏の楽曲は、どこか風景が思い浮かぶような楽曲だなと感じていたが、こんな素晴らしい絵画を描く人なのだと思うと、妙に納得できた気分であった。
ここに描かれたのはどれも松本隆氏が作詞したタイトルのもの。今回演奏される楽曲たちなのだろうか、と考えつつ会場に入った。
ライブレポート:南佳孝 松本隆を歌う Simple Song 夏の終わりに
16時開演、メンバーは以下の通りである。
- 南佳孝
- 住友紀人(Key & Sax)
- 松本圭司(Pf)
全曲「作詞:松本隆、作曲:南佳孝」による楽曲、そしてゲストには松本隆氏も登場した。
ライブのセットリストに関して、その他演奏や南氏・松本氏のトークなどについて、ライブをレポートする。
ライブの流れ・セットリスト
ライブは16時ちょっと過ぎたあたりでスタート。カメラが入り、収録している様子であった。
メンバーと南氏が登場すると、最初に披露されたのは1stアルバム『摩天楼のヒロイン』から「摩天楼のヒロイン」の冒頭部分。
ピアノとキーボードの2人ながら重厚な演奏、そのまま「おいらぎゃんぐだぞ」へ。やはり最初は『摩天楼のヒロイン』からだろうと思っていた通りだった。
「ピストル」を披露した後に、南氏からのMC。「歴史の順番でやるとわかりやすいが、ライブとしては選んでやっていく方がやりやすい」とのことで、ここからは時代はバラバラで演奏されていく。
やはり『摩天楼のヒロイン』だけは、南氏にとって本格的な自身の作品というより、松本氏と作ったちょっと別の位置づけの作品である、という認識なのだろう。
ここからは印象に残った曲などを中心にレポートしたい。
「憧れのラジオガール」から始まり、前半はライブではよく披露される・ファンから人気の高い曲を演奏している印象だった。
筆者がよくライブに行っていた2010年代前半~半ば頃、ライブ盤にもなった『All My Best』や『My Back Pages』に収録された楽曲が中心になっているように思われた。
椅子に座って演奏していた南氏が立ち上がって、「ダイナー」「Girl」を披露。「Girl」演奏前には、松本氏に「君はサビが弱い」と珍しく厳しいことを言われたエピソードが印象的だった。
確かに歌謡曲的な突き抜けるサビは南氏は作らない気もするが、それが良さとも言える。さりげない名曲、それが南氏の真骨頂とも言える。
ライブ中盤は、1982年の7thアルバム『SEVENTH AVENUE SOUTH』から多数披露された。あまりライブでは聴いたことがない「Cool」「天文台」が聴けたのは嬉しかった。
ニューヨークでのレコーディングに松本氏も来たこと、多数の関係者がいたことなど、当時のエピソードも話された。
”ジャズ”をテーマにした作品であり、今回の編成でも演奏しやすい楽曲群だったようにも思われる。
そして後に『冒険王』『LAST PICTURE SHOW』で南・松本のタッグが組まれる、布石になったのがこのアルバムだったのではないか、と思う。
南氏は「曲作りでは風景が浮かんだらOK」と述べていたように、本作はどれも風景が浮かんでくる、そんな名盤である。
ライブ後半では、新しい楽曲の「遥かなディスタンス」やドラマ主題歌になった「二人のスローダンス」など、ポイントを押さえた選曲がなされていた。
なお『冒険王』は2人で作り上げたアルバムながら、選曲が予想できた「スタンダード・ナンバー」「冒険王」以外は、「PEACE」のみ。
「PEACE」もレアな選曲に思えたが、やはり清水信之氏による宇宙的なサウンドは今回の編成では再現が難しかったのか。
終盤の「Paradiso」は2002年の『BLUE NUDE』バージョンでの披露。難しい演奏に聞こえたが、3人の息が見事に合った、この日のハイライトの1つだったように思う。
ラストは「スタンダード・ナンバー」で締められ、終わった後で南氏は「前に何か言えば良かった」と言いながらステージを去る。
アンコールは最重要楽曲を立て続けに3曲披露。「冒険王」ではマイクを手に持ち、最初座って歌い始めるかと思ったら、立って歌を披露した。
やはり「冒険王」には南氏・松本氏の思いが詰まっているのか、この曲もハイライトの1つだったように思う。
最後は2人による最大のヒットとも言える「スローなブギにしてくれ」でブルージーに締める。約2時間半、23曲を一気に駆け抜けたライブだった。
以前筆者は「作詞:松本隆、作曲:南佳孝」の楽曲を一覧にした記事を作成した。MCでは「80曲ある」と語っておられたが、筆者調べでは74曲。
今回披露されたのは、やはり普段ライブでも披露されている楽曲が多めであり、80年代中盤の2人がしっかりタッグを組んでいた頃の楽曲中心であった。
中でも『SEVENTH AVENUE SOUTH』は2人のタッグによる楽曲は全て演奏された。それだけ思い入れの強い作品と言うことなのだろう。
一方で、シングルのみのレア曲や1997年の『SKETCH OF LIFE』からの演奏はなかった。
”松本隆を歌う”と言うテーマであると同時に、南佳孝のベスト選曲と言っても良いセットリストだったようにも思う。
【セットリスト】
※永井裕子氏のnote「cafebleu」を参考にさせていただいた。
- 摩天楼のヒロイン(イントロのみ、摩天楼のヒロイン)
- おいらぎゃんぐだぞ(摩天楼のヒロイン)
- ピストル(摩天楼のヒロイン)
- 憧れのラジオガール(MONTAGE)
- ジョンとメリー(LAST PICTURE SHOW)
- 口笛を吹く女(Seventh Avenue South)
- 月に向かって(MONTAGE)
- ダイナー(LAST PICTURE SHOW)
- Girl(VINTAGE)
- 夏服を着た女たち(Seventh Avenue South)
- Scotch and Rain(Seventh Avenue South)
- 涙のステラ(SILKSCREEN)
- 波止場(Seventh Avenue South)
- 天文台(Seventh Avenue South)
- Cool(Seventh Avenue South)
- 遙かなディスタンス(ROMANTICO)
- 二人のスローダンス(シングルのみ)
- 夜の翼(MONTAGE)
- PEACE(冒険王)
- Paradiso(BLUE NUDE)
- スタンダード・ナンバー(冒険王)
- en1. Simple Song(SPEAK LOW)
- en2. 冒険王(冒険王)
- en3. スローなブギにしてくれ(SILKSCREEN)
3人による抜群の演奏と穏やかな時間
今回のライブでは、南佳孝(Vo & Gt)、住友紀人(Key & Sax)、松本圭司(Pf)という3人の編成であった。
9月3日に行われた大阪公演では、松本圭司氏が新型コロナウイルスに感染し、出演できないハプニングもあった。今回は無事に、予定されていたメンバーでの演奏と言うことである。
いわゆるリズム隊なしの演奏であり、アコースティックな雰囲気になるかと思っていたが、思っていた以上に立体的なサウンドになっていた。
そして3人の息が合った、グルーブの良い演奏だったと感じた。
やはりシンセを操っていた住友氏の活躍が大きかったように思う。多くの楽曲で、住友氏はキーボードでベース部分を弾いていたことで、リズムがぐっと良くなっていた。
また「憧れのラジオガール」では、この曲のためにボコーダーを使用。音源を再現しようと言う思いが伝わってきた。
時に松本のピアノと絡み合い、サックスも披露し、とかなり大忙しの様子だったが、素晴らしい演奏を披露しつつ、バンドを引っ張っていた印象だった。
松本氏のピアノは終始楽しそうな様子。後姿しか見えないが、身体を動かしながらのアクティブな演奏だった。
なお南氏はと言うと、この日は淡々とした演奏と言った印象だった。ご本人も終盤に「淡々とやって来ましたが」と語っていた通り、そういうモードの日だったのだろうと思う。
松本隆の歌詞が主役の1つでもあり、詞を大切に伝えるという緊張感もあったのかもしれない。
松本隆とのアルバムのページをめくっていくような、淡々と、でも穏やかな時間が流れるようなライブだったように思う。
50年来の友情が結ぶ絆
開演前のマイクチェック、ロビーに飾られる佳孝の絵の前で。 pic.twitter.com/N2nlZ0KaVb
— 松本 隆 (@takashi_mtmt) September 10, 2022
最後に、松本隆氏とのトークについて触れておこう。
松本氏は序盤に1回、アンコールの最初に1回、計2回ステージに現れた。もっと登場するのかと思っていたが、思ったよりは登場時間は短かった。
松本氏・南氏の出会いの頃の話が出ていた。はっぴいえんどが解散するにあたり、メンバー全員がバンドを作れ、という話も飛び出し、そこから南氏との出会いに繋がっていった。
南氏が「いつ東京に来たの?」と尋ねると、松本氏は「2日前、孫に洋服とか買っていた」と、友だち同士の会話になっていたのも面白かった。
またふいに南氏が松本氏の妹さんの話題を振り、大瀧詠一氏の「君は天然色」の歌詞が亡くなった妹について歌ったものであることを語っていた。
こうした話題も、長年の関係性があってステージ上でできる話題のようにも思われた。
そしてお互いの楽曲、歌詞をたたえ合い、「友達で良かった」と言葉にする2人が素敵だった。デビューの頃からなので、50年来の友人なのだと言う。
50年来の友人、とはどんな感覚なのだろう。まだ30数年しか生きていない筆者には途方もない時間のようにも思われた。
離れたり近づいたりしながらも、ずっとお互いを尊敬し、音楽を紡いできた2人。こんな関係の友人がいることが素晴らしいなと思うライブでもあった。
南氏は来年で活動50年となる。「また一緒に曲を作りたいね」などと言う話も飛び出し、「何でもやるよ」と言う松本氏。
ぜひ50周年を記念するような楽曲には、松本氏を作詞に迎えて制作されることを楽しみにしたいと思う。
なお12月には追加公演として「南佳孝 松本隆を歌う~いつもこころに冒険王~」も決定している。また違った曲目となるのか、続報を楽しみに待ちたい。
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