結成から25年を迎える愛媛発のロックバンド、ジャパハリネット。彼らは2007年に一度解散を経て、2015年に再結成をして活動を継続している。
ジャパハリネットは解散するまでに、5枚のオリジナルアルバムをリリースしている。”青春パンク”ブームが盛り上がり、衰退する時代を駆け抜けた5枚には、その変化も垣間見ることができる。
今回はジャパハリネットの解散前の全オリジナルアルバムのレビューを行い、その特徴や変化をまとめた。また5枚の作品を通じて、”ジャパハリらしさ”とは何なのか、考察することにした。
※ジャパハリネットの紹介・再結成後の活動についてはこちら
ジャパハリネット解散前までの全アルバムレビュー
ジャパハリネットは結成された1999年から解散する2007年までの間、シングル8枚・オリジナルアルバム5枚・ベストアルバム1枚をリリースしている。
オリジナルアルバムについては、インディーズ時代が1枚、メジャーで4枚を発表している。ここでは時系列に沿って、5枚のアルバムについて全体の特徴や関連情報を含めてレビューを行う。
1st『満ちて来たる日々』
- 発売日:2002年11月1日、2008年2月1日(再発)
- レーベル:DUKE RECORDS/MAD MONSTER
No. | 曲名 | 作詞 | 作曲 |
---|---|---|---|
1 | It’s a human road | 鹿島公行 | 鹿島公行 |
2 | 少年の空 | 鹿島公行 | 鹿島公行 |
3 | 贈りもの | 城戸けんじろ | 城戸けんじろ |
4 | はりねずみな男 | 城戸けんじろ | 城戸けんじろ |
5 | サブリミナル | 鹿島公行 | 鹿島公行 |
6 | 心の音 | 鹿島公行 | 鹿島公行 |
7 | 路上(Instrumental) | – | ジャパハリネット |
8 | 栄華の花 | 鹿島公行 | 鹿島公行 |
9 | 夏の憧憬 | 鹿島公行 | 鹿島公行 |
10 | 光明 | 鹿島公行 | 鹿島公行 |
ジャパハリネットがインディーズ時代に唯一リリースしたアルバムである。本作はジャパハリの原点にして、ジャパハリの全てが既にここに詰まっていると言っても良い名作中の名作だ。
今でもライブの中核を担う代表曲がてんこ盛りのアルバムである。逆に言えば、ここまで名作を1作目に作ってしまうと、後の作品が常に1作目と比較されてしまうという憂き目に遭うとも言える。
まずもって、「It’s a human road」「贈りもの」「光明」と言う、ライブで必ず盛り上がる鉄板曲が全て詰まっている凄さである。
それだけでも本作の素晴らしさを語ることができるが、凄いのはそれだけではない。まず1作目にして、アルバムのトータル感が完璧である。
ベースの鹿島氏が作る、思春期の少年をテーマにしたような内省的でヒリヒリした感覚の楽曲と、ボーカルの城戸氏が作る底抜けに明るくなるような楽曲が、見事に作中で混ざり合っている。
「少年の空」「サブリミナル」のようなシリアスなパンクの間に、「贈りもの」「はりねずみな男」と言った陽気な楽曲が挟まり、緩急のバランスも絶妙だ。
この内省的な部分と底抜けの明るさのバランスこそ、ジャパハリネットらしさだと言える。しかしこのバランス感覚は、完璧に狙って作られた感じではなく、自然にやってできたのが本作と言う感じだ。
「心の音」「夏の憧憬」と言った落ち着いた曲、マイナー調の「栄華の花」もアルバム後半を支える重要曲である。
おそらく偶然的な要素(偶然はないのだが)も手伝って、奇跡的なバランスの名作が第1作となったのは幸か不幸か、大きな注目を浴びる一方、自らの大きなハードルとなった作品ではあるだろう。
なおベストアルバム『天国ベスト〜BEST FIRE OF HEAVEN〜』では、「はりねずみな男」「サブリミナル」「路上」「栄華の花」以外の何と6曲が新録で収録されている。
アレンジ面ではまだ未熟さも感じられつつ、硬質なギターと全体的にソリッドなサウンドは聴きやすいものになっていると思う。
2nd『現実逃走記』
- 発売日:2004年2月18日
- レーベル:TOY’S FACTORY
No. | 曲名 | 作詞 | 作曲 |
---|---|---|---|
1 | 若葉咲く頃 | 鹿島公行 | 鹿島公行 |
2 | 蹴り上げた坂道 | 鹿島公行 | 鹿島公行 |
3 | 哀愁交差点 | 鹿島公行 | 鹿島公行 |
4 | 鼓動の矛先 | 鹿島公行 | 鹿島公行 |
5 | 楓葉 | 鹿島公行 | 鹿島公行 |
6 | 絶望の風 | 鹿島公行 | 鹿島公行 |
7 | アウトロスター | 鹿島公行 | 鹿島公行 |
8 | 夏みかん | 城戸けんじろ | 城戸けんじろ |
9 | ジオラマの花 | 鹿島公行 | 鹿島公行 |
10 | 最果ソング | 城戸けんじろ | 城戸けんじろ |
11 | ワスレナコウタ | 鹿島公行 | 鹿島公行 |
12 | 物憂げ世情 | 鹿島公行 | 鹿島公行 |
13 | ライムライト | 鹿島公行 | 鹿島公行 |
インディーズ時代から地元松山では圧倒的な人気を誇り、2004年1月21日にシングル『哀愁交差点』でメジャーデビューを果たす。同年2月にはミュージックステーションにも出演していた。
そんな飛ぶ鳥を落とす勢いのジャパハリネットがリリースした2作目、メジャー初のアルバムだ。当時の勢いをそのまま詰め込んだようなパワフルな作品に仕上がっている。
東京での活動も多くなっていた時期であろうが、アルバムブックレットや歌詞の世界観も含め、故郷の松山への郷愁のような感覚がテーマに流れているような作品だ。
ただ暗い感じは全くなく、むしろ城戸氏の明るいカラーが前面に出ている印象である。作曲の中心は鹿島氏であるが、鹿島氏の内省的な作風はやや引っ込んでいる。
13曲と曲数が多くなっているが、1stに比べるとやや似通った曲が多く、トータル感においてはやや散漫な印象も否めない。
その要因の1つは「ジャパハリ進行」と筆者が勝手に呼んでいるコード進行のオンパレードである点が挙げられる。
たとえばAを基調とすれば、A→E→F#m→C#m→D→A→D→Eと続く進行である。
本作の中では「哀愁交差点」「若葉咲く頃」「物憂げ世情」のサビなどであり、「蹴り上げた坂道」「ジオラマの花」などもその変形である。
このコード進行こそ”ジャパハリらしさ”とも言える点であり、最も”ジャパハリらしい”アルバムと言うこともできるだろう。
またサウンド面でも、全体的にはギターがかなり大きいミックスとなっている。青春パンク全盛期の時代を感じるサウンドに統一されている感があり、やや一本調子になっているとも言える。
ただ「鼓動の矛先」「楓葉」などのマイナー調の曲、バラード「ライムライト」などでアルバムの世界観を広げている点は素晴らしい。
もう1つの要因として、インディーズ時代の総決算も兼ねていた点が挙げられるだろう。
インディーズ時代のシングルから「物憂げ世情」「絶望の風」、またオムニバス盤から「夏みかん」「最果ソング」が収録されるなど、やや盛り込み過ぎた感もある。
当時のジャパハリネットの魅力をこれでもか、と盛り込んだ力作だと感じる一方、アルバムトータル感で言えば、やや盛り込み過ぎた感があるのが筆者の印象である。
3rd『東京ウォール』
- 発売日:2005年4月20日
- レーベル:TOY’S FACTORY
No. | 曲名 | 作詞 | 作曲 |
---|---|---|---|
1 | 非線形の箒星 | 鹿島公行 | 鹿島公行 |
2 | 聖戦パラドックス | 鹿島公行 | 鹿島公行 |
3 | フィルターを蹴飛ばせ | 鹿島公行 | 鹿島公行 |
4 | 帰り道 | 城戸けんじろ&鹿島公行 | 城戸けんじろ&鹿島公行 |
5 | 対角線上のアリア | 鹿島公行 | 鹿島公行 |
6 | 暴かれし世界 | 鹿島公行 | 鹿島公行 |
7 | あかいはる | 鹿島公行 | 鹿島公行 |
8 | あじさいの庭 | 鹿島公行 | 鹿島公行 |
9 | あの娘の街まで | 鹿島公行 | 鹿島公行 |
10 | 遥かなる日々 | 鹿島公行 | 鹿島公行 |
11 | Tokyo Wall | 鹿島公行 | 鹿島公行 |
12 | 黎明時代 | 鹿島公行 | 鹿島公行 |
”青春パンク”ブームに乗じて、「哀愁交差点」でメジャーデビューし、一躍有名になったジャパハリネットであったが、ブームの終わりも予感していたようである。
本作の先行シングルとなる、『遥かなる日々』は青春パンク的な楽曲としては最後のつもりで渾身の楽曲を作ったと鹿島氏は言う。
次のシングル『帰り道』もまだ青春パンク的なカラーは引き継ぎいでいたので、ファンとしては次のアルバムが『現実逃避記』の延長戦にあるものかと思っていた。
しかし本作『東京ウォール』は完全に青春パンクの世界観・サウンドと決別するかのような作品になっており、大きく新たな方向に舵を切った。
前作でファンを拡大したため売り上げ的には成功(オリコンチャート最高8位)、しかし賛否を巻き起こす作品となった。
まず大きく変化したのはサウンドである。青春パンクの特徴であった、歪んだギターがかなり後ろに引っ込められ、これまでとかなり異なる音像になったことで戸惑った人も多かったようだ。
プロデュース・編曲はロックバンド一風堂の土屋昌巳氏が行ったことで、前作に比べるとかなりアルバム全体のサウンドのクオリティが向上している。
またストレートな4・8ビートで突っ走る楽曲が多かったのが、リズムのバリエーションも一気に増えた。筆者が名付けた「ジャパハリ進行」の曲は依然として多く、その点は”らしさ”が残っている。
さらにはアルバム全体の世界観も前作とは大きく異なる。地元松山への郷愁を歌った前作とは逆に、東京という街自体が壁のように立ちはだかる、『東京ウォール』というタイトルが付けられている。
ボーカル城戸氏の明るさが前面に出た前作とは対照的に、本作は鹿島氏の作り出すナイーブで硬質な雰囲気の楽曲が、そのサウンドと相まって前面に出ている印象である。
アルバムのリードトラックでMVも作られた「対角線上のアリア」はその最たる例である。都会の冷ややかな雰囲気を映し出すことで、逆に人の心の温かさを歌おうとするような内容だ。
他にも「非線形の箒星」「暴かれし世界」「黎明時代-レイメイジダイ-」など、オルタナティブロックを感じさせる新境地の楽曲が目立っている。
ただ前作に比べると、アルバムのトータル感は良くなっているように感じられる。
「聖戦パラドックス」や「遥かなる日々」など、従来のジャパハリを感じさせる楽曲もありつつ、「帰り道」「あかいはる」など優しげな曲もあって、硬質な雰囲気の一辺倒ではない。
アルバムの最初から最後まで一気に聴き通せる作品で、音楽的な充実度も非常に高く、名盤だと捉えている。
ただ従来のジャパハリネットを求めた人には、かなりの変化球の作品として捉えられたはずだ。この辺りから、”ジャパハリらしさ”とは何か、という問いがファンの間でも生まれ始めたように思えた。
4th『回帰線』
- 発売日:2006年7月26日
- レーベル:TOY’S FACTORY
No. | 曲名 | 作詞 | 作曲 |
---|---|---|---|
1 | J.H.N | 鹿島公行 | 鹿島公行 |
2 | 少年バット | 鹿島公行 | 鹿島公行 |
3 | さらばし慕情 | 鹿島公行 | 鹿島公行 |
4 | 約束の場所 | 鹿島公行 | 鹿島公行 |
5 | 星霜のさくら | 鹿島公行 | 鹿島公行 |
6 | あの雲の向こう | 中田衛樹 | 中田衛樹 |
7 | マスタージャップ | 鹿島公行 | 鹿島公行 |
8 | オルガナイザ | 鹿島公行 | 鹿島公行 |
9 | 金色の螺旋-コンジキノラセン- | 鹿島公行 | 鹿島公行 |
10 | 抱擁レジスタンス | 鹿島公行 | 鹿島公行 |
11 | ベクトルが消えた夏 | 鹿島公行 | 鹿島公行 |
12 | 美しき儚きかな | 鹿島公行 | 鹿島公行 |
前作『東京ウォール』があまりにそれまでのサウンドからかけ離れたものとなり、賛否両論のアルバムとなった。メンバーの間でも、今後どういう方向性にするのか話し合われたことだろう。
彼らが出した答えは”原点回帰”であり、ジャパハリネットとしてスタートした頃のようなストレートな作風に戻すことにした。タイトルにも”回帰”という言葉がそのまま取り入れられた。
どの段階に”回帰”したのかと言えば、筆者は1st『満ちて来たる日々』をかなり意識して作られたのではないかと思う。
アルバムの曲順の展開に注目すると、1stのように前半にストレートなパンク、中盤にややアグレッシブな曲、後半にしっとりした曲が配置されており、1stへの回帰が窺われる。
曲調としては、ストレートな4・8ビートが前作より増えて、ギターが前面に出るサウンドに戻っている。「J.H.N」や「少年バット」など、”ジャパハリらしい”雰囲気の楽曲が目立っている。
その一方で「オルガナイザ」「金色の螺旋-コンジキノラセン-」などは、前作で見せたオルタナティブな雰囲気を感じさせるもので、最新のジャパハリネットも見せようとしているのが分かる。
全体を通じて明るいサウンドになり、アルバム構成も綺麗にまとまっている作品だ。しかし青春パンクブームの沈静化の影響も大きく、売り上げ的には前作より大きく下回る形となった。
やはりどうしても過去の自分たちに戻る、という作業はハードルが高くなる。過去の雰囲気を保ちつつ、新たな成長分も付け加える、というのは制作者としては難度がかなり高い。
もう少し細かく見ていくと、ギターを前面にしたサウンド・シンプルなビートと言う点では過去のジャパハリを意識しているが、曲作りと言う点では、そこに抵抗している感もみられる。
筆者が言うところの「ジャパハリ進行」をあえて外そうと言う意図が感じられ、もっとシンプルな3コードの進行を取り入れているのが分かる。(アルバムの最初3曲が該当する)
また「約束の場所」など、極端にシンプルなアレンジを施した曲もあり、”ジャパハリらしさ”をどのように表現したらよいのか、模索している様子も窺える。
※後に2020年のリメイクベスト盤『RE:BEST』の「約束の場所」が、本当は作りたかったアレンジだったのかもしれない、と思っている。
一度路線変更した作風を戻しつつ、今のバンドの姿を見せる、と言う難度の高い作品で、かなり健闘した作品だと思う。ただ”直球を投げる”ことがどういうことなのか、難しくなってきている感はある。
5th『夢色ロジック』
- 発売日:2007年8月8日
- レーベル:TOY’S FACTORY
No. | 曲名 | 作詞 | 作曲 |
---|---|---|---|
1 | 流転の咲く丘 | 鹿島公行 | 鹿島公行 |
2 | 直球フラストレーション | 鹿島公行 | 鹿島公行 |
3 | ステレオロンダリング | 鹿島公行 | 鹿島公行 |
4 | アナログ模様 | 鹿島公行 | 鹿島公行 |
5 | 落陽 | 鹿島公行&中岡良一 | 鹿島公行&中岡良一 |
6 | 朽ちかけた淡い斜塔 | 鹿島公行 | 鹿島公行 |
7 | 僕らは今を生く | 城戸健次郎 | 城戸健次郎 |
8 | 夢追い人 | 鹿島公行 | 鹿島公行 |
9 | ラインを超えて | 鹿島公行 | 鹿島公行 |
10 | インダーソング | 鹿島公行 | 鹿島公行 |
11 | ロングロングシャドウ | 鹿島公行 | 鹿島公行 |
12 | 百花繚乱 | 鹿島公行 | 鹿島公行 |
本作『夢色ロジック』は、ジャパハリネットの解散発表(2007年6月13日)の後にリリースされたアルバムである。
記憶が曖昧ではあるが、アルバムリリースの告知→解散発表→アルバムリリースの順だったように思う。寂しい気持ちで聴いたアルバムだった印象がどうしても強く、作品の評価にも影響してしまう。
前作『回帰線』では1stアルバムのような直球の作品を目指そうと試みたが、やはり同じことができる訳ではなく、”ジャパハリらしさ”に縛られてしまった側面があった。
本作はそうした縛りを一度取り払って、今のバンドとしてやりたい音楽を自由に作った作品のように、筆者は感じ取った。
楽曲の幅広さと言う意味では『東京ウォール』に通じるものがあるが、あの当時のヒリヒリした感覚はなく、むしろ温かみのある音像と世界観になっている。
サウンド的にはこれまでの作品より生演奏っぽさを大事にした音作りで、個々の楽器の音がクリアに聞こえる。サウンド面で青春パンクからは脱している感覚である。
また曲を見ても、これまであまりジャパハリでは使われなかったリズム・曲調の楽曲が多くなっている。
リードトラックの1つである「流転の咲く丘」も、これまでのジャパハリにありそうでなかった、ミドルテンポのシンプルなギターロックに仕上がっている。
他にもダンスビートの「ラインを超えて」、ベースリフが引っ張っていく「夢追い人」、明るくパンキッシュな「ロングロングシャドウ」など、新境地の楽曲がズラリと並んでいる。
本作で目立って見えるのは、鹿島氏のソングライティングの成熟である。初期に比べると、曲調やコード進行も含め、非常にバリエーション豊かになり、曲ごとのキャラが立っている。
そうした実験を自由に行ったアルバムであったため、ジャパハリネットの音楽としては拡散しているような印象はどうしても否めない。
しかもこの先ジャパハリネットとして活動が続いて行くのではなく、解散が決まっている中での作品と言うことも踏まえれば、ジャパハリネットの解体を目の当たりにしたような感覚もある。
解散が決まったことで、ようやく”ジャパハリらしさ”という呪縛から解き放たれた。
しかし解き放たれた音楽性が、もう集まって来ることがないと分かっている作品だけに、どうしても秋風が吹くかのような、寂しさとともに記憶に残る作品となっている。
まとめ – ”ジャパハリらしさ”とは何か?
今回の記事では、ジャパハリネットが解散前にリリースした5枚のオリジナルアルバムのレビューを行った。レビューを書く中で見えてきたテーマとして「ジャパハリらしさとは何か?」が挙げられる。
ジャパハリネットの歴史は、この「ジャパハリらしさとは何か?」のテーマの下に、青春パンクに助けられ、また苦しめられた歴史であった、と言えるのではないか。
まず「ジャパハリらしさ」を考える時に、1つは初期に見られる歪んだギターとシンプルな4・8ビート(+筆者が名付けた「ジャパハリ進行」)という、青春パンク的な音楽性である。
やはりこれらの要素が揃えば、「ジャパハリだ!」と認知されるものであり、ジャパハリネットの特徴であることは間違いない。
しかしこれらはあくまで音楽的な様式(ジャンル)である。誰しも特定のジャンルに立脚して音楽をやるのだが、こだわり過ぎれば自らを縛るものにもなってしまう。
ジャパハリネットは青春パンクというムーブメントの中で一躍有名になり、そのブームが去るとともに、むしろ青春パンクは自らを縛るものになってしまったのではないか。
また青春パンク的な特徴でジャパハリネットを見ていたのは、ファンよりももう少し外側の”世間”だったようにも思う。この層を巻き込んだことで、大きく売り上げを伸ばしたとも言える。
しかしファンはまた違った角度からジャパハリらしさを感じているはずである。それはジャパハリネットと言うバンドの音楽が醸し出す雰囲気や、楽曲の歌詞・世界観などである。
筆者が思うに、鹿島氏の作り出す翳りがありつつ哀愁のある世界観と、城戸氏の底抜けの明るさの化学反応こそ、ジャパハリらしい雰囲気であると考えている。
とりわけ1stアルバムでそのバランス感が絶妙であったが、バランスを取りながらも、5枚のアルバム全てに通じる特徴の1つである、と言えるだろう。
また楽曲の世界観と言う意味では、これも初期に見られる、思春期の青年に見られるヒリヒリした感覚・葛藤や、それを乗り越えようとするパワーが、ジャパハリの魅力であったように思える。
ジャパハリの歌詞は、いわゆる恋の悩みのような思春期を描くのではなく、自分とは何かと言ったアイデンティティ問題を多く取り扱ったきたところが特徴であった。
当然ながら、こうした主題は年齢とともに変化していくものであり、当然ジャパハリとして何を歌うのかについても変化していったのだった。
結局のところ、1stアルバムにあった音楽様式としての青春パンクも、思春期の悩みと言う主題も、年齢とともに揺れ動く中で、非常に音楽としてのアプトプットに悩んできた歴史とも言えるだろう。
その苦悩が、5thアルバム『夢色ロジック』収録の「直球フラストレーション」で歌われているように思えた。
直球を投げてきたはずだったのが、考え過ぎて、どのようなボールを投げれば良いのか分からなくなってしまった、ということだろうか。
直球を模索する先に解散と言う道を選ぶことになったのだが、逆に言えば、残された答えは非常にシンプルなものだったと言える。
それはジャパハリネットと言う4人のメンバーが集まって作り出す音楽を、できるだけ直球で投げ込むこと、それが答えだったのではなかろうか。
そして直球を模索する旅は、2015年の再結成によって再びスタートした。青春パンクの波はとうに去り、年齢も重ねてメンバーを取り巻く状況も解散前とは変わっている。
2018年には6枚目となるオリジナルアルバム『RE: JAPAHARINET』をリリースし、新たな歴史を刻み始めている。
これからもジャパハリネットのストレートな直球が投げ込まれることを楽しみにしたい。
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