気になるバンドを聴いてみようと思った時に、必ずと言っていいほど「何から聴けば良いのか?」問題が出てくる。
そこで初めて聴く人向けに、最初に聴くのにおすすめのアルバムを紹介するシリーズ記事を書いている。
第1回はeastern youthを取り上げた。
第2回は、クレイジーケンバンドを取り上げてみようと思う。
※なお今回の記事は入門編なので、上級者は以下の記事もおすすめ。
クレイジーケンバンドについて
クレイジーケンバンドは1997年に結成。1998年に『PUNCH! PUNCH! PUNCH!』でデビュー。
2002年にシングル「GT」およびアルバム『グランツーリズモ』で注目される。
同年シングル「クリスマスなんて大嫌い!! なんちゃって♥」がJ-PHONE(現:ソフトバンクモバイル)のCMソングとなっている。
2005年のドラマ「タイガー&ドラゴン」は、2002年のシングル「タイガー&ドラゴン」を元に制作され、その知名度を大きく上げた。
その後も1年におよそ1枚のペースでアルバム制作を行い、ライブ活動も精力的に行っている。
クレイジーケンバンドの音楽性は、とにかく幅が広く、あらゆるジャンルの要素を取り入れている。
活動初期の頃は、昭和歌謡をイメージさせるバンドだった。確かに昭和を思わせる出で立ちや、昭和歌謡を思わせる楽曲が初期には多かった。
しかし実際は1つのジャンルの枠にとらわれず、ロックンロールにAOR、ソウルにボサノバ、演歌にジャズと何でもありだ。
徐々にその音楽性はR&Bやソウルなどの色が強くなってきているように思う。
そしてクレイジーケンバンドの魅力は、無国籍な音楽と言うか、不思議な異国情緒に溢れている点だ。なかでも、アジア圏を舞台にした楽曲は多数ある。
クレイジーケンバンドの作詞・作曲は、ボーカルの横山剣が行っている。
他のメンバーは以下の通りで、合計11名である。
- 小野瀬雅生(エレキギター・キーボード・コーラス)
- 新宮虎児(エレキギター・キーボード)
- 中西圭一(サックス・フルート)
- 洞口信也(ベース・叫び)
- 廣石恵一(ドラム・パーカッション・バンドマスター)
- 高橋利光(キーボード)
- Ayesha(ボーカル・コーラス)
- スモーキー・テツニ(ボーカル・コーラス)
- 河合わかば(トロンボーン・フルート)
- 澤野博敬(トランペット・フリューゲルホーン)
※菅原愛子(ボーカル・コーラス)は2018年より育児休業中。
かなり大所帯であるが、初期からのメンバー6名(横山、小野瀬、新宮、中西、洞口、廣石)でライブをする際は、“CKB-Classix”と名乗っている。
横山剣氏を始め、メンバーはかなりの音楽マニアで腕利きのミュージシャンばかりだ。見た目には華やかであるが、音楽はかなり骨太でマニアも唸る内容である。
”はじめて”のベストアルバム
ベスト盤は、手軽に代表曲を楽しむことができる。「まずは定番を押さえたい」という人はベスト盤から入っても良いだろう。
クレイジーケンバンドは、ベスト盤がいくつか発売されており、以下にすべて挙げた。
※MIX CDや第三者による選曲集など、コンセプトアルバムは除いた。
- 『CKBB – OLDIES BUT GOODIES』(2004年)
- 『クレイジーケンバンド・ベスト 鶴』『クレイジーケンバンド・ベスト 亀』(2010年)
- 『Single Collection / P-VINE YEARS』(※シングル集)(2011年)
- 『CRAZY KEN BAND ALL TIME BEST 愛の世界』(2017年)
この中から、はじめて聴くのにおすすめのベストアルバムを2枚選んだ。
『CRAZY KEN BAND ALL TIME BEST 愛の世界』(2017年)
アルバムで言うと、1st『PUNCH! PUNCH! PUNCH!』~16th『もうすっかりあれなんだよね』までを収録した、3枚組の豪華オールタイムベストだ。
また1995年に発売された横山剣のソロ『CRAZY KEN’S WORLD』の楽曲も収録されている。
各時期の代表曲が満遍なく収録されている点が魅力だ。
「GT」や「タイガー&ドラゴン」の出世作ももちろん収録されている。
「タオル」「ガールフレンド」などのメロウな楽曲、いかにもクレイジーケンバンドらしい「昼下がり」「木彫りの龍」など、その幅広い音楽性を存分に味わえる。
『CKBB – OLDIES BUT GOODIES』(2004年)
先ほども述べたように、バンドは徐々に”昭和歌謡”カラーを薄くしていった歴史がある。
もし昭和歌謡を思わせる初期の楽曲を中心に聴きたいのであれば、2004年『CKBB – OLDIES BUT GOODIES』を手に取っても良いかもしれない。
1st『Punch! Punch! Punch!』~5th『777』から選曲されている。
『CRAZY KEN BAND ALL TIME BEST 愛の世界』には入っていない、「香港グランプリ」や演歌風のメロディが癖になる「まっぴらロック」など、ディープな楽曲も楽しめる。
いきなり3枚組の『CRAZY KEN BAND ALL TIME BEST 愛の世界』はハードルが高い、と感じた人にもおすすめである。
”はじめて”のオリジナルアルバム
クレイジーケンバンドのオリジナルアルバムは全部で19枚発売されている。(2022年2月現在)
最初に聴くべきアルバムをどれか1枚に絞るのは到底無理だ。
クレイジーケンバンドの音楽性の変遷をたどりながら、19枚のアルバムを3つの時期に分けてみた。それぞれの時期から、特におすすめのアルバムを選んでいる。
3つの時期を以下の通りに分けてみた。
- 昭和歌謡期:1st『Punch! Punch! Punch!』~5th『777』
- 移行期:6th『Brown Metallic』~10th『ZERO』
- 安定期:11th『ガール!ガール!ガール!』~現在
各期の解説と、おすすめアルバムを紹介する。
昭和歌謡期:1st『Punch! Punch! Punch!』~5th『777』
クレイジーケンバンドの初期は昭和歌謡と不可分だった。そのまま”昭和歌謡期“とした。
わかりやすいメロディラインの楽曲が多いのがこの時期の特徴だ。
やや昭和歌謡がデフォルメされているものや、”ベタ”にも感じられる部分があるかもしれないが、シンプルに良いメロディがたくさん生み出された時期でもある。
まだ制作環境が十分でなかったため、サウンド面では近年の作品と比べると、劣って聞こえるかもしれない。
しかしサウンド面で不十分な部分は、アイデアや良質なメロディで乗り越えていくような、勢いと遊び心が感じられる。
なお5th『777』は、音楽的には既に次の段階に入っている印象もあるが、『CKBB – OLDIES BUT GOODIES』の範囲であるため、この時期に含めた。
<おすすめのアルバム>
4th『グランツーリズモ』(2002年)
この時期でおすすめするのであれば、クレイジーケンバンドの出世作とも言える、4th『グランツーリズモ』だ。
何と言っても、1曲目の「GT」の存在感が大きい。クレイジーケンバンドの名刺代わりとも言える名曲であり、この当時のバンドの勢いを感じる。
しかし”「GT」が入っているアルバム”とは言わせない、全体のバランスの良さも特徴だ。
昭和歌謡を感じる「太陽のモンテカルロ」「ヒルトップ・マンション」、爽やかで心地よいメロディの「PIZZA」「透明高速」など、名曲が揃う。
バンド紹介的な「夜の境界線」「ゲバゲバ90秒」などが入っているのも、クレイジーケンバンド入門盤としておすすめである。
『グランツーリズモ』以前のアルバムももちろん良いのだが、初めて聴く人にはやや癖が強いと感じるかもしれない。
サウンド面でも以前よりも洗練されており、入門編としてとても聴きやすい作品だ。
移行期:6th『Brown Metallic』~10th『ZERO』
横山剣氏は”昭和歌謡バンド”と括られることが不本意であると感じ、アルバムに収録される楽曲のカラーも少しずつ変えていった。
そのため、後で述べるバンドとしての立ち位置が明確になる”安定期”に比して、”移行期”と名付けた。
歌謡曲的な分かりやすさのある楽曲の数は相対的に減り、よりR&Bやソウル、ロックンロールなどのジャンルの色がはっきりした楽曲が増えていったように思う。
またバンドが注目され始め、バンド編成も豪華になり、録音環境なども充実していった時期である。
個人的には、バンドという少人数編成の良さがやや薄れてしまったように感じられた。初期のバンドの佇まいが好きだった者からすると、少し寂しく感じられただけかもしれないが。
とは言え、質の低い作品などあるはずもなく、音楽的にも様々な試みがなされた作品が並んでいる。
<おすすめのアルバム>
9th『SOUL電波』(2007年)
音楽的に様々な試みが行われていた時期にあって、その成果が結実しつつあるアルバムを選んだ。それが9th『SOUL電波』である。
結成10年を記念して作られたアルバムでもあり、これまでの要素を詰め込んだ力作だ。
音楽的な広がりを見せていたそれまでの作品に比べると、クレイジーケンバンドらしさが前面に出た作品と言えよう。
しかし初期に戻ったのではなく、新しいクレイジーケンバンド像を示した作品とも言える。個々の楽曲はしっかり音楽的なルーツを持ちながら、今まで以上にポップで力強い。
ポップなメロディはやはり人の心を惹きつける。作風としては、夏のドライブにぴったりの、心地の良いアルバムに仕上がっている。
何と言っても、ライブでもよく演奏される名曲「タオル」が素晴らしい。
「ヒルトップ・モーテル」や「路面電車」などトンチンカンな楽曲もありつつ、「生きる。」「RESPECT! OTOSAN」などの歌謡曲的な流れも良い。
ジャズにボサノバ、ロックンロールに演歌と、オールジャンルの楽曲を見事に1枚に凝縮している。今までの総決算でもあり、今後のクレイジーケンバンドを示す重要な1枚である。
安定期:11th『ガール!ガール!ガール!』~現在
UNIVERSAL MUSIC JAPANへ移籍したタイミングと重なる。
この時期には、ルーツとなる音楽ジャンルを取り入れながら、それを横山剣氏のメロディとマッチさせる精度が格段に上がっている。
音楽制作的な1つの方法論が確立されたと思われるため、”安定期”と名付けた。
メロディのわかりやすさを取り戻しつつ、音楽マニアも楽しめるような普遍性を獲得している。そして音楽性を少しずつ変化させながらも、様々な音楽的な実験を積み重ねた成果が結実している。
アレンジに関しても、音数が減って、バンドサウンドの良さが引き立つようになった。
「足し算」的なアレンジではなく、よりシンプルにメロディやグルーブが伝わるようなアレンジへと変化している点もポイントだ。
<おすすめのアルバム>
12th『MINT CONDITION』(2010年)
クレイジーケンバンドの安定感を確かに感じさせる、クオリティの高い1枚だ。
全体を通して肩の力の抜けた、良い意味でラフなアレンジも心地よい。そのため剣さんのメロディやボーカルがストレートに耳に入ってくる。
口ずさむことができて、耳に残るメロディが多いため、入門編に最適だ。
音楽ジャンルとしては、あまり手広く広げていない点も聴きやすいポイントかもしれない。ポップスや歌謡曲のメロディを軸に、様々なジャンルの要素を散りばめている。
ロックテイストの強い楽曲はなく、歌モノがメインのアルバムと捉えて良いだろう。
単にいろいろな楽曲の詰め合わせではなく、アルバムの流れもより意識された曲順である点もポイントである。
”もったいない”の歌詞で繋がっていく、という遊び心も見せる「Revolution Pop」~「MOTTAINAI」の流れが面白い。また
eye catchで挟み込まれた、トンチンカンな楽曲ゾーンの「仮病」「漢江ツイスト」「無条件」も楽しい。
音楽的なクオリティは高く、それでいてわかりやすい音楽。そんなクレイジーケンバンドの魅力が詰まった1枚だ。
まとめ
クレイジーケンバンドの、はじめて聴くのにおすすめのベスト盤、オリジナルアルバムを紹介してきた。
おすすめのベスト盤は、下記の2枚である。
『CRAZY KEN BAND ALL TIME BEST 愛の世界』(2017年)
『CKBB – OLDIES BUT GOODIES』(2004年)
そしておすすめのオリジナルアルバムは、下記の3枚である。
4th『グランツーリズモ』(2002年)
9th『SOUL電波』(2007年)
12th『MINT CONDITION』(2010年)
「何から聴けば良いのか?」という最初の問いに対して、都合5枚ものアルバムを挙げてしまった。
筆者個人は、最初に聴くべきアルバムが1枚しか書かれていないと、「それが好みではなかった時のために、初めから何枚か選択肢を用意してくれよ」と思ってしまうタイプだ。
もちろん、直感的に気になったアルバムから手に取っていただければ良いだろう。
この記事がその指針に、少しでもなっていれば嬉しい限りだ。
※次回:【初心者向け】”はじめてのアルバム” – 第3回:怒髪天 これまでの歴史と各時期の名盤紹介
<据え置き型の音楽再生機器に迷っている人におすすめ!>
Bose Wave SoundTouch music system IV
これ1台でインターネットサービス、自身で保存した音楽、CD、AM/FMラジオを聴くことができる。コンパクトながら深みがあり、迫力あるサウンドが魅力。
自宅のWi-FiネットワークやBluetooth®デバイスにも対応。スマートフォンアプリをリモコンとして使用することも可能。
コメント
音楽についてはドが付く素人からのコメントを失礼します。
クレイジーケンバンドさんの曲は、聴き始めると身体全体が勝手に動き出します。
アルバム"Soul電波"にもあったように、”Don’t think, feel.”で楽しみます。
個々の音を分解→分析してみようとすると頭がパンクしそうになるので、止めておきます。
CKBさん(横山さん)のサウンドはとっつきやすいようでいてその実ド玄人ですね。
人間離れしたものを感じます…。
それと、エレファントカシマシさんはボーカルの宮本さんにより興味があります。
卓越した歌唱力と表現力、そして鬱勃とした生命力から来るような情熱、もはや情念に溢れる歌声に心をかっさらわれました。
音楽ド素人からの意見で大変恐縮なのですが、上記の横山氏と宮本氏にはぜひ「令和歌謡」「ネオ昭和歌謡」のジャンルを開拓していただきたいと強く思います。
お二人とも、日本語の発音や響きをとても大事になさって歌っていらっしゃいます。
特に横山氏の安定感のあるビブラートと哀愁を感じる歌声は、歌謡曲にドンピシャなのです。
邦楽は、個人的には歌詞と日本語の母音の響きの良さを全面に出してほしいのです。
(洋楽は、反対に楽器(器楽)の演奏を重視します)
熱い願い、長々と失礼いたしました。
さすらい人さま
コメントありがとうございました。
確かに横山剣さんには昭和歌謡が似合いますね。
実際のところ、初期の楽曲には歌謡曲の色合いが強かった歴史もあります。
私としてもぜひ横山氏には歌謡曲路線も再びやっていただきたいな、と思ったりします。
宮本氏は最近のソロ活動に歌謡曲の影響をとても感じますが、ロッカーとしての宮本氏が個人的には好きですね。