カバーアルバムは好きだろうか?嫌いだろうか?
基本的にオリジナルアルバムが何よりも好きな筆者としては、カバーアルバムをあまり聴かない。
どうしてもカバーアルバムが陥りがちな問題点に目が行ってしまうためである。
今回は、そんな問題点を克服しているカバーアルバムの名作を紹介する。
柴田淳さんの『COVER 70’s』『おはこ』の2作である。
カバーアルバムが苦手な人にもおすすめできる作品である。
・カバーアルバムが苦手な理由
カバーアルバムとは、文字通り、他者のオリジナルをカバーした楽曲を集めたアルバムのことだ。
楽曲のカバーそのものを全て否定するつもりはないが、カバーアルバムには陥りがちな問題点がある。
それゆえに、どうしてもわざわざ聴こうという気になれない作品が多い。
カバーアルバムが抱えてしまう問題点とは何か?
・オリジナルに対するカバーする側の敬意の問題
カバーする側がオリジナルにどれだけ敬意を払っているか。
これがカバーの抱える問題の最も大きな点であり、これに尽きると言っても良い。
カバーの考え方は様々だろうが、歌い手が違うと言うことは、カバーする歌手の個性を出していくべきだと言う考え方は確かにその通りだ。
オリジナルを歌っている歌手の物まねになってしまっては、それはカバーとは言えない。
しかし、あまりにその個性を出し過ぎるあまり、元の節回しやメロディまでも変えてしまう場合がある。
カバーの最も良くないポイントが、「ここで、この歌い方(あるいはメロディ)を期待していたのに、外された!」というものだ。
それぞれの歌手の個性は、節回しを変えることなどではなく、元のまま歌ったとしても醸し出されるもの、としてあって欲しいのだ。
メロディラインや節回しの勘所を外さないためには、オリジナルの歌唱方法の徹底的な研究しかないだろう。
細かい節回し1つずつを丁寧に分析し、自らの歌唱方法とすり合わせていく。
そしてカバーするまでに十分歌い込まれた歌唱方法は、あたかもカバー歌手の楽曲かのように自然に聞こえながらも、決してオリジナルの大事な部分を崩していない。
カバーして歌うことは、自分の楽曲を歌うよりもずっと難しいことだと思う。
その難しさを自覚しないで安易に作られたカバーは、いただけないのである。
このように、カバー1曲を作り上げるだけでも、かなりの労力が必要である。
アルバムとして10曲ほど揃えるのは並大抵のことではないはずだ。
・アレンジの問題
カバー曲を制作する際には、オリジナルのアレンジを変えることがある。
しかし、アレンジ変更にもオリジナルに対する敬意の問題がつきまとう。
歌唱方法と同じく、勘所となるようなフレーズやコード進行を、あっさり変えてしまうことは、聴き手からするととても残念だ。
たとえば、尾崎紀世彦氏の「また逢う日まで」のイントロのあのフレーズがなかったらどうだろう。
やっぱり「また逢う日まで」を聴いた気にならないと思う。
この曲をカバーするなら、イントロのフレーズは残してほしいし、残したくないのならカバーすること自体を控えてほしいとすら思う。
オリジナルとは、それぐらい基準になるものなのだ。
アレンジは変えなくて済むのであれば、変えないに越したことはない。
・理想的なカバーアルバム – 柴田淳『COVER 70’s』『おはこ』
カバーアルバムに対して、かなりシビアな見方をしてきた。
まとめると、カバーアルバムでは、以下の2点を重視している。
・オリジナルの歌を崩さずに、カバー歌手の個性が出ていること。
・アレンジの大幅な変更がないこと。
なかなかこの2点を徹底しているカバーアルバムは少ない。
柴田淳さんの『COVER 70’s』『おはこ』の2作は、見事にこの2点をクリアしている素晴らしいアルバムだ。
・柴田淳さんについて
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柴田淳さんは、2001年から活動しているシンガーソングライターである。
12枚のオリジナルアルバムをリリースしており、個性的なラブソングを作ることで有名だ。
2015年に『柴田淳 – All Time Request BEST ~しばづくし~』が発売されている。
ポップスが中心にあるものの、音楽的にはロックの要素も個人的には感じている。
メロディラインはよく作り込まれた印象があり、クセになるメロディがたくさんある。
個人的には、2013年の9th『あなたと見た夢 君のいない朝』というアルバムをよく聴いていた。
・カバーアルバムシリーズ『COVER 70’s』『おはこ』
柴田淳さんは、『COVER 70’s』『おはこ』という2作のカバーアルバムを発表している。
簡単に、この2作の内容を紹介したい。
2012年に発売された『COVER 70’s』は、70年代の歌謡曲のみから選ばれたカバーアルバムだ。
選んだ基準としては、自身がレパートリーとしている楽曲、だそうだ。
「異邦人」や「木綿のハンカチーフ」などの定番も押さえつつ、「青春の影」「22才の別れ」など渋めの楽曲も織り交ぜている。
オリコンの最高位は7位と、かなり好評のカバーアルバムとなった。
2作目として、2019年に『おはこ』が発売されている。
自分が好きな楽曲を歌う、というコンセプトで、歌謡曲や演歌を中心に選曲されている。
「夢芝居」や「石狩挽歌」など新境地とも言える演歌の歌唱を聴かせてくれる。
・優れたカバーアルバムである理由とは?
いずれの作品もカバーに対する柴田淳さんのこだわりが見られる点が、とても良い。
・アレンジを一切変えない
2つの作品に共通して、オリジナルのアレンジを一切変えていない。
カバーアルバムとしては、むしろ珍しいことである。
Billboard JAPANのインタビューによれば、アレンジを施すことによって、どうしても「オリジナルを聴きたい」という評価を受けてしまうことに言及している。
アレンジを一切変えないことは、オリジナル楽曲に親しんでいるリスナーでも安心して聴くことができる。
しかしその分、オリジナルな要素は歌のみに集約される。
それゆえ、歌唱力が試される場であり、かなりの挑戦となるのだ。
・オリジナルを研究した上での、安定した歌唱
時事ドットコムニュースで語られているが、カバーは「オリジナルよりデリケート」である点を述べている。
やはりオリジナル自体が作り込まれたものであり、それを作り直すことは大変な作業だと言う。
また、過去にもカバーアルバムの制作が提案されたこともあったが、実現に至らなかったそうだ。
自分なりの表現ができるまでは作らず、デビュー10年目に『COVER 70’s』と言う形で制作された。
2作品とも、オリジナルの歌い方の大部分を継承している。
それでいて、見事に”柴田淳”節が散りばめられている歌になっている。
『おはこ』の「あずさ2号」や「恋」などの男性歌手の楽曲も、オリジナルのニュアンスを残しながらも、新たな解釈で歌われると感じた。
全体を通じて、極端な個性を出すことなく、ある意味で淡々と自身の歌を歌っている感覚なのが、好印象である。
・まとめ
柴田淳さんの、『COVER 70’s』『おはこ』という2作のカバーアルバムについて紹介した。
いずれの作品も、オリジナルを徹底的に研究した上で、歌が吹き込まれている。
両者の作品とも、選曲も面白い。
アルバムの隅々まで、1つの作品としてのこだわりを感じるのだ。
最初にも述べた通り、カバーそのものを否定するものではない。
むしろ、気合の入ったカバー楽曲が今後生み出されることを期待したい。
※ライブアルバムについて書いた記事
※アルバム単位で聴くことについて書いた記事
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