以前の記事で、僕がアルバムを単位として音楽を聴くことにこだわっていることは述べた。
特にアルバム単位で聴くことを前提にしたアルバムを、コンセプトアルバムと言ったりする。
一貫したテーマの曲が並んでいたり、組曲になっていたり、いろいろな形態があるが、クラシック的な要素から来ているのだろうか。
メタルやプログレッシブロックに多いように思う。
もちろん我が国にもコンセプトアルバムの名作はある。
そんな中で今回はあえて演歌のコンセプトアルバムを紹介しようと思う。
演歌についてあまりご存知のない方もおられると思うが、演歌は基本シングルを主体にリリースを行っている。
そしてアルバムと言っても、「全曲集」と言う形で、最近の主だったシングルと往年のヒット曲をベスト形式で収録されたものが多い。
そもそもがオリジナルアルバムと言う形自体が少ないのだ。
よくあるのは、デビュー盤だけはオリジナルアルバムの形をとってもらえるが、持ち曲が少ないので、たいていカバーを入れて曲数を稼ぐ。
持ち曲が増えてきたころには、全曲集の形式に切り替わってしまうので、純粋なオリジナル盤がないままと言う流れだ。
アルバム好きな僕としては残念なことだ。
しかしである。
演歌の中にも、オリジナルアルバムであり、さらにコンセプトアルバムとして作られた作品は存在するのだ…!
演歌のコンセプトアルバムという響きだけでマニア心をくすぐるのである。
ただしこういうコンセプトで、既にある曲を集めました的なベストアルバムは多数存在する。
そうではなく、このコンセプトアルバムのために書き下ろされた曲で構成されていることが大切なのである。
いかんせん情報が少ないので、今回紹介するアルバムも厳密にコンセプトアルバムではないものも含まれるが、名作と思われるものを紹介した。
僕も見つけた範囲になるため、ぜひ他に知っている人がいたら教えてほしい。
それでは作品の概要とコメントを書いていこうと思う。
・尾形大作『敬天愛人~幕末青春グラフィティ』(1988年)
出典:Amazon
1.西郷隆盛
2.吉田松陰
3.土方歳三
4.中岡慎太郎
5.勝海舟
6.坂本竜馬
7.高杉晋作
8.近藤勇
9.桂小五郎
10.沖田総司
(全曲作詞:星野哲郎、作曲:浜口庫之助)
コンセプトアルバムと言ったら、まずはこちらを挙げなければならない。
尾形大作氏と言えば「無錫旅情」で紅白歌合戦に出場している歌手。
こちらは幕末に活躍した人物10人を題材にしたアルバムで、かなりコンセプトのしっかりしたアルバム。
ちなみに第30回日本レコード大賞の企画賞を受賞している。
さらに最近は島津亜矢氏がカバーで「西郷隆盛」、「吉田松陰」を歌っていたように思う。
曲調は軍歌調のものから、演歌、歌謡曲と結構バリエーションがある。
歌詞のコンセプトもさることながら、曲も素晴らしく、まさに演歌のコンセプトアルバムの代表格だ。
軍歌調のものがあるためか、右寄りの方々に信奉されているアルバムと聞く。
現在は廃盤で高値で取引がされている。
ちなみに都内であれば、足立区の図書館で借りることができる(区民以外の貸し出しも可)。
門倉有希『短編小説』(2009年)
1.小説(作詞:荒木とよひさ 作曲:松本俊明)
2.海猫(作詞:荒木とよひさ 作曲:都志見隆)
3.勇気(作詞:荒木とよひさ 作曲:山崎一稔)
4.薔薇(作詞:荒木とよひさ 作曲:後藤次利)
5.懺悔(作詞:荒木とよひさ 作曲:羽場仁志)
6.輪廻(作詞:荒木とよひさ 作曲:後藤次利)
7.潮騒(作詞:荒木とよひさ 作曲:羽場仁志)
8.岸辺(作詞:荒木とよひさ 作曲:都志見隆)
9.友情(作詞:荒木とよひさ 作曲:松本俊明)
10.満月(作詞:荒木とよひさ 作曲:鈴木キサブロー)
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こちらは演歌というより歌謡曲のコンセプトアルバム。
全編作詞は荒木とよひさ氏であり、曲名も漢字二文字と言うあたりもしっかりコンセプトアルバムだ。
1曲ごとに短編小説のように、女性の物語が緩やかに紡がれていくアルバムで、楽曲のメロディも素晴らしい。
しっとりした曲も激しいサウンドの曲もあり、飽きさせない作りとなっている。
これも名盤だ。
・小沢亜貴子『花鳥風月~季節の写し絵~』(1997年)
1.夢散華[花の章] (作詞:秋浩二/作曲:弦哲也)
2.恋散る港[花の章] (作詞:麻こよみ/作曲:弦哲也)
3.京都さんねん坂[花の章] (作詞:仁井谷俊也/作曲:弦哲也)
4.呼子鳥[鳥の章] (作詞:秋浩二/作曲:弦哲也)
5.夢綴り[鳥の章] (作詞:もときあつ子/作曲:大倉百人)
6.風舞岬[風の章] (作詞:仁井谷俊也/作曲:弦哲也)
7.十六夜月の舞[風の章] (作詞:加藤健/作曲:羽場仁志)
8.方恋草紙[風の章](演歌ジャーナル公募作品) (作詞:紫野ゆき/作曲:蔦将包)
9.千年月[月の章] (作詞:仁井谷俊也/作曲:弦哲也)
10.季節の私夢話[月の章](作詞:仁井谷俊也/作曲:田村武也)
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こちらも力作である。
アルバム全体で花鳥風月を表し、曲にも花鳥風月が割り当てられている。
前半の花の章は割と演歌職が強く、鳥の章は少し歌謡曲調。
風の章でポップス寄りになり、月の章で壮大に締めるという流れも見事。
小沢亜貴子氏のデビュー5周年記念盤として制作されたようで、
その後はやっぱりオリジナル盤はなさそうである。
・前田有紀『釜山発~韓国シリーズベスト~』(2011年)
1.釜山発 (作詞:もりちよこ /作曲:ユ・ヘジュン)
2.ソウルの雨 (作詞:もりちよこ /作曲:Yoo,HaeJoon)
3. ケンチャナ ~大丈夫~ (作詞:もりちよこ /作曲:Yoo,HaeJoon)
4. サランヘ~愛してる~ (作詞:もりちよこ /作曲:ユ・ヘジュン)
5. 永縁 (作詞:もりちよこ /作曲:ユ・ヘジュン)
6. ミアネヨ ~ごめんなさい~ (作詞:もりちよこ /作曲:ユ・ヘジュン)
7. 釜山発(韓国語バージョン) (作詞:もりちよこ /作曲:ユ・ヘジュン)
8. 釜山港へ帰れ (作詞:黄善雨/訳詞:三佳令二 /作曲:黄善雨)
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コンセプトアルバムというより、コンセプトベストではあるが、良いアルバムなので取り上げた。
韓国シリーズと言うことで、特に1曲目の「釜山発」は韓国のトロットに挑戦した曲だ。
トロットはダンスビートに日本の演歌のメロディを乗っけたとでも言おうか。
韓国では人気があるらしいのだが、日本ではあまり人気がないようだ。
クレイジーケンバンドがパク・サンチョル氏の「無条件」をカバーし、後に川﨑麻世氏が日本語詞でカバーするも、いずれもそこまで話題になっていない。
他の曲は歌謡曲調でトロットは1曲目だけだが、作詞・作曲者も比較的一貫しており、
コンセプトを感じて聴きやすいために選ばせてもらった。
・尾形大作『心風流にして中国(チャイナ)』(1989年)
1.大連の街から
2.清明橋から
3.万里の長城
4.蘇州の女 (ひと)
5.無錫旅情
6.天津に来たよ
7.上海の橋のたもとで
8.ハルピンの青い空
9.夢の桂林
10.時空2000年~成都にて
(全作詞・作曲:中山大三郎)
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割と最近見つけてしまった尾形大作氏のもう1枚の(おそらく)コンセプトアルバム。
「無錫旅情」や「大連の街から」も入っており、ベスト的な要素も強いのかもしれない。
しかし全曲中山大三郎先生による楽曲であることがとてもポイント高い。
「無錫旅情」のような勇壮な曲を期待して期待通りの作品である。
ただメジャー調の曲や、歌謡曲調のものもあり、飽きさせない構成になっている。
『敬天愛人』とは違った尾形氏の一面が垣間見れる貴重なアルバムである。
いかがだっただろうか。
男性の作品があまりリサーチできていないが、いずれも名作なので、気になったものは探してみてほしい。
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