結成から35周年を迎えたロックバンドeastern youth、2023年ワンマンツアー「35周年記念巡業〜EMOの細道」が行われた。
平坦ではなかったというその歩みとともに、バンドの歴史を振り返るような選曲のライブだった。そして2015年に加入した村岡ゆかとともに歩んだeastern youthの1つの総決算だったようにも見えた。
今回は12月2日(土)東京 Spotify O-EAST公演をセットリストを含めてレポートするとともに、村岡氏とともに歩んだeastern youthの今について語りたい。
ライブレポート:eastern youth 35周年記念巡業〜EMOの細道2023 東京 Spotify O-EAST
2023年のワンマンツアー「35周年記念巡業〜EMOの細道2023」は、9月のF.A.D YOKOHAMAから計11公演の全国ツアーである。
周年のライブは嫌いそうなバンドであるが、それが”EMOの細道”というややふざけた名前を付けたところに滲んでいるようにも見える。
とは言え、内容について「18枚のアルバムおよび全シングルの中から楽曲を厳選した」とのこと、歴代の代表曲を詰め込んだセットリストになるらしい。
筆者としては初日の横浜公演に行きたかったのだが、都合がつかなかった。12月まで長らく待って、渋谷のSpotify O-EASTに足を運んだ。
整理番号は100番台で前の方ではあったが、前に行くことにこだわらなかったので、17:30頃に会場に到着。全ての番号は呼び出しが終わり、自由に入場できる状態だった。
会場に入ると既にお客さんで溢れ返っている。それもそのはず、この日の公演は満員御礼であり、ステージの上手側には「満員御礼」の手ぬぐい(?)が貼り出されていた。
フロアの最後方の吉野氏側でライブを見ることにした。定刻の18時を少し過ぎた頃、メンバーが入場曲とともに登場。
静かなイントロから1曲目は「今日も続いてゆく」。オールタイムベスト的な選曲の時は、現時点での最新曲からスタートしたかったのかもしれない。
ギターを持ち替えると、4カポであのコード進行が聞こえ始める。さっそく往年の代表曲「夏の日の午後」である。そのまま「砂塵の彼方へ」と続ける形は、2019年の日比谷野音公演を思わせる。
そろそろMCがあるかと思ったが、さらに楽曲を続けて演奏していく。
うっかり歪んだ音で前奏を始めてしまうも、「踵鳴る」そして「青すぎる空」。中盤で演奏されることが多いこれらの曲を序盤に持ってくる辺り、あとに曲がたくさん控えていることを思わせる。
サビでは拳が上がる「裸足で行かざるを得ない」、イントロでは手拍子の起きた「素晴らしい世界」と、00年代初めまでの名曲たちが惜しみなく披露される。
少し意外だったのが、ここで「ドッコイ生キテル街ノ中」、披露されるのは結構久しぶりではないか。キーが半音低くなっていたのが新鮮だった。
ここまでMCはなかったように思う。昔の楽曲を立て続けに披露してきたが、会場全体の雰囲気は少し硬い印象を持った。
この日初のMCでは、吉野氏が「諦めないと言ってきたが、諦めるものはとうに諦めてきた」と語る。
「これ以上何をあきらめろと、社会は何を諦めろと言うのか、生きることを諦めろと言うならば、一歩たりとも諦めない」という力強いMCから「ソンゲントジユウ」。
やはり個人的にはこうした語りとも言えるMCと楽曲が重なり合うところに近年のeastern youthの魅力があるように感じた。
イントロの恒例のディレイギターで少々ミスる吉野氏、今日は珍しくところどころでミスがあった。「矯正視力○・六」、今日は個人的には中期以降の楽曲の方がグッとくる感じがあった。
ずっとチャックが開いているか気にして生きてきた、という冗談のような本気のようなMCの吉野氏。それでも進むしかないというMCから「いずこへ」「雨曝しなら濡れるがいいさ」と初期の楽曲が続く。
あっという間にライブは後半戦に入っていく。何だか今日はサクサクと進んでいく感じがする。
爆音でコードをかき鳴らして始まった「たとえばぼくが死んだら」、村岡氏のコーラスが美しい「時計台の鐘」、新旧の楽曲ながら村岡氏が加入してから披露が増えた曲(後者は加入後の曲)たちだ。
そしてここで行われたMCがこの日1番印象に残っている。吉野氏が2人のメンバーを紹介していくと言う趣のMCだった。
まずは岡山出身の村岡氏、桃太郎の末裔ということで、ギャラも村岡氏を通じて我々に入ってくるので逆らえない、とどこまで本当か分からない話。
続いて唯一の子どもからの友人であると紹介した田森氏。ネタ化しているから話したくないと言いつつ、各地で話していたと言う大久保の磯丸水産の話が紹介された。
バンドは平たんな道のりではなく、前任のベーシスト二宮友和氏が辞める時、吉野氏はバンドを辞める気だったのだと言う。
あんな天才の後を継げる人がいないと思ったからとのこと。吉野氏は二宮氏が辞めることは分かっていたと言うが、田森氏は全く状況がつかめなかったらしい。
大久保の磯丸水産でしっかり話をすることにしたが、吉野氏は田森氏が辞めることに賛同し、たくさん飲もうと思って居酒屋に行ったそうだ。
しかし田森氏は続ける、辞めるのは簡単だが、やれるところまでやる、と話したという。どうしようと思ったら、川から流れてきた桃から村岡氏が出てきてバンドが続けられたと笑いを誘った。
しっかりとオチはついたが、この2人のおかげでバンドが続いている、という感動的な話だった。
そして最後に吉野氏自身は「名前はまだない。血は36℃で沸騰する」と言って始まった「沸点36℃」。この流れがこの日のハイライトだったのではないか。
このMCそしてこの流れが聴けただけでも来て良かったと思う。これでこそeastern youthの真骨頂だと思える瞬間だ。
「だから今日もここに立って」と言う歌詞が重みを増している。eastern youthが、そして吉野氏がここにいるのもメンバーがそれぞれいてくれたおかげなのだ。
どうもサクサクと進んできたライブではあったが、ここでしっかりスイッチが入ったような気がした。
ここからは最後まで一直線、続けて披露された「荒野に針路を取れ」の流れも素晴らしかった。そして待ってましたの「夜明けの歌」、恒例の「街の底」で本編は締めくくられた。
eastern youthらしい演奏と場の流れのうねりのようなものが温まるのに少し時間がかかった感もあるが、後半の流れは素晴らしかったと思う。
1回目のアンコールでは村岡氏にMCを振る吉野氏。相変わらず少ししか話さない村岡氏に何やらジェスチャーを送りつつ、「More」と促す吉野氏である。
アンコールはあと何をやっていないかと考えていて「街はふるさと」「月影」辺りが思いついたが、この日は「月影」が披露された。個人的にはこの曲はいつもテンションが上がる。
アンコールは1曲だけで終わり、SEが流れてからダブルアンコールも最近は定番だ。ラストは必殺の「Don Quijote」で力強く終わった。
あまりに後半の流れが良かったためか、再度のアンコールがなかなか鳴りやまなかった。ファンもまだまだ見たい、と思う感じもあったように思えた。
ただ機材の撤収が始まり、残念ながら予定外のアンコールはやらない様子だ。2時間半弱のライブ、祝祭ムードは特になく、いつも通りの全身全霊のパフォーマンスだったと思う。
<セットリスト・収録作品>
No. | タイトル | 収録アルバム |
---|---|---|
1 | 今日も続いてゆく | 『2020』(2020) |
2 | 夏の日の午後 | 『旅路ニ季節ガ燃エ落チル』(1998) |
3 | 砂塵の彼方へ | 『雲射抜ケ声』(1999) |
4 | 踵鳴る | 『感受性応答セヨ』(2001) |
5 | 青すぎる空 | 『旅路ニ季節ガ燃エ落チル』(1998) |
6 | 裸足で行かざるを得ない | 『孤立無援の花』(1997) |
7 | 素晴らしい世界 | 『感受性応答セヨ』(2001) |
8 | ドッコイ生キテル街ノ中 | 『心ノ底ニ灯火トモセ』(2011) |
9 | ソンゲントジユウ | 『SONGentoJIYU』(2017) |
10 | 矯正視力○・六 | 『DON QUIJOTE』(2004) |
11 | いずこへ | 『孤立無援の花』(1997) |
12 | 雨曝しなら濡れるがいいさ | 『雲射抜ケ声』(1999) |
13 | たとえばぼくが死んだら | 『口笛、夜更けに響く』(1995) |
14 | 時計台の鐘 | シングル『時計台の鐘』(2018) |
15 | 沸点36℃ | 『地球の裏から風が吹く』(2007) |
16 | 荒野に針路を取れ | 『365歩のブルース』(2006) |
17 | 夜明けの歌 | 『感受性応答セヨ』(2001) |
18 | 街の底 | 『ボトムオブザワールド』(2015) |
アンコール1 | ||
19 | 月影 | 『口笛、夜更けに響く』(1995) |
アンコール2 | ||
20 | Don Quijote | 『DON QUIJOTE』(2004) |
全体の感想
今回のライブ全体を見ると、オールタイムベスト的な35周年を記念するに相応しい曲目が並んでいた。なおライブのノリと言う意味では、前半ちょっと固い場面があったように感じた。
2019年の日比谷野外音楽堂でのライブが会場のノリやMC・演奏の流れが抜群に良かったのだが、なかなかそうした奇跡的な流れの良さは、毎度できるものではないというのも実感した。
しかし後半はMCも含めて、eastern youthらしいパフォーマンスが展開されたように思える。
曲目については、今の音楽性となった1995年の『口笛、夜更けに響く』以降のアルバムから、かなり満遍なく選ばれていたように思う。
1曲も入らなかったのは、『其処カラ何ガ見エルカ』(2003)・『歩幅と太陽』(2009)・『叙景ゼロ番地』(2012)の3枚であった。
ただこれらの作品に代表曲がないと言う訳ではもちろんない。今回選曲されるにあたって、1つのポイントがあったように思えた。
それは今回のライブが、村岡ゆか氏がeastern youthに加わり、彼女とともに作り上げたeastern youthの1つの総決算だったのではないか、と見ている。
何より今回のツアー各所で話されたという、MCが物語っている。珍しく吉野氏がMCの中で直接メンバーへの感謝をありのまま伝える場面があった。
そして二宮氏の脱退について触れたこと、吉野氏はバンドを辞める気だったこと、田森氏続けたいと話したこと、そして村岡氏が加入して今がある、と言うエピソードが話されている。
35周年を迎えるにあたり、ベーシストの交代、そして村岡氏の加入については触れない訳にはいかなかったのだろう。
バンドの1ファンとして、そしてミュージシャンとなって活動していた村岡氏。最初は演奏できる楽曲も限られていたところから、ここまでeastern youthの歴代の曲を弾きこなすところまで到達した。
今回選ばれた曲たちは、代表曲であり、かつ村岡氏が加入してからよく演奏されるようになった楽曲が集められているように感じた。
このツアーのために特別に練習した曲よりは、ずっと演奏して馴染んできた曲たちを、つまりありのままのeastern youthがここにあると、示すようなライブになっていたのだと思う。
そうした村岡氏への感謝、そしてバンドを続けることを提案した友人田森氏への感謝に溢れた35周年のライブだった。
※【eastern youth】ベース”村岡ゆか”が加入して見られた変化とは?
<本公演で披露された楽曲を多く含むアルバム>
・『旅路ニ季節ガ燃エ落チル』(1998)
・『感受性応答セヨ』(2001)
・『DON QUIJOTE』(2004)
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