日本のハードロックバンド人間椅子は、その怪奇な世界観はデビュー前から一貫したものがある。その源泉には、怪談や伝承、文学作品など多岐にわたっている。
中でも人間椅子の楽曲の中には、オカルト・スピリチュアル・陰謀論に関する内容が含まれているものもある。とりわけギター・ボーカルの和嶋慎治氏がこれらの領域に造詣が深い。
今回の記事では、人間椅子の歌詞に登場するオカルト・スピリチュアル・陰謀論の世界を知ろうというテーマでお送りする。知らなくても楽曲は楽しめるが、知れば裏の意味をさらに楽しめるだろう。
オカルト・スピリチュアル・陰謀論が登場する人間椅子のおすすめ10曲
人間椅子の歌詞に登場するオカルト・スピリチュアル・陰謀論の世界について、筆者がおすすめする10曲を通じて紹介していこうと思う。
そもそもオカルト・スピリチュアル・陰謀論と3つを一括りにするのも乱暴なほど、それぞれに膨大な情報があるのだが、ここではあえて一つにまとめた。
これらは全て「目には見えないが、実際に存在すると信じられているもの」である。私たちが見えている世界・社会では、こうしたものは”ないもの”と捉えて生活が回っている。
しかし人間社会の外側には(あるいは内部にも)、実は目に見えていない領域が広大にある。それらを科学的には語れないので、オカルト・スピリチュアル・陰謀論などに追いやっているのだ。
筆者の立場は、これらの話は存在する、と思っている。なお今回その存在の是非について議論するつもりはない。
さて人間椅子の歌詞に登場するオカルト・スピリチュアル・陰謀論は、かなり明確に描かれているものもあれば、ほのめかす程度のものもある。
一部に筆者の主張も含まれることにはどうしてもなるが、人間椅子の歌詞から読み取れることや、歌詞が伝えようとしているものをくみ取って書くことを心掛けた。
それぞれ元ネタとなっていると思われるテーマは概要を示すにとどめ、興味のある方は各自で詳しく調べてみていただきたい。
水没都市
- 作詞・作曲:和嶋慎治
- 収録アルバム:『黄金の夜明け』(1992)
- 歌詞の内容:水没した文明・大陸(アトランティス・ムー・レムリアなど)
大作が多数収録されたアルバム『黄金の夜明け』の中でも、ヘヴィながら切ないメロディが印象的な人気曲である。
この楽曲で歌われるのは、かつて存在したという文明や大陸のことである。古代文明と言えば四大文明が思い浮かぶが、そのさらに昔に存在した文明・大陸があるという。
それがアトランティス、ムー、レムリアなどである。これらは突然の天変地異によっていずれも水没してしまったと言われる。
ムー大陸はアメリカのチャーチワード氏による説が唱えられたが、学術的には否定されており、その後はオカルトの文脈などで日本でも一時期話題になっていた。
「水没都市」では具体的な大陸や文明への言及はなく、歴史から消え去ってしまった幻の大陸へのロマンのようなものが感じ取れる内容となっている。
また現在歴史上語られる文明よりも前に、実は高度な文明が存在し、何度も滅んで今の文明があるのではないかということも感じさせる。
見知らぬ世界
- 作詞・作曲:和嶋慎治
- 収録アルバム:『見知らぬ世界』(2001)
- 歌詞の内容:禅における境地
和嶋氏のポップな作風が賛否両論を生んだアルバム『見知らぬ世界』のタイトル曲である。この曲は非常に観念的な歌詞になっており、様々に解釈をすることができる。
実際のところは、和嶋氏が再びバンド活動・表現に集中するために離婚を決意、原点とも言える高円寺に戻って感じた新鮮な感覚が歌詞に結びついていると言う。
ただそうした精神世界に入り込むような体験は、和嶋氏は禅の中で体験したことがあるようである。たとえばそれは不思議な光に包まれるような体験がある。
禅の境地についてはこちらに詳しく書かれているが、欲界・色界・無色界という3つの段階で私たちが達する境地があるようである。
普段は肉体に縛られて生きている私たちも、精神の世界に集中することで、これまで見たことのない世界を体験(感じると言う方が正確か)できるのだ。
もちろん禅や瞑想と言った作法も必要かもしれないが、和嶋氏が高円寺で鳥のさえずりを聴いた時の新鮮な感覚は、肉体を離れて高次元と結び付き、「見知らぬ世界」と言う曲として具現化したのだろう。
愚者の楽園
- 作詞・作曲:和嶋慎治
- 収録アルバム:『此岸礼讃』(2011)
- 歌詞の内容:人間の執着、お金のない世界
現実を肯定すること、をテーマにしたアルバム『此岸礼讃』の中で、軽快なブルースロック調の楽曲ながら、メッセージ的には重要な楽曲である。
もともとの”愚者の楽園”の意味は、イギリスの経済学者ケインズが戦後のイギリスを嘆いて呼んだもの。本当は地獄のような場所かもしれないのに、幸せだと思っている状況を指すようだ。
この曲で歌われているのは、冒頭の一節が全てであり、「何も持たないことは素敵なことだ」ということである。それは共産主義のようなイメージより、自らの執着を捨てると言う意味に近いだろう。
人は物もお金もどんどん溜め込むからこそ、むしろ欲求は絶えることがなく不幸せになる。逆に何も持たない、むしろ与えることで循環が生まれ、幸せな世界になるのではないか、ということだ。
ここで言う愚者の楽園(あるいは貧者の花園)は、何も持たない=貧乏と言われるような人こそ幸せである、という意味合いで使われている。
お金がないことはディストピアなどではなく、むしろ人間にとってお金のない世界こそユートピアなのではないか、ということだ。
月のモナリザ
- 作詞:和嶋慎治、作曲:鈴木研一
- 収録アルバム:『萬燈籠』(2013)
- 歌詞の内容:月にあったという巨大建造物と宇宙人の遺体
ハードかつヘヴィな路線にシフトした『萬燈籠』に収録された、鈴木氏による渋い楽曲である。実は宇宙シリーズの楽曲と言っても良いテーマになっている。
人類の月面着陸には様々な噂が渦巻いており、本当は月には行っておらず、全て映像を作っていただけであると言う説もあるし、実は月でとんでもないものを見て隠された、というものもある。
1969年のアポロ11号での月面着陸、その後アポロ17号以降は月面に着陸したことはないのが確かに不思議でならない。
個人的にはNASAが映像を作っていただけ、と言うよりも、月で見つけてしまったとんでもない事実、と言う方がワクワクするものである。
それが実はアポロ20号まで極秘に探索が続いていて、月で巨大建造物と女性エイリアンの遺体が発見されたと言う話である。その遺体こそ、「月のモナリザ」と名付けられている。
詳しくは上記の記事を読んでいただくとして、なぜか無傷であったことや、アンドロイドだった様子が窺えるなど、興味を惹かれる点が多い。
そんな月のモナリザについて、この曲では非常にロマンチックに描かれる。私たちの知らない月の裏側で、使命を持って眠り続ける女神としての月のモナリザである。
「水没都市」と似た傾向の歌詞でもあり、私たちの目には見えない存在への畏敬とも言える和嶋氏のまなざしが窺える歌詞である。
異端者の悲しみ
- 作詞・作曲:和嶋慎治
- 収録アルバム:『異次元からの咆哮』(2017)
- 歌詞の内容:人間の魂のありか・故郷
20作目のアルバム『異次元からの咆哮』のラストに配置されたヘヴィな楽曲である。タイトルは谷崎潤一郎の小説から取られている。
ここで歌われる内容は、人間の本体でもある魂と、その故郷に関する内容である。人間の心は果たしてどこにあるのか、というテーマは心理学や脳科学などでもホットなテーマだ。
しかしスピリチュアルの領域で言えば、それは魂であろう。魂とは形あるものではなく、おそらく人間の肉体を取り巻くエネルギー体のようなものだが、本当はそちらが私たちの本体である。
あくまで肉体は借り物に過ぎず、この世界に生まれてくるときには、身体の中に閉じ込められてしまう。仏教で言う四苦(生・老・病・死)があるのも肉体を持つがゆえである。
そして魂の故郷とは、仏教で言うところの浄土であり、それは光に包まれた世界であるようだ。和嶋氏は魂や魂の故郷については他の楽曲でもよく取り上げている。
たとえば「光へワッショイ」(『此岸礼讃』収録)は魂の故郷のことであり、「無情のスキャット」(『新青年』収録)でも救われること=光に包まれることと歌われる。
余談であるが、「光の国からぼくらのために」と歌われるウルトラマンが、実は弥勒菩薩ではないかと言う説があるのも、魂の故郷である光の国=浄土から衆生を救いにやって来るのである。
宇宙のディスクロージャー
- 作詞:和嶋慎治、作曲:鈴木研一
- 収録アルバム:『新青年』(2019)
- 歌詞の内容:UFOに関する情報開示
文学作品からタイトルを借りた楽曲も多い『新青年』の中にあって、しっかりと陰謀やオカルト分野からの話題を盛り込んでいるのが「宇宙のディスクロージャー」である。
鈴木氏の作る宇宙シリーズの楽曲ではあるが、おそらく前提知識がないとなんのこっちゃと言う歌詞なのだ。
まずはディスクロージャーとは情報開示のことであり、とりわけUFOや宇宙人、また地球の隠された歴史などに関する情報開示のことである。
ネットニュース等でも、アメリカでUFOに関する情報開示をするかどうか、のような話題を見かけたことはあるのではなかろうか。
もはやオカルトでも何でもなくUFOに関する機密情報は話題に出されている。そしてUFOの存在が明らかになり、もし宇宙人とコンタクトが取れると、驚くべき事実が明らかにされるはずなのだ。
たとえばこの曲にも登場する「爬虫類人」とは、レプティリアンなどと呼ばれ、異星人が擬態して地球に住み着いているのだと言う。
実はレプティリアンが宇宙からやって来て地球を支配し、人類の奴隷化を図ったと言われている。支配層の上をたどっていくと、宇宙人にたどりつく訳である。
また「秘密基地」は、軍事上の目的以外に、巨大な地下基地があると言う噂もある。
昔は宇宙人と地球人のコンタクトは普通にあったのでは?と言う話もあり、たとえばピラミッドなどどうやって当時の技術だけであんな巨大な建造物ができるのか、という疑問がある。
古代の遺跡などは、実は宇宙人が作ったとしか考えられないものが多数ある。そうした隠されてきた真実を開示しよう、というのがこの曲のテーマなのだ。
あなたの知らない世界
- 作詞・作曲:和嶋慎治
- 収録アルバム:『新青年』(2019)
- 歌詞の内容:アセンション
再び『新青年』の中から、1970年代にテレビで放映された「怪奇特集!!あなたの知らない世界」にタイトルを借りた楽曲である。
歌詞の内容は心霊現象などではなく、実は地球のアセンション(次元上昇)のことを歌ったものではないかと考えられる。
アセンションとは、私たちの暮らす地球、そして私たち自身のエネルギーがレベルアップ(周波数が上がると言う)することで、私たちの意識が変化し、世界が変化することである。
私たちの精神は多次元の構造となっており、3次元(肉体)から順に上がっていき、エーテル体・アストラル体などがある。
こうした精神の世界は目に見えないエネルギーの話であるが、アセンションとは肉体を持ちながら精神レベルが上昇することであるとも言われる。
アセンションのことだと窺われるのは「古い書物の伝える」などはキリストの昇天を思わせ、「恒星たちの計画」なども、宇宙レベルでの次元上昇を意味するものと思われる。
ただしこの曲で歌われるアセンションは、神秘的な力によって人々の意識が上昇すると言うよりも、私たち自身の心に返り、善い生き方をすることで地上が楽土になるという考え方である。
常に私たちの心が世界を作り出すと言う捉え方は、やはり仏教的な思想が色濃く表れているように思える。
悪魔の処方箋
- 作詞・作曲:和嶋慎治
- 収録アルバム:『苦楽』(2021)
- 歌詞の内容:奴隷的支配による社会構造
弥勒菩薩が禁断の果実であるりんごを手にするジャケットが印象的な『苦楽』収録の楽曲。筆者としては、本作の中でも最も危ないところを切り出した楽曲ではないか、と思っている。
「悪魔の処方箋」というタイトルだが、ニュアンス的には「悪魔への処方箋」だと言う。つまり”悪魔”なる存在に私たちはいかに対処するのかという歌詞になっている。
果たして悪魔とは何かということだが、いくつか解釈できる。1つは精神世界における、悪のエネルギーのことである。
先ほどの「あなたの知らない世界」で言われるアセンションなど、私たちが意識レベルを上げていくことを妨げ、私たちを肉体に閉じ込め、苦しめようと言う存在である。
その存在こそ「宇宙のディスクロージャー」であった地球を支配しようとする宇宙人でもあり、彼らは私たちの精神に巣食って、不安を植え付け、意識レベルを下げようとするのだ。
さらにより実社会に近いところでは、そうした宇宙人の配下となった人間である。地球に住む人々の奴隷化計画を行う人たちであり、政界・財界に潜んでいると言われる。
これまで陰謀論と言われてきたディープステート(闇の政府)もその1つであるが、昨今ではその存在は表舞台でも口にされることが多くなってきた。
私たちが当たり前に暮らす社会も、実はこうした悪魔の存在によって牛耳られた世界になっており、そこからいかに脱するのか、というのが「悪魔の処方箋」の主題に思える。
人間ロボット
- 作詞・作曲:和嶋慎治
- 収録アルバム:『苦楽』(2021)
- 歌詞の内容:ムーンショット計画
『苦楽』の中に収録された、ややコミカルなタッチの楽曲である。この曲で歌われているのは、内閣府が推進するムーンショット目標(計画)と呼ばれるものである。
「2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現」と、まるでオカルトの世界であるが、内閣府のホームページに大きく書かれているのである。
しかし私たちは果たしてこうした社会を望んでいるのだろうか、というのがこの曲での問いかけとも言える。
私たちの身体や脳が、AIやロボット技術と組み合わされ、これまでの制約から解放されると言う。そうなると人間らしさや、人間とロボットの境目は一体何になるのだろう、ということだ。
また内閣府のページには「社会通念を踏まえた新しい生活様式を普及させる」とあるが、”新しい生活様式”と言う言葉に引っかかる。それはコロナの時によく耳にした言葉である。
コロナの時にはオンライン会議や飲み会まで行われ、何か新しい生活様式を受け入れなければならない風潮になった。あれがムーンショットの予行演習の一環だとしたら、と思うと何だか寒気がする。
誰しもが望む世界になれば良いとは思うが、何かの陰謀によって進められているのではないか、という空恐ろしさをこの曲では歌っているように感じられる。
宇宙の人ワンダラー
- 作詞:和嶋慎治、作曲:鈴木研一
- 収録アルバム:『色即是空』(2023)
- 歌詞の内容:ワンダラー(別の星で生まれた魂を持つ人)
2023年リリースのアルバム『色即是空』の中から、鈴木氏による宇宙シリーズの楽曲である。この曲の歌詞の意味は、ワンダラーの用語を知ることが重要である。
ワンダラーとは、異星から転生した魂が地球人の肉体に宿り誕生した人のことである。別の星からやって来た魂を持つ人には、特別な使命があり、先ほどのアセンションを進める存在とも言われる。
アメリカのスコット・マンデルカー博士という心理学者によって1990年代に発表されたものだと言う。
こちらのページによれば、ワンダラーの人の中にも自分が他の星からやって来た使命を自覚している人、していない人がいるのだと言う。
歌詞の中には「何を言えばいい」と言われているように、ここではまだ眠ったワンダラーの人の歌なのかもしれず、乱れた地球の様子を見て、使命に目覚めようとしているのかもしれない。
似た言葉にウォークインがあり、途中で地球人の肉体に魂が入り込むというパターンもある。
ちなみにこの曲のラストの「ベントラベントラスペースピープル」はUFOを呼ぶ呪文と言われる。歌詞の文脈から外れるので和嶋氏は入れるのを渋ったようだが、面白いので最後に入れられたようだ。
まとめ
今回は人間椅子の楽曲の中に登場する、オカルト・スピリチュアル・陰謀論の話題を取り上げて紹介した。
UFOなどの宇宙の話題から、精神世界の話まで、かなり多岐にわたっており、改めて筆者も調べながら書くと非常に面白いものばかりであった。
人間椅子の楽曲を楽しむ上では、こうした内容を知っておくとより楽しめるのではなかろうかと思う。とは言え、人によってはなかなか受け付けないと言う人もいるのかもしれない。
人間椅子の楽曲は、文学作品からタイトルを借りる場合もそうだが、あくまで世界観の一部分を借りると言うスタイルである。決してそのものを歌詞にしている訳ではない。
それぞれの楽しみ方で、奥深く知ろうと思えばどこまでも楽しめるのが人間椅子の楽曲である。
※【人間椅子】和嶋慎治の表現の変化から考えるバンドの若い頃の良さ・歳を重ねた良さとは?
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