【エレファントカシマシ】シングル『yes. I. do』に見る”らしさ”とソロ活動を経た35周年の現在地とは?

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エレファントカシマシ
画像出典:Amazon

今年でデビュー35周年を迎えるロックバンド、エレファントカシマシ。3月8日(水)に4年9ヶ月ぶりとなるシングル『yes. I. do』がリリースされた。

近年はボーカルの宮本浩次氏のソロ活動が中心となり、エレファントカシマシとしての本格的な活動再開となるシングルであった。

さっそく新曲を聴いてみた感想として、筆者はエレカシらしさと同時に、35周年記念で再始動というタイミングで、非常に渋い「yes. I. do」という楽曲が出てきたことへの意外さも同時に感じた。

これまでの宮本氏ならば、もっと派手でパワフルな楽曲を持ってきてもおかしくない。しかし今回の再始動までの道のりを考えると、今回の楽曲はとても必然的なようにも思われた。

今回はシングル『yes. I. do』の魅力を掘り下げるとともに、なぜこうした楽曲が生まれ、35周年の再始動にあたってリリースされたのか、考察してみた。

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シングル『yes. I. do』について

今回取り上げるシングル『yes. I. do』について、基本情報を確認するとともに、筆者が聴いた時の印象や、その音楽的な特徴などをまとめてみた。

作品概要

<初回限定新春盤>

シングルCD+「新春ライブ 2022」(2022年1月12日、日本武道館公演)のBlu-ray

<初回限定野音盤>

シングルCD+「日比谷野外大音楽堂 2022」(2022年9月25日、日比谷野外音楽堂)のBlu-ray

<通常盤>

シングルCDのみ

  • 発売日:2023年3月8日(水)
  • レーベル:ユニバーサルシグマ

<収録楽曲>

作詞・作曲:宮本浩次

  1. yes. I. do
  2. It’s only lonely crazy days
  3. yes. I. do (Instrumental)
  4. It’s only lonely crazy days (Instrumental)

全4曲入りのシングル、3形態でのリリースとなっている。

なお「yes. I. do」は、2023年2月17日公開の映画「シャイロックの子供たち」の主題歌として書き下ろされた。

主題歌を担当するにあたり、宮本浩次氏からのコメントは以下のページに掲載されている。

主題歌はエレファントカシマシ「yes. I. do」!宮本浩次、阿部サダヲ、本木克英監督からコメント到着! | ニュース | 映画『シャイロックの子供たち』公式サイト
「空飛ぶタイヤ」チーム再集結!池井戸潤の傑作群像劇、初の映画化。

本作の”意外な”第1印象

さて、今回のシングル『yes. I. do』は、4年9か月ぶりのシングルと言うことで、期待もありつつ、少し不安な気持ちも一方であった。

後でも詳しく書くが、以前宮本氏の療養で1年間休止した後のシングル『あなたへ』移行のエレカシは、それまでのエレカシと何かが違うように感じていた。

そして2019年からずっと宮本氏のソロ活動が続き、もう一度エレカシをやると言っても、もう違ったものになってしまったのではないか、と思っていた節があった。

しかし今回の楽曲、驚くほどエレカシの楽曲としてすんなり入ってきた。ちょっと聴いただけで、「ああ、エレカシだ」と思うような何かが宿っているのである。

それは「あなたへ」を聴いた時とは全く違う感覚であった。

そして35周年での再始動、久しぶりのシングルにしては、とても渋い楽曲を持ってきたな、というのが最初の感想である。

楽曲の雰囲気としては、2010年リリースの『悪魔のささやき〜そして、心に火を灯す旅〜』の頃を少し思い出すような曲調である。

メロディはポップながら、華やかなアレンジではなく、武骨なロックを鳴らしているのがエレカシらしい。ポップとロックが程よく混ざり合っている印象である。

そしてAメロが繰り返された後、すぐにサビが来ないで間奏が挟まれる点も興味深い。宮本氏のボーカルは前面に出つつ、Aメロ・サビと言う構成も歌謡曲と言うよりロックの展開である。

カップリング曲の「It’s only lonely crazy days」も、やはりエレカシ臭がしっかり漂ってくる。

この曲もギターでのリフから始まり、低いトーンのAメロからサビで一気に高音に上がり、非常に音域の広いボーカルを聞かせてくれる。

サビはどことなく歌謡曲のメロディを思わせるものである。

ギターやベースも宮本氏が演奏し、プログラミングも用いられているため、宮本氏ソロワーク的な立ち位置の楽曲である。

「It’s only lonely crazy days」の雰囲気としては、東芝EMI時代の楽曲と言われても違和感がない。

収録曲2曲とも、東芝EMI期を彷彿させる、渋い大人のロックを志向しているようにも思える。

それが筆者にとってはむしろ好印象だったのだが、一方で思っていたものを良い意味で裏切られた意外さがあった。

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シングル『yes. I. do』のエレカシらしさと35周年第1弾シングルとしての意外性

そこで、なぜこうした楽曲を35周年の第1歩として持ってきたのか、少し考察してみたいと思った。

ポップで華やかな曲とは異なる”大人の男”のエレカシの魅力

繰り返し”意外な”曲だったと述べてきたが、エレカシの楽曲として意外であるか、というと全くそうではない。むしろ、非常にエレカシらしい楽曲であると言える。

しかしそれは、「今宵の月のように」や「俺たちの明日」のような、突き抜けるようなパワーを持つタイプの楽曲とは明らかに異なる。

落ち着いた”大人の男”としての魅力を放つ、渋いテイストのエレカシである。

こうした特徴は、おそらく東芝EMI期に確立されたものであり、中年の男性としての静かに燃え上がるような境地とでも言うべきタイプの曲である。

激しいシャウトがある訳でもなく、訥々と歌い上げるようなボーカルも特徴であろう。

こうした曲は、たとえば2006年の『町を見下ろす丘』収録の「シグナル」であり、当時としてはエレカシの新たな境地であったように思う。

あるいは、2012年の『MASTERPIECE』収録の「約束」などの、しっとりと歌い上げる路線とも重なるものがあるように思えた。

これらの楽曲からさらに時は10年ほど流れ、作られたのが「yes. I. do」であった。メンバーが40代に入ってからのエレカシの楽曲としては、”らしい”楽曲であると言えるだろう。

療養から復帰後のエレカシの苦悩

しかしこのタイプの楽曲が、2013年に宮本氏が療養から復帰して以降、あまりなかったような気がするのだ。

先ほども述べたが、”復帰”と言う意味では2013年のシングル『あなたへ』もエレカシの復帰作であったが、どこかエレカシらしさに欠ける作品であった。

2015年のアルバム『RAINBOW』も、バンドとしてどのような曲を作っていくのか、模索の跡があり、苦悩がうかがえる作品である。

ユニバーサルミュージック期に培ったポップな路線の楽曲もありつつ、初期に回帰したようなダークな世界観も混然一体となっている作品である。

その苦悩は、2013年のドキュメンタリー映画『The fighting men’s chronicle エレファントカシマシ』を見ていてもうかがえるところだ。

2018年のアルバム『Wake Up』は、前作より統一感のある力作ではあったが、もっと行けるはずだという宮本氏の焦りのようなものが見える作品である。

その象徴が「Easy Go」であり、ユニバーサルミュージック期で作り上げた音楽性を、また壊していきたいようにも見える楽曲だった。

『あなたへ』での復帰以降、エレカシはどこへ向かうのか、と正直思っていた節があった。エレカシとして表現するものが見えなくなっていた感がある。

その矢先、エレカシの活動は実質休止、宮本氏はソロ活動を中心に行うこととなる。

ソロ・エレカシと言う2つのモードがある中での初めてのエレカシ

2019年から2022年までの間、宮本氏のソロ活動が中心となり、エレカシとしての活動はごくわずかなライブ活動等に限られることとなった。

筆者は宮本氏のソロ活動はほぼ追いかけていないが、エレカシとは違った表現やライブ活動をしていたようには見えていた。

何より、エレカシが好きな筆者が、宮本氏のソロ活動にあまり興味を示さなかったことが、2つの活動が違ったものになっていることを示しているのではないか、と思う。

宮本氏のソロ活動については、ありきたりではあるが、『Wake Up』までの状況を振り返れば、いったんエレカシを距離を置けたことは、良かったのではないかと思えた。

そして2023年、デビュー35周年を迎えたエレカシの活動は、これまでと大きく違う点がある。

それは宮本氏にとって、ソロとエレカシと言う2つのモードがある中での、エレファントカシマシの活動を行う、ということである。これはエレカシの歴史上、初めてのことなのだ。

筆者としては、この状況は宮本氏にとっては意外とやりやすい状況なのではないか、と感じる。

宮本氏ソロが盤石の演奏で、完璧なパフォーマンス・エンターテインメントができる場所、そしてエレカシは等身大の自身の表現を実践できる場所、という棲み分けができるのではなかろうか。

また見ての通り、多動な傾向がありそうな宮本氏である。愚直に1つのことにまい進するより、2つくらいモードがあった方が実はやりやすいのかも、とも思ってしまう。

それはさておき、エレカシでしか表現の場がなかった時に比べ、ソロでも別の表現ができる中で、エレカシで何を歌うのか、という地点で始まったのが35周年の再始動である。

映画「シャイロックの子供たち」の主題歌として「yes. I. do」を作るにあたり、「こころのままに、ストレイトに曲を作りあげることを心がけ」たと宮本氏は語っている。

そして「これを形にする事に成功したのではないか、と自負しています」と語っているのだ。

この言葉にある通り、エレカシでは等身大の今を描くことに成功できたのではなかろうか。35周年だと気張ることもなく、素直に出てきた楽曲のように筆者には聞こえた。

そして『Wake Up』までのエレカシにはしばらくなかった、渋いテイストの楽曲も素直に出てきた結果なのだろう。

これが今回のシングルのどこか安心感であり、単にエレカシらしいだけではなく、素直にエレカシとしての表現ができたからこその安心感だろうと思う。

まとめ

今回は2023年3月8日にリリースされたシングル『yes. I. do』を取り上げた。35周年の第1弾シングルとしては、渋いテイストの楽曲が選ばれたのはなぜだろう、と言うことを考えてみた。

まとめれば、そもそもこうした”大人の男”を感じさせるエレカシの楽曲は、決して意外なものではなく、2000年代後半以降には、時折見られたものであった。

しかし宮本氏の療養からの復帰以降、ややそうしたテイストが見られることがなく、エレカシとして模索の時期が続いていたように感じられた。

2019年の宮本氏のソロ活動が本格化したことで、宮本氏の中でソロ・エレカシのそれぞれで表現したいことが整理されたのではないか、と考察した。

その結果、35周年の第1弾シングルとしては、変に気合が入りすぎることもなく、等身大の自分で歌うことができた「yes. I. do」がふさわしかったのではないか、ということである。

「yes. I. do」を最初に聴いた時に、シングルとしてはやや意外な印象もあったが、今回あれこれ考えてみれば、とても自然な流れであることが分かってきた。

エレカシの良さは、宮本氏の苦悩の連続こそにある、と思ってきたところもあった。しかしそれは、宮本氏がエレカシだけにこだわり過ぎていたところにもあったのかもしれない。

ソロ活動を通じて、エレカシの活動も風通しが良くなった部分はありそうである。

これまではレーベル移籍で仕切り直しをしてきたエレカシではあるが、今回は宮本氏が別の活動にいったことがカギだったようだ。

また新たなエレカシが始まっていきそうな予感がある。35周年の今年の活動にさらに目が離せない。

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