長年活動しているミュージシャンには、必ず”定番曲”が存在する。定番曲とは、そのミュージシャンを代表する楽曲であり、多くの人が知っている曲ゆえにライブでの定番となる曲である。
こうした定番曲は、ファン投票などを行えば上位に入ってくる楽曲であるが、一方で定番曲に対する思いはファンの中でも様々だ。
「もう聞き飽きた」と言う人もいれば、「やっぱり定番曲が良い」と感じている人もいる。それぞれの意見はありつつも、共通して定番曲に対する思いは一定の変遷をたどるように思っている。
今回は”定番曲”に対してファンがたどる思いの変遷について、”あるある”の流れを書いてみた。また後半には、ライブでの定番曲に対して筆者が感じていることを書いている。
なお具体的な例として、当ブログでよく取り上げる浜田省吾や人間椅子の楽曲を交えて書いた。
ファンがたどる”定番曲”への思いの変遷
さっそく筆者が思う、多くのファンが共通してたどる”定番曲”への思いの変遷を書いて行こうと思う。
そのミュージシャンを知ったばかりの頃から、ファン歴が長くなるにつれ、定番曲に対する思いは変化していくように感じている。
今回は大きく分けて3つの段階に分けて、変化をたどった。
- ”ハマる”入り口としての定番曲
- 定番曲を聞き飽きる
- 落ち着いた頃に定番曲の良さを再確認
”ハマる”入り口としての定番曲
まずミュージシャンを知る入口になる楽曲が必ずあるが、多くの場合は定番曲であることが多い。ある1曲を手掛かりに、別の定番曲を繋いで聴いていく、と言う人が多いだろう。
浜田省吾氏であれば「悲しみは雪のように」「J.BOY」などを入り口に、「MONEY」「もうひとつの土曜日」「ラストショー」など様々な定番曲が揃っている。
人間椅子の場合であれば、YouTubeのMVがバズった「無情のスキャット」が入り口になった人が多い。そして動画を探していくと、「なまはげ」「りんごの泪」「相剋の家」など定番がたくさん出てくる。
楽曲数の多いミュージシャンであれば、ベスト盤などを中心に、まずは定番曲を一通り聴いてみようということになる。
そのため最初は「定番曲しか知らない」と言う状態であるがゆえ、結果的に「定番曲が好き」ということになる。
浜田省吾氏であれば『The History of Shogo Hamada “Since 1975″』、人間椅子であれば『人間椅子名作選 三十周年記念ベスト盤』などのアルバムを繰り返し聴く。
これらの作品に入っている楽曲をライブで聴けるとテンションが上がる、と言うのがファンとして最初の段階だ。
逆にライブであまり聞いたことのない楽曲が多いと困ってしまう、という状態でもある。
※【人間椅子】バズった「無情のスキャット」の魅力を徹底的に掘り下げてみた
定番曲を聞き飽きる
一通りの定番曲を漁った後は、たくさんあるオリジナルアルバムを次々と漁っていくことになるだろう。昨今はサブスクリプションもあるため、大量の音源を聴きやすくなった。
好きになったミュージシャンであれば、定番曲だけでなく、マニアックな楽曲を掘り下げるほどに、さらに魅力にハマっていくことになる段階である。
この段階では、たとえば今の音楽性とは少し違っていた時代の楽曲などにもアンテナを広げ始める。浜田省吾氏であれば、1970年代の今よりポップな作風の楽曲も興味深い。
「風を感じて」が収録されている1979年の『君が人生の時…』など、なかなか味わい深い作品だ。
人間椅子の場合は、1990年代後半頃には、今よりも後ろ向きで暗い作風の時代があった。1998年の『頽廃芸術展』などは、サウンドも含めどんよりと湿り気があって、今とは異なる作風である。
これらの作品に収録されている楽曲は、なかなかコンサートでは披露される機会が少ない。だからこそ、なおさら音源で聴くことをを欲するようになっていく。
その一方で、コンサートでは毎回のように定番曲が披露され続ける。マニアックな曲を掘り下げ始めた人にとっては、「またこの曲なのか」と聞き飽きた、と感じることがあるかもしれない。
自分の中では十分すぎるくらいに聴いた定番曲を避けたい気持ちが湧いてくる時期である。コンサートでは、定番曲ではテンションが上がらず、マニアックな曲ほどテンションが上がるようになるのだ。
そのミュージシャンの魅力をより深く知りたい時期なので、入り口である定番曲はいわゆる”ミーハー”な感じがして、ちょっと避けるようになるのである。
落ち着いた頃に定番曲の良さを再確認
1つのミュージシャンへの熱狂の時期を過ぎると、熱量が落ち着いて、聴く頻度も少しずつ落ちていく段階に入って行く。
ほとんどのアルバムも聴き通し、コンサートに何度も通うようになれば、ある程度の時期を経て、熱狂は落ち着くだろう。
また別のミュージシャンを聴くようになったりして、程よい距離感が生まれるようになる。
筆者も浜田省吾氏や人間椅子に対して熱狂していた時期があったが、それがずっと続いたわけではない。緩やかに好きである続ける時期へと移行していった。
他のバンドをまた聴き漁っていると、自然に浜田省吾氏や人間椅子を聴く頻度も減っていく。
そうしたある日、たとえば浜田省吾氏の「片想い」、人間椅子の「りんごの泪」などを聴いたとしよう。その時の感動は、マニアックな曲を掘り下げていた時期には感じられなかったものである。
かと言って、初めてバンドを知った頃に定番曲に触れた時の感動ともまた違うものである。
「やっぱり定番曲って凄いな」と言う、もう一段高い視点からの感動とでも言おうか。あらゆる曲を聴き尽くしたからこそ分かる、定番曲の凄みを体感しているのだ。
聴き始めた頃の熱狂とは違い、この段階に来ると、しみじみと定番曲の良さを噛み締めるようになる。ここまでくると、定番曲への評価は揺らがないものになるだろう。
※【入門編】70歳の今も活躍中のソングライター浜田省吾を3曲で紹介する – ロックから繊細なバラードまで
ライブにおける”定番曲”に対して思うこと
ここまで”定番曲”への思いの変遷についてまとめてみた。
定番曲が導入となって、そのミュージシャンへの熱狂の時期がやって来て、マニアックな曲まで漁るうちに、一度は定番曲を聞き飽きたように感じる時期がやって来る。
そして熱狂が落ち着き、程よい距離感が生まれ始めた頃に再び定番曲を聴くと、しみじみとその良さが分かる、と言う段階に到達するのではないか、と言うことだ。
このように考えていくと、ライブにおける定番曲というのも重要になってくる。ライブにおける定番曲について筆者が感じることを最後に書いておきたい。
やはりライブでは定番をやってほしい
いきなり結論であるが、やっぱりライブでは定番曲はやってほしい、と言うのが筆者の思うところだ。
今回考えた定番曲への思いの変遷からすれば、聴き始めの人・熱狂が落ち着いた人たちにとって、定番曲はそれぞれ好ましいものとして受け入れられる。
熱心に聴き進めている途中の人には、少し”聞き飽きた”感じがあるかもしれないが、この層はいずれ熱狂が落ち着いた人たちに加わっていく。
そう考えれば、ファンの側からすれば、定番曲は好ましいものであることが多いのではないか、と思う。
定番曲の良さは、一種の安心感である。ミュージシャンを代表する楽曲であるがゆえ、「待ってました!」と言う感覚であり、その曲が聴ける安心感がある。
浜田省吾氏であれば「J.BOY」、人間椅子であれば「針の山」はほぼ毎回のライブで欠かさず披露される曲である。
こうした曲が披露されることの安心感は大きい。
強力な定番曲のあるミュージシャンは強い
ただし定番曲の良さを感じられるには、それだけ魅力的な楽曲でなければ、定番曲とはなり得ないものだ。
定番曲と言われる曲も、歴史の中で変遷があったりする。ある時期にはよくやっていたが、最近やらなくなった曲なども存在する。
楽曲に優劣をつけたくはないが、やっぱり聴き手を惹きつけるパワーのようなものには違いがあるのではないだろうか。
そしてライブの定番のノリのような形での”定番曲”も、ある時期にはライブで楽しかったりするが、これもあっという間に定番から外れてしまうことが多い。
結局のところ、定番曲と言うのは、先ほどの3つの段階のうち最後の段階である、”しみじみと良い”感覚に至ることができる曲かどうか、によるのではないか。
それはどんなタイプの曲であっても同じことである。激しい曲でも泣ける曲でも、どんなシチュエーションで聴いたとしても、しみじみとその良さがにじみ出るような曲だ。
そうした定番曲は、結果的に広く受け入れられるために、ヒット曲になるか、ヒットしなくてもファンの間で愛される楽曲になっているだろう。
やはり強力な定番曲を持っているミュージシャンは強い。一見さんも強烈に惹きつけることができるし、根強いファンからも愛され続けることになる。
このように考えてみると、今まで何気なく聴いていた”定番曲”に対する見方が少し変わるかもしれない。
もちろん好きなミュージシャンの曲は満遍なく楽しみつつ、やはり定番曲が常に煌々と輝くからこそ、安心感があると言うものだろう。
<強力な定番曲を持つ邦楽バンドのベストアルバム紹介>
・クレイジーケンバンド – CRAZY KEN BAND ALL TIME BEST ALBUM 愛の世界(2017)
ヒット曲「タイガー&ドラゴン」を含むオールタイムベストアルバム。
・FLYING KIDS – BEST OF THE FLYING KIDS これからの君と僕のうた(1998)
イカ天出身、「風の吹き抜ける場所へ 〜Growin’ Up, Blowin’ In The Wind〜」など強力な定番曲が多数ある。
・エレファントカシマシ – All Time Best Album THE FIGHTING MAN(2017)
大ヒット曲「今宵の月のように」やじわじわ人気が出た「俺たちの明日」を含むオールタイムベストアルバム。
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