これまで18回の記事を書いており、国内外のベテランミュージシャンを多く取り上げてきた。今回はヘヴィメタルの帝王と呼ばれるレジェンドバンド、Black Sabbathを取り上げる。
Black Sabbathと言えば、やはり70年代にボーカルのOzzy Osbourneが在籍した時代が黄金期である。
そしてオリジナルメンバーで、2025年7月5日に英バーミンガムのヴィラ・パークにて、キャリアを締めくくる『Back To The Beginning』を開催したことが話題になった。
改めてBlack Sabbathの名盤を紹介するまでもないかもしれないが、もしかすると今回のラストコンサートで本格的に聴き始めてみよう、というきっかけになった人もいるかもしれない。
そこで70年代オリジナルメンバーでのBlack Sabbathの、はじめて聴くのにおすすめのアルバムを紹介する記事を書くことにした。
※前回:【初心者向け】”はじめてのアルバム” – 第18回:安全地帯 – アルバムとしての名作とは?
Black Sabbathについて(オリジナルメンバー在籍時代を中心に)
まずはBlack Sabbathについて、主にオリジナルメンバーの時代の歴史や音楽性について簡単にまとめておきたい。
Black Sabbathは1968年にイギリスのバーミンガムで結成。メンバーはOzzy Osbourne(ボーカル)、Tony Iommi(ギター)、Geezer Butler(ベース)、Bill Ward(ドラム)の4人である。
もともとEarthという名前でブルースバンドを組んでいたが、1964年に公開されたマリオ・バーヴァのホラー映画『BLACK SABBATH』からバンド名を改名している。
彼らはイギリスの労働者階級の出身で、働きながら音楽活動を行っていたようである。1970年2月の13日の金曜日に、デビューアルバム『Black Sabbath(黒い安息日)』をリリースする。
黒魔術や悪魔的な世界観を持ち、教会音楽が嫌っていたトライトーン(減五度)を用いた不気味なハードロックサウンドは、当初批評家の間で賛否両論だったものの、UKチャートでは8位を獲得した。
デビューからわずか7か月で2nd『Paranoid』をリリース。
シングルカットされた「Paranoid」ビルボードのポップアルバムチャート(北アメリカ)で最高12位を記録し、アルバムは英チャート1位を獲得している。
本作はダークでヘヴィなサウンドやパワーコードを主体としたギタープレイなど、彼らのスタイルを確立した作品と言われる。
ギターのTony Iommiは、17歳の時に働いていた工場で右手の中指と薬指の先端を切り落とす事故に遭っている。サックをつけた指でも弾けるように、テンションを落とすためチューニングを下げた。
これが独特の重さと気だるさを生み出し、1971年の3rd『Master of Reality』で効果的に用いられている。本作は予約段階でゴールドディスクになるほどの注目度の高さであった。
徐々にバンドはサウンド面で実験を重ね、1972年の4th『Vol.4』、そしてプログレッシブな要素を感じさせる1973年の5th『Sabbath Bloody Sabbath(血まみれの安息日)』とヒットを続けた。
しかし音楽性の違いや、Ozzy Osbourneのアルコール問題などによってバンドのバランスが崩れていく。1975年の6th『Sabotage』以降は音楽的にも徐々に方向性を見失い始めた。
1976年の7th『Technical Ecstasy』からは売り上げも低迷し、1977年にOzzy Osbourneがバンドから解雇されることとなる。
その後バンドに復帰するも、1978年の『Never Say Die!』の完成度は十分なものではく、Ozzy Osbourneのアルコール問題も克服されないために、再度解雇される。
これによりオリジナルメンバーによるBlack Sabbathはいったん幕を閉じ、ギターのTony Iommiを中心としたプロジェクトとしての色合いが強くなる。
ボーカルもRonnie James DioやIan Gillanなどが歴任し、ベースやドラムもメンバー交代が激しかった。(1980年の『Heaven and Hell』など、高い評価を得ていた作品もあった)
1985年にライヴエイドで一度限りのオリジナルメンバー復活を果たすも、継続的な復活は見られなかった。
1997年、ついにオリジナルメンバーでの活動を再開し、1998年にライヴアルバム『Reunion』をリリースして、数年間のツアー活動を経て終了した。
2011年に再びオリジナルメンバーでの活動再開を発表するも、ドラムのビル・ワードは参加せず、サポートメンバーでの活動となった。
2013年には18年ぶりのアルバム『13』をリリース。この年にはOzzfest Japan 2013で来日公演を行っている。
なおオリジナルメンバー全員での来日公演は一度もなく、2013年の来日がビル・ワードを除くオリジナルメンバーでの唯一の来日公演となった。
2016年には活動最後となるワールドツアーを行い、2017年イギリスのバーミンガムで最後の公演を行った。
そして2025年7月5日、英バーミンガムのヴィラ・パークにて、キャリアを締めくくる『Back To The Beginning』を開催した。
METALLICAやGUNS N’ ROSES、SLAYERに加え、THE ROLLING STONESのRonnie Wood、AEROSMITHのSteven Tylerなどのサプライズゲスト出演もあった。

本公演はOzzy Osbourneのソロを含め、Black Sabbathとしての活動の最後となった。
本公演に出演したバンドの多さからも、ヘヴィメタルと言うジャンルを作り上げたと言っても過言でないほどの影響力を持つバンドである。
とりわけTony Iommiの生み出したヘヴィなギターリフやパワーコード主体の重厚なサウンド、ダウンチューニングを用いた気だるく重いビートなど、後のバンドに与えた影響は計り知れない。
独特の重さや気だるさは、ヘヴィメタルのみならず、ハードコアやグランジなど、多様なロックのジャンルに影響を与えており、他のハードロックバンドでは見られないほどの影響力の大きさである。
”はじめて”のベストアルバム
本記事の目的は、おすすめのオリジナルアルバムを紹介することではあるが、良いベストアルバムがあれば紹介することにしている。
Black Sabbathの場合、これと言って、絶対におすすめのベストアルバムは思いつかない。70年代のいわゆる代表曲を聴きたければ、新しめのベスト盤であればだいたい揃っているように思える。
筆者が手に取ったもので言えば、2000年の『The Best of Black Sabbath』であり、オリジナルメンバーでの再結成が行われていた時代のものである。
2枚組で、1枚目は3rdアルバムまで、2枚目が8枚目までのオリジナルメンバーの作品に加え、1983年までの3枚の作品から1曲ずつ選ばれている。
あるいは70年代の作品のみであれば、2016年リリースの『THE ULTIMATE COLLECTION』に重要な曲が揃っている。
なおベスト盤は、やはり音質の良くなっている新しいものを選ぶのがおすすめではある。
ただし、Black Sabbathはアルバムごとの作風の変化や、アルバムごとの雰囲気もあるので、個人的にはアルバム単位で聴くことをおすすめしたい。
”はじめて”のオリジナルアルバム
ようやく本題であるが、はじめてBlack Sabbathを聴く人におすすめしたいアルバムである。
まず述べておきたいのは、70年代の作品のうち、1st~5thの5枚についてはどれを手にとっても、名盤中の名盤であり、どこから聴いても問題ないと思っている。
6th~8thにも優れた楽曲はあるものの、アルバムトータルの良さでは5枚目までがおすすめだ。
中でもはじめて聴くのであれば、最もサバスらしさがあり、その音楽性を確立させたと言われる1970年の『Paranoid』をおすすめしたい。
ヘヴィで分かりやすいリフの繰り返しや、唐突な展開など、Black Sabbathの音楽性を代表する楽曲が並んでいる。
とりわけ「War Pigs」「Electric Funeral」などのミドルテンポなヘヴィさや、「Paranoid」「Iron Man」などの分かりやすさなど、楽曲のバランスが絶妙である。
一方で「Hand of Doom」以降の3曲は、1stでの即興的な演奏の名残を感じるが、全体的に楽曲展開の構築が練り上げられており、1stを遥かに上回る完成度となっている。
Black Sabbathの作品は、『Paranoid』を起点に始まっていると言っても過言ではない。次に聴くとすれば、それに続く3rd『Master of Reality』か4th『Vol.4』のどちらかをおすすめしたい。
3rdと4thは作られた年が違うのもそうだが、音楽的なアプローチとしても大きく異なっているので、好みの方を聴いてみてほしい。
1971年の3rd『Master of Reality』は、1音半下げチューニングを導入したアルバムであり、『Paranoid』に比べてさらにダークでヘヴィな雰囲気が漂う作品になっている。
この独特の重さは、やはりダウンチューニングによる弦のテンションの変化により、グルーヴにも影響を与えているものと思える。
その重さは気だるさとも言えるもので、1曲目の「Sweet Leaf」の何とも言えないルーズな雰囲気が、ハードロック以外のジャンルにも多大な影響を与えている。
一方で「Children of the Grave」のヘヴィなギターサウンドでシャッフルビート、という後のヘヴィメタルの王道を作ったような名曲も収録されている。
さらに「Into the Void」の巧みな展開とヘヴィさにおいて、日本のハードロックバンド人間椅子に多大な影響を与えている。
また本作の気だるさや、サウンドの”汚さ”は、ドゥームメタルを生み出し、グランジなどのジャンルにも影響を与えたものと思われる。
一方の1972年の4th『Vol.4』は、2ndや3rdの音楽性を融合させつつも、より実験的な色合いも見せ始めた作品で、3rdよりはハードロック的な路線に回帰した作品だと思っている。
前作に比べると、「Wheels of Confusion」「Tomorrow’s Dream」「Supernaut」などは、ハードロックの持つ躍動感が見られ、2ndの頃の雰囲気を感じさせる。
一方で「Cornucopia」「Under the Sun」などはダウンチューニングのヘヴィなリフが中心となり、3rdの頃の雰囲気が前面に出てきている。
ただいずれの作風とも異なるのが、Tony Iommiが持ち込んだと思われるクラシカルで美しい旋律やアレンジである。
「Changes」ではピアノとメロトロンが用いられるバラードが新鮮だ。また「Snowblind」や「Wheels of Confusion / The Straightener」などドラマチックな展開も新境地であろう。
よりアーティスティックな雰囲気も感じさせるハードロックの名盤が4枚目であると言う印象だ。
まずは2~4枚目の3枚をおすすめするが、その前後の作品もなかなかの名作である。
1970年の1st『Black Sabbath』は不気味なリフの「Black Sabbath」がその後の音楽性を予感させるが、全体的には即興性の高いハードロックで、まだ音楽性を確立する前の段階と言う感じだ。
また『Vol.4』の実験的でクラシカルな要素を洗練させた傑作が、1973年の5th『Sabbath Bloody Sabbath』であり、個人的にはトータル的に最も好きなアルバムである。
まとめ
今回の記事では、ヘヴィメタルの帝王とも言えるバンド、Black Sabbathをはじめて聴く人におすすめのアルバムを紹介した。
なかなか1枚に絞るのが難しいところではあるが、本記事をまとめると、ベスト盤・オリジナルアルバムはそれぞれ以下の作品をおすすめしたい。
・ベストアルバム:『THE ULTIMATE COLLECTION』(2016)
・オリジナルアルバム:『Paranoid』(1970)
筆者が改めて語るまでもない、後のヘヴィメタルに多大な影響を与えたヘヴィなハードロックを聴かせてくれるバンドである。
『Back To The Beginning』の盛り上がりは、ネットニュース等で日本のメディアでも紹介されたが、海外に比べれば、まだBlack Sabbathの功績は日本に伝わり切れていないようにも思える。
ぜひヘヴィメタルが好きな人には、ルーツと言って良いであろうBlack Sabbathの作品に触れていただきたいと思うところである。
※1970年代Black Sabbathはハードロックなのか、ヘヴィメタルなのか – 音楽的変遷の考察
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