fOULとeastern youthが対バンを行った。昔から付き合いのあった両者の対バンが良くない訳がない。
今回はfOULの自主企画「砂上の楼閣」にeastern youthがゲスト出演するという形のライブだった。会場の新代田FEVERは満員御礼の大盛況である。
今回は3月16日(日)に行われた「砂上の楼閣41 BOMB SCARE! BOMB SCARE! ~漆黒の春雨の夜にキミとボクはビッタびたのピッタぴた~」の模様をレポートする。
ライブレポート:砂上の楼閣41 BOMB SCARE! BOMB SCARE! ~漆黒の春雨の夜にキミとボクはビッタびたのピッタぴた~
fOULとeastern youthの付き合いは長いようだ。筆者は2010年頃からeastern youthを聴くようになり、かつて対バンを行っていたfOULと言うバンドがあるらしい、と言うくらいの認識だった。
eastern youthと同じくスリーピースバンドのfOULは、2005年に活動を休止していたが、2022年より17年ぶりに活動を再開していた。
筆者もその情報を聞きつけ、2022年7月にSPACE SHOWER TVで放映された1998年の両バンドの対バンの映像を見るに至った。
若き日のeastern youthの魂滾る演奏も凄まじかったが、fOULのあまりに完成された独特な世界観と佇まいに一気に引き込まれた。
ぜひ対バンが企画されることがあれば参加したいと思っていたところ、2023年2月23日に100回目の極東最前線「極東最前線 100 ~fOULFULだよ人生は~」が開催されると知る。
しかし筆者はこの日にちょうど外せない予定が既に重なってしまい、泣く泣く参加を見送ることとした。次の機会こそは、と思っていたところ、早々にそのタイミングはやって来た。
「砂上の楼閣41 BOMB SCARE! BOMB SCARE! ~漆黒の春雨の夜にキミとボクはビッタびたのピッタぴた~」という不思議なタイトルの対バン企画である。
ライブの告知は1月の始めに行われると同時にチケットが販売され、同月27日には完売となった。
さて3月16日(土)は季節先取りの暖かな陽気であったが、ライブが近づく18時頃にはひんやりとした空気になっていた。
タイトルは”漆黒の春雨の夜に”とあったが、この日はよく晴れていたのだった。
会場の新代田FEVERの周りには人がたくさん集まっており、入場を待っている。会場内はさすがに満員とあって、開演直前には一歩前に進んでください、というアナウンスがかかった。
eastern youth
先攻はeastern youth、最近おなじみのBuilt to Spillの「Some」を流しながらメンバーが入場する。
吉野氏のつま弾くギターに導かれ、1曲目は現時点の最新作『2020』より「今日も続いてゆく」だ。
個人的に小さめの会場でeastern youthを聴くのが少し久しぶりだったのだが、やはり彼らの音量はとても大きい。
近年は騒音やら耳への影響やらによって、音量は小さくなる一方だが、やはりこれぐらいの爆音はロックにはあって欲しいと思う。
不気味なコード進行から『雲射抜ケ声』に収録の「未ダ未ダヨ」、この日最も渋い選曲だったように思えた。
最近のeastern youthはMCが少なめになったように感じる。以前は1曲ずつ語りながらじっくり演奏することもあったが、立て続けに曲が披露されていく。
この日のライブのタイトルには”春”と言う言葉が入ったからか、桜が歌詞に登場する「スローモーション」も披露される。
この日のハイライトの1つは「たとえばぼくが死んだら」「故郷」という初期の楽曲の並びだったように思う。「故郷」のサビでは、拳がたくさん上がるのが見えた。
それにしてもベースの村岡ゆか氏は、すっかりeastern youthの人の顔つきになっていた。
やはり後から加わるプレッシャーの中で演奏を続けてきたとは思うが、今はもう自分のバンドだという顔つきになっていたように思えた。
ようやく吉野氏からMCがあったが、友達が少ない、音楽業界にはさらに友達が少ない、と語られた。しかしfOUL(とりわけベースの平松学氏の名前が挙がる)とは仲が良いそうである。
皆さんの財布からちょっとずつお金を取ろうとは思っているが、と笑いを誘いつつ、音楽でのし上がろうという奴が多くて、それが嫌い、と語っていた。
老いも若きも相容れない、と述べて披露されたのが「ソンゲントジユウ」だ。いつもその時々の吉野氏の思いが込められたこの曲は、近年の代表的な楽曲となった。
終盤はおなじみの楽曲を立て続けに披露し、「街の底」で終演となった。
コンパクトに代表曲を押さえつつ、初期の曲を中心に少しレアなところも織り交ぜた良い選曲だった。
fOUL
fOULの作品は後期の2枚ほどを聴いて、あとはライブ映像を少し見た程度で参加することとなった。
お手洗いが長蛇の列となってしまい、開始の場面を聞き逃してしまった。聞こえてきたのは、『Husserliana』の1曲目「fRATERNITY」であった。
筆者が見たライブ映像と言うのは、先に紹介した1998年のeastern youthとの2マンのもの。25年以上の時を経ているが、佇まいはその当時と何も変わっていないように見えた。
続く「私は求めない…」では、ギターの消えるパートでやや歌と他のパートがズレて混乱したかに思える場面があったが、上手く切り抜けていた。
fOULのサウンドについては、大地大介氏のドラムの音がかなり重くて好みである。ハードロック的とも言える1音ごとの重さと遅めのタイム感が抜群である。
そして平松学氏のベースも音がしっかり前に出ており、リズム隊の安定感が抜群だ。その上を谷口健氏のギターが縦横無尽にかき乱す、という感じがしている。
セットリストに聞き慣れない名前の曲名があったが、どうやらBiSの新作アルバム『NEVER MiND』にfOULが提供した楽曲も披露されていたようである。
※BiSのタイトルは「悲しみを纏う男たちの行進」で、fOULの方は「悲しみを纏った男たちの行進」となっており、あえてタイトルを変えているのか。
またオムニバス『極東最前線2』の楽曲「Decade」、初期の楽曲「Legacy of Hate」などポップな楽曲からアバンギャルドな楽曲まで実に多彩である。
後半に披露された「裁判所の架空の訓辞」が個人的にはハイライトだった。淡々と繰り返されるリフの心地好さと、一方でプログレとも思えるダイナミックな展開が素晴らしかった。
本編は「ケツからカフェインが出るまでコーヒーをどうぞ」のセリフから始まる「wax & wane」で締めくくられた。
アンコールを受けて登場すると、体調が悪い人が客席にいるとの声があった。序盤にも立てなくなった人がいる、と抱えられて会場を出る人がいた。
決して押し合いになるようなライブではなく、人が密集していたからか、あるいは爆音に馴染めなかったなどと言う人もいたのだろうか、と思ったりした。
大地氏が「じゃあサクッとやりますか」と言うと、会場からは「たっぷりやって!」との声が聞こえた。そして谷口氏は「サクッとやれる曲がないんですよね」と語って笑いが起きる。
そして始まったアンコールは怒涛であった。なかなか曲が分からないものが多く、いったい何曲やったのか会場にいた時はさっぱり分からなかった。
最後の最後、「終わりの始め」のぶっ飛んだ演奏は圧巻だった。たっぷり演奏を聴いたような、あっという間だったような、不思議な時間だった。
再度のアンコールを求める手拍子が止まなかったが、アナウンスが入り終演となった。
fOULの演奏は、アバンギャルドさとポップさのバランスが絶妙に感じた。決してポップには行かず、かと言って、全員を置いて行くような難解さでもない。
またライブ中どこかのタイミングで、谷口氏がギターでコードを弾いていると、ベースやドラムが加わって即興演奏が行われた場面があった。
「こうやって曲ができていくんですよ」と語る場面を見た時、なんて素敵なバンドなんだろうと思った。音楽とはまさにそういう自由なものであるはずなのだ。
fOULの音楽には自由さが常にある。しっかりと構築されているが、常に自由な、どんな形でも爆発するぞ、と言うようなマグマが渦巻いていると感じた。
今後のfOULは遠征が多く、まだ次回の「砂上の楼閣」は決まっていないとのことだが、ぜひまた見てみたいと思った。
<セットリスト・収録アルバム>
No. | タイトル | 収録アルバム |
---|---|---|
<eastern youth> | ||
1 | 今日も続いてゆく | 『2020』(2020) |
2 | 未ダ未ダヨ | 『雲射抜ケ声』(1999) |
3 | 青すぎる空 | 『旅路ニ季節ガ燃エ落チル』(1998) |
4 | スローモーション | 『感受性応答セヨ』(2001) |
5 | たとえばぼくが死んだら | 『口笛、夜更けに響く』(1995) |
6 | 故郷 | シングル『裸足で行かざるを得ない』(1996) |
7 | ソンゲントジユウ | 『SONGentoJIYU』(2017) |
8 | 夏の日の午後 | 『旅路ニ季節ガ燃エ落チル』(1998) |
9 | 夜明けの歌 | 『感受性応答セヨ』(2001) |
10 | 街の底 | 『ボトムオブザワールド』(2015) |
<fOUL> | ||
1 | fRATERNITY | 『Husserliana』(2001) |
2 | 私は求めない… | 『Dostoevsky Groove』(1997) |
3 | フッサリアーナ | 『Husserliana』(2001) |
4 | 氷の山 | 『アシスタント』(2003) |
5 | 悲しみを身に纏った男たちの行進 | – |
6 | 大人になる予感 | 『煉獄のなかで』(1999) |
7 | Na・Ka・Za・Wa | 『Dostoevsky Groove』(1997) |
8 | Decade | オムニバス『極東最前線2』(2008) |
9 | Legacy of Hate | 『foul ball for foul men』(1995) |
10 | 裁判所の架空の訓辞 | 『煉獄のなかで』(1999) |
11 | wax&wane | オムニバス『極東最前線』(2000) |
アンコール | ||
12 | Green | 『bloodthirsty butchers&foul split』(1997) |
13 | ドストエフスキー・グルーヴ | 『Dostoevsky Groove』(1997) |
14 | 終わりの始め | シングル『ブックシェルフ 1F』(2000) |
※セットリストはこちらのポストを参考にさせていただいた。
砂上の楼閣41(fOUL/eastern youth)
— 杉並ジロー (@suginamijiro) March 16, 2024
セットリスト pic.twitter.com/VKUDAQPsfU
全体の感想 – 音楽でのし上がろうとしない者たち
ありがとうfOUL のケンちゃん大地くんマナブ。ありがとうFEVER。ありがとう来てくれて聴いてくれたみなさん。あの頃も、もちろんいまこの瞬間も、fOULはやっぱり「日本で最も素敵なバンド」だと心から思いました。サイコー!また会おう! pic.twitter.com/71QGaHH8VI
— eastern youth (@ey_chan) March 16, 2024
今回のライブは、筆者にとってはfOULは初めてであり、eastern youthは久しぶりに小さめの箱でのライブとなった。
改めて両バンドとも、個性的でそれぞれ芯がしっかり通った音楽を貫いている点には感服する。
吉野氏のMCで「音楽でのし上がろうとする奴らが嫌い」という一言に、この日のライブは集約できるような気がした。
eastern youthもfOULも、いずれも”売れよう”という雰囲気が全くと言って良いほど感じられないバンドである。
筆者は経験していないが、90年代終わり~00年代初め頃、fOULやeastern youth、そしてbloodthirsty butchersなどハードコア的なバンドの流れがあったからこそ、注目されたところがある。
そうしたシーンがあったにしても、とりわけfOULの音楽は独特である。初期の方が実験的で難解であり、ポップな要素を入れた活動メインの時期も、どういうジャンルと言って良いかわからない。
今回登場した両バンドについて、俯瞰した目線で見れば、到底日本の多くの人にとっては理解不能な音楽ばかりと言って良いだろう。
それでもなぜこうした音楽をやるのか。その理由に、音楽をのし上がるために利用するのが嫌い、そしてもっと純粋に音楽をやりたい、と言う思いがあるからのように思える。
3月16日の新代田FEVERにいた筆者も含め、確実に”モノ好き”の集まりには違いない。
しかし3月16日の日本を見渡した時、音楽がこれほど純度高く演奏されていた場所もなかなかなかったのではないか。
両バンドには、これからも純度の高い音楽を聴かせてほしい、と思う次第である。
※【eastern youth】ベース”村岡ゆか”が加入して見られた変化とは?
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