2024年1月に亡くなった演歌歌手の冠二郎氏。3月に入ってから、サブスクリプションサービスにて過去のアルバムが一気に解禁となっていたが、残念ながらあまり話題にはなっていないようである。
なかなか入手が困難になっている、70年代~80年代の楽曲も含まれているようだ。
「炎」などのロック演歌や「酒場」など王道演歌路線ももちろん良いのだが、筆者が好きなのは代表曲「旅の終りに」の時代に作られた哀愁漂う歌謡曲風の演歌路線である。
「旅の終りに」がリリースされた70年代後半、そして80年代前半頃までの楽曲には、そうした歌謡曲風の名曲が多数あるため、過去のアルバムのサブスク解禁は筆者にとっては重大ニュースだった。
そこで、今回の記事ではコロムビアに移籍した1976年から1984年(80年代前半とした)までにリリースされた楽曲の中で、サブスクリプションサービスで聴ける楽曲を集めて紹介する。
70年代後半~80年代前半の冠二郎の魅力
楽曲の紹介に入る前に、70年代後半~80年代前半の冠二郎氏の魅力について書いておきたい。
1967年に『命ひとつ』で日本ビクターよりデビューするも、なかなかヒットの出ない不遇の時代が続いた。
1976年に日本コロムビアに移籍後、1977年にドラマ「海峡物語」の挿入歌「旅の終りに」がヒットする。しかしその後もヒットには恵まれず、苦しい時代が続くこととなった。
ただ1977年前後には、「旅の終りに」の路線の楽曲が作られており、魅力的な楽曲が多数生まれている。
その魅力とは、まず旅・さすらい・哀愁などをテーマにした世界観である。後の冠氏に見られる酒や男女の関係、祭りなどのテーマとは異なる、いわゆる”二枚目”な雰囲気が漂うものである。
そしてメロディも、いわゆる”ド演歌”ではなく、歌謡曲・ポップスの要素を持ち込んだ楽曲である点も特徴である。
演歌のファン層に多い、カラオケ向きの曲ではなく、じっくりと聴かせてくれる歌謡曲が多く、聴き応えのある楽曲が多いのである。
主にそうした世界観の楽曲は、70年代後半に集約されており、80年代に入ると徐々に王道の演歌路線へとシフトしていくこととなる。
サブスクリプションで聴ける70年代後半~80年代前半の冠二郎の楽曲
No. | サブスク有無 | 発表年 | A/B面 | タイトル | 作詞 | 作曲 | 編曲 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 〇 | 1976年 6月 | A面 | 港・恋灯り | 三浦康照 | 川口真 | 竜崎孝路 |
2 | 〇 | B面 | 気のむくままに | ||||
3 | 〇 | 1976年 12月 | A面 | 霧ふる町 | |||
4 | 〇 | B面 | 悔いない旅 | ||||
5 | 〇 | 1977年 4月 | A面 | 泣いてもいいよ | 遠藤実 | 斉藤恒夫 | |
6 | × | B面 | あのひとの駅よさようなら | ||||
7 | 〇 | 1977年 11月 | A面 | 旅の終りに | 立原岬 | 菊池俊輔 | |
8 | × | B面 | 明日を信じて | 三浦康照 | 三原一乃 | 竹村次郎 | |
9 | × | 1978年 6月 | A面 | 亜樹子 | |||
10 | 〇 | B面 | さすらいの旅 | 菊池俊輔 | |||
11 | 〇 | 1978年 11月 | A面 | 望郷物語 | 五木寛之 | 立原岬 | 小笠原京 |
12 | 〇 | B面 | わかれの夜汽車 | 三浦康照 | 三原一乃 | 竹村次郎 | |
13 | × | 1979年 4月 | A面 | 夫婦春秋 | 関沢新一 | 市川昭介 | 佐々永治 |
14 | × | B面 | 高原の宿 | 野村俊夫 | 古関裕而 | ||
15 | × | 1979年 10月 | A面 | ひとり北国 | 鳥井実 | 朴椿石 | |
16 | × | B面 | 想恋譜 | 木村好夫 | |||
17 | 〇 | 1980年 4月 | A面 | 流浪歌 | 吉田旺 | 徳久広司 | 斉藤恒夫 |
18 | × | B面 | みなし子東京 | 徳久広司 | |||
19 | 〇 | 1981年 3月 | A面 | あなたの恋灯り | 三浦康照 | 岸本健介 | |
20 | 〇 | B面 | 流れのままに | ||||
21 | △(新録) | 1982年 1月 | A面 | あなたは男でしょう | 野崎秀孝 | 稲沢祐介 | |
22 | 〇 | B面 | 石狩列車 | 三浦康照 | 遠藤実 | ||
23 | 〇 | 1982年 7月 | A面 | 度胸船 | 三浦康照 | 船村徹 | 丸山雅仁 |
24 | × | B面 | 流氷の町 | 市川昭介 | 佐伯亮 | ||
25 | 〇 | 1983年 2月 | A面 | みれん酒 | |||
26 | 〇 | B面 | 湯の町慕情 | ||||
27 | 〇 | 1984年 4月 | A面 | さだめ舟 | |||
28 | × | B面 | 北海岬 |
筆者が分けた70年代後半(1976年)~80年代前半(1984年)までにリリースされた楽曲のうち、サブスクリプションサービスにて配信されている楽曲に〇をつけた。
28曲中18曲がサブスクリプションサービスにて聴くことができるようになっていることが明らかになった。B面の楽曲も多数聴けるようになっていることがマニアとしては嬉しいところである。
以下の通り、Spotifyで配信されている楽曲のプレイリストを作成した。
なお△を付けている「あなたは男でしょう」は、2020年に”ジロー&ミナ”名義(冠氏の妻とのデュエット)にて新録されたバージョンのみ配信されており、オリジナルバージョンの配信はない。
また「流浪歌」「湯の町慕情」については、オリジナルバージョンとともに新録バージョンも両方配信されている。
「流浪歌」は2021年のシングル『望郷の駅はまだ遠い』のカップリング曲、「湯の町慕情」は2020年のシングル『湯の町慕情』のタイトル曲として配信されている。
以下では、サブスクリプションサービスにて聴ける楽曲について、一言ずつコメントしたものを表にまとめた。
No. | タイトル | コメント |
---|---|---|
1 | 港・恋灯り | 日本コロムビア移籍第1弾シングル。哀愁漂う二枚目の冠二郎が光る。イントロが秀逸だ。 |
2 | 気のむくままに | 70年代には時々見られる、世知辛い世の中を憂うようなテーマの曲。フォークを感じさせる渋い雰囲気の佳曲だ。 |
3 | 霧ふる町 | 演歌と言うよりは歌謡曲を思わせる楽曲。川口真氏の美しいメロディが光り、ストレートな冠氏の歌唱が胸にしみる。 |
4 | 悔いない旅 | 「霧ふる町」のB面で、メジャーキーのポップスは冠氏にはかなり珍しい。抑え目のAメロから開けるようなサビの流れが、古き良き歌謡曲の定番である。 |
5 | 泣いてもいいよ | 遠藤実氏の作曲で、演歌要素は強まりつつも、歌詞には若々しいテーマを感じさせる。比較的新しいベストにもよく収録される楽曲。 |
6 | 旅の終りに | 言わずと知れた冠氏の代表曲の1つ。旅・さすらいなどのテーマと歌謡曲を感じさせるメロディは、前後の流れを見ると一貫していたと分かる。 |
7 | さすらいの旅 | 「亜樹子」のB面で、作曲が菊池俊輔氏であり、かなり「旅の終りに」に似たタイプの曲。こちらも隠れた名曲である。 |
8 | 望郷物語 | 作曲は立原岬となっているが、作詞とともに五木寛之氏が担当している。「旅の終りに」路線の哀愁漂う、味わい深い名曲。 |
9 | わかれの夜汽車 | 「望郷物語」のB面で、テーマはさすらう男であるが、楽曲は戦後歌謡的なリズミカルなもの。耳に残るメロディやリズムがB面にはもったいない隠れ名曲。 |
10 | 流浪歌 | 作曲は徳久広司氏であり、彼らしい寂しげなメロディが光る。さすらう男の哀愁を冠氏が情感たっぷりに歌い上げる。 |
11 | あなたの恋灯り | さすらいをテーマにしつつも、メジャー調の明るい演歌となっており、これまでと少し路線が変わりつつある。しかし歌いやすく耳に残るメロディが秀逸な楽曲。 |
12 | 流れのままに | 男のさすらう心情を歌った渋い名曲。気品を感じさせるメロディと武骨な男の心情を歌う冠氏の歌唱が素晴らしい。 |
13 | あなたは男でしょう | これまであまりなかった夫婦ものの演歌である。冠氏が結婚後に「ジロー&ミナ」名義でボーカル再録された。 |
14 | 石狩列車 | 旅やさすらいと言ったテーマに回帰したような楽曲。鉄道ものも演歌の定番であり、寂しげなイントロも美しい。 |
15 | 度胸船 | ド演歌路線へと踏み切った楽曲だが、冠氏のこぶし回しや緩急つけた歌い方が冴え渡っている。 |
16 | みれん酒 | 後にいくつか作られる酒シリーズの第1弾。高いキーで歌うBメロが心地好く、カラオケに適した楽曲となっている。 |
17 | 湯の町慕情 | 市川昭介氏の作曲らしい楽曲である。2020年に新録ボーカルでA面の楽曲としてリリースされている。 |
18 | さだめ舟 | この曲も市川節が炸裂の王道演歌。すっかり旅・さすらいの路線からは離れ、叶わぬ恋を歌った内容で、比較的最近のベスト盤でも収録されることが多い。 |
まとめ
今回は70年代後半~80年代前半の冠二郎氏の楽曲のうち、サブスクリプションサービスで聴ける楽曲についてまとめた。
70年代後半には”旅・さすらい”をテーマとした楽曲が中心であり、「旅の終りに」以外にも歌謡曲要素の強い、隠れた名曲が多数存在するのがこの時期であると考える。
シングル『あなたの恋灯り』辺りを境目として、徐々に旅・さすらいなど、70年代後半の冠氏のテーマは影を潜めていくこととなる。
80年代後半以降、酒・男女の恋など、演歌らしいテーマの曲が増える中で、ようやく「しのび酒」「酒場」「炎」などで、注目を集めるようになっていった。
残念ながら「旅の終りに」以外は、旅・さすらいがテーマの曲が注目されることはなかったが、この時期の冠二郎氏の楽曲には独特の魅力があり、ぜひ再評価されて欲しいと思っている。
なおサブスクリプションサービスにない楽曲は、アルバムを購入することで手に入れることになる。筆者が手に取ったアルバムの中で2016年の『ツイン・パック』は、古い楽曲も多数収録されている。
今回サブスクリプションサービスにはなかった「北海岬」「夫婦春秋(カバー曲)」や「ちぎれ雲(アルバムのみの楽曲)」などが収録されているのでおすすめだ。
今後さらにサブスクリプションサービスが解禁されることを期待したいと思う。
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