希少ジャンル「ロック演歌」入門 – 演歌の歴史、ロック演歌のおすすめ楽曲紹介

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演歌
画像出典:Amazon

ロック演歌」というジャンルを聴いたことがあるだろうか?

ロック演歌とは、演歌をロックアレンジしたもののことではない。演歌というジャンルの中で、ロックテイストを感じさせる楽曲群のことである。

その独特な音楽性ゆえに一部には熱烈なマニアが存在するものの、一般的にはその存在はほとんど知られていない。

今回はそんな演歌のサブジャンルである「ロック演歌」の入門となる楽曲の紹介をしていきたい。

演歌を初めて聴く人に向けた入門編の記事はこちら

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ロック演歌とは

まずはロック演歌とは何か、その定義を押さえたい。その前に少しだけ「演歌」についても触れておこう。

演歌とは何か?

現在の演歌の特徴は、およそ以下の通りとなる。

  • ヨナ抜き音階:西洋音階7音のうち、4音・7音を抜いた音階を用いること。ペンタトニック・スケールと呼ばれるものである。
  • こぶし・ビブラート:こぶしを回す、大きなビブラートをかけることが多い。
  • 特定のテーマ:酒、恋愛、海、北国、夫婦などよく歌われるテーマがある。

演歌は「日本人の心」と言われたりするが、上記の特徴を持つ演歌のそれほど歴史的に古いものではない。

演歌という言葉は、19世紀末のプロテストソング「演説歌」や、流しの歌手による「艶歌」などから来ているとされるが、現在の演歌の様式が成立し始めたのは1960年代と考えるのが良いだろう。

五木寛之氏の小説「艶歌」では、艶歌がジャズやブルースなどと同じように捉えられ、日本人のブルースとして考えられた。「演説歌」のような政治色はなく、庶民の怨念や感傷を歌うものであった。

この時代に歌われた艶歌は暗くアウトローなものであったが、徐々に様式化して1970年代に入ると特徴的な部分のみが切り取られたものとなり、現在の「演歌」が形作られていった。

つまり現在の演歌は、どんな精神性を持つかよりも、冒頭に示した特徴を持つ様式化した音楽ジャンルと言えよう。

そして様式化した演歌は、現在に近づくにつれて若者には受け入れられなくなり、ファンの高齢化が進んでいる。

ロック演歌とは何か?

そんな頑なに様式を守ってきた演歌の中にも、革新的な要素を取り入れようとしたジャンルが「ロック演歌」である。

ロック演歌は、文字通り「演歌の様式の中に、ロックの要素を持ち込んだもの」である。ただし決まった定義がある訳ではないため、筆者の考えも多分に含まれている点を承知でお読みいただきたい。

1つの大きな流れとしては、1990年代の冠二郎によるネオ演歌と呼ばれる楽曲群である。その始まりは、1992年にリリースされた冠二郎による「」であった。

これまでの演歌にはないアップテンポなリズム、そして「アイ、アイ、アイライク演歌」という強烈なフレーズが注目され、若者の支持を集めることとなった。

その後1993年の「ムサシ」、1998年の「バイキング」が、同系列のネオ演歌としてリリースされた。しかし作曲者の和田香苗氏が2001年に亡くなったため、このシリーズも終了となっている。

なお「ネオ演歌」には、テクノ音楽を制作していたYMOなどのメンバーが演歌に楽曲提供したものも含んでいるが、ロック演歌はそういった流れも含む広い概念としてとらえている。

しかし筆者が注目したいのは、演歌以外のジャンルの制作者によるものではなく、演歌の作曲者によるロック演歌である。

その理由は、ロックのリスナーを中心に据えていないがために、ユニークな音楽性となっていることによる。

冠氏の「炎」「バイキング」なども、メロディは演歌らしいものの、アッパーな曲調や和製英語など突っ込みどころが満載だ。

そして面白いことに、ロック演歌も様式化していくため、似たようなタイプの楽曲が作られる傾向がある。そうすると、なんとなく「ロック演歌」らしい楽曲が出てくるのである。

ロックが革新性を求めるものであるのに対し、すぐに様式化してしまう演歌の特徴を内包するという、矛盾を抱えた不思議なジャンルということになろう。

上記のようなアップテンポなものやテクノを取り入れた楽曲以外にも、プログレ要素を持ち込んだもの、ラップを持ち込んだものなど、音楽性は多様である。

広く実験的な要素を持ち込んだ演歌を、ここでは「ロック演歌」として紹介していきたい。

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ロック演歌のおすすめ10曲

”論より証拠”であり、ここでは筆者おすすめのロック演歌10曲を紹介したい。楽曲の評価については、以下の2点を5段階で評価した。

  • ロックらしさ:実験的な要素をいかに含んでいるか。
  • 演歌らしさ:演歌の様式をいかに含んでいるか。

冠二郎 – 炎(1992)

  • 作詞:三浦康照/作曲:和田香苗/編曲:前田俊明
  • ロックらしさ:★★★★★
  • 演歌らしさ:★★★★★

既に紹介した、ロック演歌の代表曲である。まずはこの曲から聴くのがおすすめである。

冠二郎氏は1967年「命ひとつ」でデビューし、1977年に自身も出演したドラマ『海峡物語』の主題歌「旅の終りに」がヒット。

それ以降ヒットに恵まれなかったが、この「炎」で大きく注目され、第43回NHK紅白歌合戦に出場している。「炎」は冠氏の代表曲の1つとなっている。

アップテンポなリズム、「アイ、アイ、アイライク演歌」「フレイム!フレイム!」などの英語詞が含まれるなど、従来の演歌の概念を超えた楽曲となっている。

「炎」発売後にはアップテンポなロック演歌は増えたものの、このユニークさは冠氏でこそ出せる魅力であろう。

演歌歌手、冠二郎の波乱万丈と楽曲の魅力 – ロック演歌から正統派演歌までおすすめ曲紹介

冠二郎 – ムサシ(1993)

  • 作詞:三浦康照/作曲:和田香苗/編曲:前田俊明
  • ロックらしさ:★★★★☆
  • 演歌らしさ:★★★★★

「炎」のヒットを受けて作られたと思われ、制作陣は「炎」と同じ。ロック演歌3部作の第2作目と言われている。

サビの「ムサシ」というメロディラインが口ずさみやすく、耳に残る。「炎」に比べると、歌メロディが印象的でロック要素はやや控えめになっている印象だ。

とは言え、剣士の哀愁をアップテンポに歌い上げる演歌は斬新であり、「ムサシ」もロック演歌を語る上では外せない楽曲であろう。

冠二郎 – バイキング(1998)

  • 作詞:三浦康照/作曲:和田香苗/編曲:前田俊明
  • ロックらしさ:★★★★★
  • 演歌らしさ:★★★★☆

「ムサシ」の発売後は、しばらく正統派の演歌が続いていたが、約5年ぶりにロック演歌の楽曲として「バイキング」がリリースされた。海賊物の演歌というまた珍しいテーマである。

勇壮な海賊を思わせるトラックに、「GO GO GO GO」という英語が唐突に登場する辺りは、「炎」を受け継ぐ楽曲と言えよう。「バルトの海峡」と歌いつつ、日本臭いメロディラインが面白い。

なお「炎」「ムサシ」「バイキング」の3作は、リミックスされたマキシシングル『冠Revolution』(1998年)としても発売された。演歌としては初のマキシシングルだったようだ。

加えて、3部作を作曲した和田香苗氏は2001年に亡くなっている。「バイキング」の後、1999年に「太陽に叫ぼう」とそのカップリング「俺は天下の脳ビタくん」が和田氏の最後の冠氏への作曲であった。

この2曲も素晴らしいロック演歌なので、ぜひ音源を入手していただきたい。

※「炎」「ムサシ」「バイキング」の3曲が収録されているベストアルバム

半田浩二- 済州エア・ポート(1988)

  • 作詞・作曲:中山大三郎/編曲:竜崎孝路
  • ロックらしさ:★★★★★
  • 演歌らしさ:★★★★★

ロック演歌を語る上では外せない1曲がこの「済州エア・ポート」である。

半田浩二氏は1988年に「済州エア・ポート」でデビューし、作詞家・作曲家の中山大三郎の一番弟子である。男前なボーカルと安定した歌唱力が持ち味だ。

この楽曲を作曲した中山大三郎氏の作る曲は、ロック演歌的なアッパーなリズムに合うメロディが多い。尾形大作氏の「無錫旅情」「大連の街から」なども、ロック演歌の原型として重要な楽曲である。

そんな中山氏による「済州エア・ポート」は異国情緒溢れるメロディながら、トラックはテクノ的な要素を持つ実験的なものであった。

特にイントロのギターフレーズから、テクノ風のドラミングの流れは、強く印象に残るものである。カラオケで歌いやすいキャッチ―さもありつつ、実験的な要素もある名曲だ。

半田浩二 – 酒よさけさけ(1993)

  • 作詞:中山大三郎/作曲:臼井義典/編曲:竜崎孝路
  • ロックらしさ:★★★★★
  • 演歌らしさ:★★★★☆

デビュー曲「済州エア・ポート」以降も何作か作詞・作曲ともに中山大三郎氏による楽曲が続いていた。この曲は作詞のみだが、よりアグレッシブなアレンジが印象的なロック演歌である。

サウンドは打ち込みを全面的に使用し、どこか韓国トロットを思わせるビート感の強いアレンジ。歌謡曲的なメロディをアッパーなリズムに乗せる、ロック演歌のお手本である。

歌詞もひたすら酒の飲み方の種類などを並べている点が、斬新である。

なお半田浩二氏については、その他の楽曲もロック演歌的要素を感じる楽曲が多いため、ベスト盤などぜひ手に取っていただきたい。「ヨコハマ・コンチェルト」「居酒屋チェジュ」などもおすすめ。

吉幾三 – 俺ら東京さ行ぐだ(1984)

  • 作詞・作曲:吉幾三/編曲:野村豊
  • ロックらしさ:★★★★★
  • 演歌らしさ:★★★☆☆

有名な曲であるが、この曲もロック演歌の中に含めたい楽曲である。

吉幾三氏は演歌の中では珍しいシンガーソングライターであり、1973年にアイドル歌手としてデビュー後に、1977年のフォーク路線での再デビュー曲「俺はぜったい!プレスリー」がヒット。

低迷期を経て、千昌夫に提供した「津軽平野」がヒットし、後に「雪國」「酒よ」などの楽曲がヒットしている。

1984年にリリースされた「俺ら東京さ行ぐだ」はあまりに先進的な楽曲であった。もはや説明するまでもなく、日本で最初期にラップを導入しつつ、見事に日本の歌謡曲と融合させている。

またアレンジにも目を向けたい。イントロやサビでは演歌らしいアレンジだが、ラップ部分ではカッティングギターを入れるなどソウルミュージック的な要素を感じさせる

この曲がただのコミックソングではなく、本場のラップミュージックに影響を受けて作られたものであることがわかる。

余談ではあるが、カップリングの「故郷」もまた名曲である。

坂本冬美 – 夜桜お七(1994)

  • 作詞:林あまり/作曲:三木たかし/編曲:若草恵
  • ロックらしさ:★★★★★
  • 演歌らしさ:★★★★★

ロック演歌の中でも、アレンジの斬新さにおいてはこの曲が随一であろう。

歌っている坂本冬美は1987年に「あばれ太鼓」でデビュー。代表曲に「火の国の女」などがある。

師事していた猪俣公章氏が亡くなった後で初のシングルが「夜桜お七」であった。歌詞は歌人の林あまり氏によるもので、短歌の連作を再構成した歌詞となっていたようだ。

この楽曲の特徴は、何と言ってもロック的な展開の多さである。怪しさも感じさせるAメロから、一転してアップテンポになる点がカッコいい。

一部では「プログレッシブ演歌」と言われているが、アップテンポだからプログレなのではないだろう。展開の多さや、中間部のアンビエントな間奏などを指しているものと思われる。

プログレに該当するかわからないが、プログレ的な要素は感じさせる珍しい楽曲となっている。

田川寿美 – 女人高野(2002)

  • 作詞:五木寛之/作曲:幸耕平/編曲:若草恵
  • ロックらしさ:★★★★★
  • 演歌らしさ:★★★★☆

「夜桜お七」のインパクトは大きく、後にはフォロワーとも思われる楽曲がいくつか作られている。その中でも出色の出来と思われるのが、この「女人高野」である。

田川寿美氏は1992年に「女…ひとり旅」でデビューした。作曲家・鈴木淳に師事している。

この「女人高野」は彼女のキャリアにおいても独特な楽曲となったが、演歌界においても特殊な楽曲である。まずは歌唱の際に、エレキギターを弾きながら歌う点である。

これまで三味線を弾く女性歌手は長山洋子氏などが見られたが、エレキギターは珍しい。

編曲は「夜桜お七」の若草恵氏であり、「夜桜お七」のようにテンポアップする展開を継承しつつ、よりロック色が強い。

「燃えて咲くならそれでいい」のキメの多さなど、演歌には珍しいハードな展開である。イントロのギターソロやピックスクラッチなど、メタル的な演歌の仕上がりとなっている。

新沼謙治 – 黒潮列車(1978)

  • 作詞:麻生香太郎/作曲:杉本真人/編曲:若草恵
  • ロックらしさ:★★★★★
  • 演歌らしさ:★★★★★

冠二郎氏の「ネオ演歌」的な流れとは異なるが、それ以前の時代にもロック演歌と呼べるような名曲が生まれていた。それが新沼謙治氏の「黒潮列車」である。

新沼謙治氏と言えば、1976年に「おもいで岬」でデビューし、同年リリースの「嫁に来ないか」がヒットした。

1978年リリースのこの曲は、アイドル的な人気のあった時代の楽曲ながら、ロックと演歌が融合した独特なものとなっている。

メロディは演歌的な特徴を持つものだが、サウンドはまるで初期のThe Doobie Brothersのようなギターロックだ。1973年の名曲「Long Train Runnin’」のようなカッティングギターで始める点も面白い。

編曲には先述の「夜桜お七」「女人高野」も担当した若草恵氏である。演歌の中にロックのテイストを持ち込むことがお得意の編曲家のようだ。

島津悦子 – 焼酎天国II(2006)

  • 作詞:吉岡治/作曲:弦哲也/編曲:前田俊明
  • ロックらしさ:★★★★☆
  • 演歌らしさ:★★★☆☆

最後に紹介する曲は、冠二郎氏の「炎」を受け継ぐようなパワー溢れる楽曲「焼酎天国II」である。曲調としてはポップスと言えるが、歌詞やそのテンションの高さはロック演歌そのものであろう。

歌っているのは島津悦子氏であり、1988年に「しのび宿」でデビューした演歌歌手だ。華やかな歌声が魅力である。

2006年にシングル化された「焼酎天国II」は島津氏の出身地である鹿児島県の焼酎の宣伝を兼ねた楽曲であった。

ロック演歌としてポイントが高い点は、歌詞にある。冒頭より野太い男の声で「焼酎天国」と掛け声が入っているところから既に良い。

そしてサビでも「Wow Wow Wow」や「ベイビー罪つくり ベイビー罰あたり」など、英語を取り入れた歌詞が唐突に出てくる点も素晴らしい。

編曲は「炎」など冠二郎氏のロック演歌3部作を担当した前田俊明氏。全体的に勢いのあるアレンジとなっており、華々しいアレンジはお手の物のようだ。

まとめ

今回はロック演歌の特徴と、おすすめの10曲を中心に紹介してきた。

何よりもまずはこの10曲を聴いて、楽しんでいただきたい。演歌に対して少し抵抗のある人もいるかもしれないが、ここを入り口にすると入りやすいと思われる。

筆者も今回紹介したようなアップテンポな曲を入り口に、徐々に渋い楽曲へと進んでいった。

演歌は決して暗いだけの音楽ジャンルではない。今回紹介した陽気な楽曲も多数存在する。

そして様式化された音楽には違いないものの、その中で様々な実験が行われたのが「ロック演歌」である。

ロックやメタル、プログレ、ラップなど、他ジャンルのエッセンスを思いもよらぬ形で取り入れている点が面白い。

曲数自体は多くないため、気に入った人はぜひ他にもロック演歌の楽曲がないか、探してみてほしい。

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