【ライブレポート】2023年3月12日(日)エレファントカシマシ「35th ANNIVERSARY TOUR 2023 YES. I. DO」横浜アリーナ

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エレファントカシマシ

デビュー35周年を迎えたエレファントカシマシが、自身初となるアリーナツアーを行うこととなった。3月11日(土)の横浜アリーナから、東京・名古屋・大阪をめぐるツアーである。

ボーカル宮本浩次氏がソロ活動を始めた2019年以来、エレカシとしてツアーを行うのは4年ぶりである。そして35周年を記念した公演となれば、さらに期待が高まるツアーだ。

筆者としてもエレカシのコンサートに参加するのは、かなり久しぶりのこと。エレカシの今を見届けるべく、横浜アリーナへと向かった。

この記事では、エレファントカシマシ「35th ANNIVERSARY TOUR 2023 YES. I. DO」の3月12日(日)横浜アリーナ2日目の模様をレポートする。

最後には、セットリストやライブ構成から見る今回の選曲の意味合い、そしてアリーナツアーと言う規模のコンサートについて思うことなど、少し冷静な視点も交えて考察してみた。

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ライブレポート:2023年3月12日(日)横浜アリーナ公演

曇天の横浜、幸い開演前には雨が降ることはなく、16時過ぎ頃に横浜アリーナに到着した。入場の列はほぼできておらず、スムーズに入場できそうな様子であった。

付近では、当日券の販売窓口があり、当日券が売られているようだった。

筆者はファンクラブ先行で申し込んだものの、まさかの落選。最速の先行で申し込んでチケットを入手できたが、そのため座席は2階席だった。

場所的にはギター側(上手)で、ステージは結構小さく見える。センターステージがあり、中央に出てこられるようになっていた。

開演前にはオルタナティブロックが流れており、筆者が入場した際には、American Footballの3rdアルバムから「Silhouettes」が流れていた。

コンサートは振り返ってみると、3部編成+アンコールと言う形だった。各部に筆者オリジナルのタイトルをつけてレポートしていきたい。

第1部:戦慄のロックモードのエレカシ

ほぼ定刻通りにライブはスタート。冒頭にはエレカシ35周年を振り返る映像が流れた。

あまり映像を使わないエレカシとしては珍しいが、MVやライブ映像、当時の写真などが組み合わされた映像となっていた。

エピックソニー時代のカットが多く、ポニーキャニオン時代が少し、そして東芝EMI時代はかなり端折られ、その後はユニバーサル時代はライブ映像なども多かった。

この時感じたのは、何となくエレカシとして今、見せたいものが反映されている?ということだった。この日のライブを少し先取りしたような内容なのか、とも思った。

ライブ1曲目は、宮本氏(らしき人)がスライドギターを弾き始め、まさかの激渋曲「Sky is blue」である。

”らしき人”と書いたのは、白色の上着にフードを被っており、誰だか分からないいで立ちなのだ。こうした衣装も、普段とは異なる演出である。

2009年のアルバム『昇れる太陽』の1曲目であるこの曲は、非常にポップで明るい曲がシングルリリースされる中、アルバムとしては渋いロックもやるぜ、というエレカシの信念を感じるものだ。

35周年のコンサートの1曲目に、この曲を持ってくること自体、ロックバンドとしての信念を感じさせるものである。

そして宮本氏がギターをかき鳴らし、リフを弾き始めると、これまた渋いチョイスの「ドビッシャー男」である。

宮本氏は冒頭からかなり声が出ている。やはりツアー初日より、声出しが十分に行われた2日目に来て良かった、と思った。

宮本氏はうっすら柄の見える黒シャツ、石くんは2000年代後半頃のように坊主頭になっている。

続く「悲しみの果て」は、1996年のアルバム『ココロに花を』と同じ並び。ここまでMCを挟まなかったが、いつものように「バラード」であると述べて、1stアルバムから「デーデ」。

立て続けに1stから「星の砂」と続くと、まるで日比谷野音のライブのようである。この曲の時に印象的な場面があった。

サビの部分で、皆で手を振るのが「星の砂」の定番となっている。しかし2階席からこの光景を見ていると、どうも滑稽に見えてきたというか、何だかムードと全くあっていない感じがした。

どうも居心地が悪く、筆者はその動きに混ざらずにいた。今ステージでやっているエレカシは、どこか攻撃的なモードであり、そんなハッピーな雰囲気ではないのだ。

するとモニターに映し出された宮本氏は、どこか「違うぞ」という表情、そして諦めたような顔つきをしている。

どうもこの瞬間は、会場が一体となることを拒絶しているかのようであり、終盤は”星の砂”と歌うこともやめてしまう。

そしてメンバーの方を向き、石くんとともに不思議な動きを始め、そして演奏が終わったかと思うと、また始めたりと、トリッキーな動作を続けていた。

この瞬間、何だか私の思いと宮本氏の思いは、通じたような気がした。そう、この時間はそんなハッピーな雰囲気ではなく、ロックをやるんだ、という思いである。

後から思ったのは、この第1部はエピックソニー時代のマインド自体を再現していたのではなかろうか。

そのまま「珍奇男」へ。やはり前半はエピックソニー時代の曲を中心に、かなり攻撃的なモードで進んでいっているようだ。

先日リリースされたシングル『yes. I. do』での2022年の日比谷野音の映像を見た。ギターのチューニングが合わず、いまひとつ上手くいかないテイクという印象だった。

しかし今日の「珍奇男」は、ばっちり息の合った演奏だった。

金原千恵子ストリングスチームが登場すると、披露されたのは「昔の侍」。この曲もポップなメロディながら、マインド的にはエピックソニー時代を思わせるものである。

ストリングスチームも加わったまま、「奴隷天国」へ。今回の「奴隷天国」はやはり盛り上げる雰囲気ではなく、初期の頃を思わせる怒りに満ちたようなパフォーマンスである。

センターステージに宮本氏が立つと、1993年にeZ a GO! GO!で放映されたこの映像を彷彿させる。

演奏が終わると、あっという間にメンバーがステージから去っていく。MCもなく、異様な攻撃的なムードの中で、どうやら第1部が終わったということのようだ。

こんな感じでライブが進んで行くのか、と思うと緊張感があり、戦慄の走る第1部だった。

第2部:ユニバーサル前期の再現ライブ

しかし第2部が始まってみると、それは今回のライブの1側面に過ぎなかったことが明らかになる。

再びストリングスチームとともに登場した第2部は、「新しい季節へキミと」からスタート。筆者としては2009年の武道館公演(DVD『桜の花舞い上がる武道館』)を思い出すものだった。

あの頃のどんどん右肩上がりにエレカシが上昇していく高揚感が蘇る。

今回はキーボードに蔦谷好位置氏、ギターにヒラマミキオ氏、そして金原千恵子ストリングスチームと、まるで2008~2009年くらいのコンサートを思い出させるような編成なのだ。

メンバー発表時点で予想されたことだが、この第2部はユニバーサルミュージック時代の前期、つまり2008~2010年頃のアルバムからふんだんに演奏されたのである。

パワフルな演奏が印象的な「」を披露すると、第1部ではなかったMCをフレンドリーに展開していく宮本氏。第1部と同じ人物には見えない。

今回のライブは大切な曲・好きな曲を演奏する」という趣旨の発言があり、「中でもできた時に嬉しかった曲」として披露されたのは、「彼女は買い物の帰り道」である。

男性目線の曲が圧倒的に多かった宮本氏が、女性目線のこんなにも穏やかな歌詞を書くようになったのか、と当時驚いたのを思い出す。

エレカシにはあまりないタイプの、ほっこりと温かい気持ちになれる、隠れ(隠れてもいないが)名曲であり、涙したファンも多かったのではなかろうか。

そして金原千恵子氏、笠原あやの氏が前に出てきたので、次に披露される楽曲の予想は既についている。宮本氏はメンバーとの出会いなどを語り、昔を懐かしむようなMCを挟む。

披露されたのは、もちろん「リッスントゥザミュージック」である。若かりし頃の淡い恋を歌ったこの曲もまた、エレカシらしい儚さと情熱が混ざり合ったような超名曲である。

何度この曲をライブで聴いても、感動の涙が押し寄せてくる。さらに号泣ゾーンは続き、アコースティック編成で「風に吹かれて」が立て続けに披露される。

ポニーキャニオン期の楽曲ながら、2008年のシングル『笑顔の未来へ』のカップリングで、蔦谷氏のピアノがフューチャーされたアレンジは、ユニバーサル時代の楽曲と言っても良いだろう。

今回はバンドが一切加わることなく、ゲストミュージシャンのみで演奏されると言うレアなバージョンだった。

まさかのカバー曲「翳りゆく部屋」がセットリストに入ったのはソロ活動の影響か、とも思いつつ、これもユニバーサル時代の思い出の1つである。

「良い季節になってきたな!」というMCから「ハナウタ~遠い昔からの物語~」。この曲も2009年のエレカシ絶好調の時代を象徴する曲であり、会場が一気に明るくなるのを感じた。

宮本氏がアコースティックギターでサビの一節を先取りして披露された「今宵の月のように」。35周年を記念するライブにおいて外すわけにはいかない、代表曲である。

第2部も終盤、披露されたのは「RAINBOW」である。この曲は2012年の宮本氏の療養期間を経た後の楽曲であり、比較的新しい楽曲である。

この曲はライブで育ってきた楽曲であり、宮本氏のまくしたてるようなボーカルは、いつも以上にキレを増しており、ラストの絶叫が終わると、思わず歓声を上げる人が多かった。

場内が暗転して第2部終了かと思ったら、映像が流れ始め、鳥のさえずりが聞こえてくる。「まさかあの曲を…」と気づき始めた人も多いだろう。

」~「悪魔メフィスト」である。ベスト盤にはなかなか入らない曲だが、2010年のアルバム『悪魔のささやき〜そして、心に火を灯す旅〜』のラストに配置された重要曲である。

ポップに作り上げた世界観も、最後に大どんでん返しをしてしまうこの曲。これも当時のリリースツアーを思い出させるもので、ユニバーサル前期コーナーを締めくくるのに相応しい。

この第2部は、ユニバーサルミュージック前期をリアルタイムで追いかけてきた筆者としては、感涙もののコーナーであった。

当ブログの記事でも書いた通り、大学受験に失敗した年にエレカシは「俺たちの明日」でブレイクし、筆者が大学に無事合格した当時には「桜の花、舞い上がる道を」がリリースされた。

非常に個人的な思い出だが、エレカシとともに自分があった時期である。そして上京してエレカシのライブにたくさん行ったのが、2008年~2010年頃だった。

当時のメンバーは40代前半で、かなり元気いっぱいで、パワーで押し切るライブがかっこよかった。今はまた違う魅力があるが、当時の感動が蘇るようなセットリストだった。

第3部:ライブ終盤曲詰め合わせ

短いインターバルを挟んで、第3部である。いよいよコンサートも終盤であることは感覚的にわかる。

「これも大切な曲」とのMCから、2018年のアルバム『Wake Up』から「風と共に」。NHKみんなのうたに起用されたこの曲は、スケール感の大きな名曲である。

新しい曲が続くのかと思いきや、再びユニバーサル前期から「桜の花、舞い上がる道を」が披露される。

先ほども書いた通り、筆者にとっては自分を祝福してくれたような思い出があり、特別な1曲だ。後半には花びらを模した紙吹雪が舞う演出もあった。

そしてダメ押しの「笑顔の未来へ」で、またしても感動の嵐である。この曲の高揚感は何にも代えがたく、無条件で背中を押してくれるような力強さと優しさがあるのだ。

続く「so many people」は、東芝EMI期から唯一披露された楽曲。エレカシのライブには欠かせない楽曲であり、盛り上がりもこの日1番だったように見えた。

ズレてる方がいい」もエレカシの歴史において重要な曲だ。映画『のぼうの城』の主題歌として制作された楽曲であるが、その後にエレカシの歴史として別の意味を持った。

それは2012年の日比谷野外音楽堂でのコンサートが、宮本氏の急性感音難聴のため、大幅に曲目を減らして行われた時だった。

アコースティックギターの弾き語りで演奏した後、唯一バンド演奏されたのが「ズレてる方がいい」だった。何とかファンに演奏を届けたいと言う思いのこもったステージだった。

そして2013年に”復活の野音”と呼ばれるライブでも、ライブ終盤に重要なタイミングで「ズレてる方がいい」が披露された。この時期を象徴する1曲となったのである。

立て続けに「俺たちの明日」が披露される。胸が熱くなるような楽曲が続いていく。

最後に今のエレカシ、ということで新曲「yes. I. do」が初めて披露される。どっしりと味わい深いこの曲は、これまでの華やかな楽曲から、歴史を感じさせるものだった。

この日のライブでは、ずっと懐かしいエレカシを聴いていたのが、一気に現代へと戻ってきた感覚だ。再びエレカシがコンサートをしている、と言う事実がここにあるのである。

そして再び時代は一気にデビューまで遡り、「ファイティングマン」が披露される。宮本氏が先にリフを弾き始め、石くんが弾き始めると言う始まり方。

中盤では宮本氏だけでなく、石くんもセンターステージに移動してギターを弾く場面もあった。ずっとこの2人は一緒だったんだな、と感慨深い気持ちになる。

こうして3部にわたるエレカシ35周年のコンサート本編は終了した。

アンコールでは1曲だけ披露されたが、やはりこれをやるのか、という「待つ男」である。高緑氏のベースが始まり、間髪入れずに宮本氏の絶叫が響き渡る。

華やかだったムードは、再び第1部へと戻ったような感覚である。真っ赤な照明もまた、初期のエレカシのライブのような武骨な雰囲気を演出していた。

戦慄から始まって戦慄に終わる。やはりエレカシはロックバンドである、という信念は貫かれたのだった。

セットリスト

横浜アリーナ2日目、3月12日(日)公演のセットリストを掲載した。なおどのアルバムに収録されているかについても情報を載せている。

No.タイトル収録アルバム
第1部
1Sky is blue19th『昇れる太陽』(2009)
2ドビッシャー男8th『ココロに花を』(1996)
3悲しみの果て8th『ココロに花を』(1996)
4デーデ1st『THE ELEPHANT KASHIMASHI』(1988)
5星の砂1st『THE ELEPHANT KASHIMASHI』(1988)
6珍奇男3rd『浮世の夢』(1989)
7昔の侍9th『明日に向かって走れ-月夜の歌-』(1997)
8奴隷天国6th『奴隷天国』(1993)
第2部
9新しい季節へキミと19th『昇れる太陽』(2009)
1020th『悪魔のささやき〜そして、心に火を灯す旅〜』(2010)
11彼女は買い物の帰り道20th『悪魔のささやき〜そして、心に火を灯す旅〜』(2010)
12リッスントゥザミュージック18th『STARTING OVER』(2008)
13風に吹かれて9th『明日に向かって走れ-月夜の歌-』(1997)
14翳りゆく部屋18th『STARTING OVER』(2008)
15ハナウタ~遠い昔からの物語~19th『昇れる太陽』(2009)
16今宵の月のように9th『明日に向かって走れ-月夜の歌-』(1997)
17RAINBOW22nd『RAINBOW』(2015)
1820th『悪魔のささやき〜そして、心に火を灯す旅〜』(2010)
19悪魔メフィスト20th『悪魔のささやき〜そして、心に火を灯す旅〜』(2010)
第3部
20風と共に23rd『Wake Up』(2018)
21桜の花、舞い上がる道を19th『昇れる太陽』(2009)
22笑顔の未来へ18th『STARTING OVER』(2008)
23so many people11th『good morning』(2000)
24ズレてる方がいい22nd『RAINBOW』(2015)
25俺たちの明日18th『STARTING OVER』(2008)
26yes. I. doシングル『yes. I. do』(2023)
27ファイティングマン1st『THE ELEPHANT KASHIMASHI』(1988)
En.1待つ男2nd『THE ELEPHANT KASHIMASHI II』(1988)

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全体の感想:セットリストが意味すること・アリーナツアーに見た”寂しさ”

今回は自身初となるアリーナツアーであり、それもエレカシとしての活動本格復帰の1つ目に行われたライブであった。

全体的な印象としては、かなり緻密に作り上げられたコンサートだった、という感想がまず浮かぶ。それはいくつかの意味において、そうであった。

まずはこれまでソロ活動をしてきた宮本氏が、パフォーマンスがより上達しているように思えた。細かい所作なども含め、お客さんに見せることへの意識が、以前より増しているように見えた。

バンドメンバーの様子に大きな変化はないが、コンサートをずっと続けてきた宮本氏と、しっかり足並みを揃えて懸命に演奏している様子は窺われた。

なおしっかり構築された印象は、横浜アリーナ2日目、ということで、初日で現場に慣れたということもあるのかもしれない。

初日は緊張感のある場面もあったという感想も聞かれたが、ハラハラする場面は2日目にはなかった。

”構築された”セットリストが意味するもの

そして何より、セットリストの構成がいつになく緻密に作られたものだったように感じた。1~3部がしっかりと整理されており、ライブの流れも意識されたものとなっていたのである。

エレカシのライブと言うと、愚直に曲をやり進めていく、と言う印象があり、悪く言えばとっ散らかっている。

そして同じ曲であっても、その時の宮本氏の気分によって、違った曲に聞こえるほどニュアンスが変わることもあるほど、本当に”生もの”と言うライブである。

しかし今回のコンサートでは、宮本氏自身も、意識して楽曲の雰囲気を伝えるようなパフォーマンスを心掛けていた。

たとえば第1部では一切MCを挟まず、攻撃的な曲はフレンドリーな掛け声を入れることもなく、音源当時の雰囲気をあえて醸し出していた。

その結果、エピックソニー時代の楽曲は、かなり怖い印象すら与えていた。

一転して第2部以降は、ユニバーサルミュージック前期の楽曲を中心に、エピック以降のフレンドリーな宮本氏に”キャラ変”し、饒舌に楽曲について語っていたのである。

ここまでコンサートの中で、モードを切り替えながらパフォーマンスをする、ということは、筆者が見てきた中ではあまり見られない光景だったので意外だった。

そして選曲と言う意味でも、かなり意図した部分もあったのではないか、と推測する。セットリストの収録アルバムを見ての通り、周年ライブながら、全時代を満遍なくという曲目ではない。

すぐに分かるのは、ユニバーサルミュージック時代がかなり多く、次いでエピックソニー時代がやや多め、そして東芝EMI時代は限りなく少ない、ということである。

ユニバーサルミュージック時代が多かったのは、確かに今回のゲストメンバーの影響が大きいのかもしれない。

2008~2010年頃によくライブに参加していたメンバーが揃ったのだから、当然その頃の曲をやろう、と言うことになるだろう。

だとしても、プロのミュージシャンなのだから、宮本氏がオールタイムベスト的なセットリストにする、と言えば、それに従って完璧に演奏することもできたはずである。

だとすれば、やはり意図してこうした選曲が行われた、と考える方が自然にも思える。

宮本氏はライブの中で、「特に好きな曲を集めた」という趣旨の発言をしていたように記憶している。好きな曲、あるいは自信をもって届けたい曲、ということであろう。

その意味では、ユニバーサルミュージック時代は、ダイレクトに今のエレカシに繋がる楽曲たちである。

中でもユニバーサル前期の曲(2008~2010年頃)は、やや混とんとしていた東芝EMI期から、第2の黄金期と言われる変化の過程そのものである。

シングル曲は、ポニーキャニオン期を彷彿させる前向きでポップな楽曲を多数リリースしながら、アルバムでは従来からの骨太なロックもしっかり鳴らすバランス感覚を持っていたのが、この時期である。

2010年代に入ってからも、基本はその路線を引き継ぎつつ、やや模索の色が濃くなりつつあったが、2019年に宮本氏のソロ活動が本格化したことで、いったんエレカシの楽曲リリースがストップした。

やはりエレカシとして、今最も振り返っておきたかったのが、この第2の黄金期であるユニバーサルの、特に前半の時代だったのかもしれない。

そしてもう1つ特徴的だったのが、エピックソニー時代を改めて評価しようと言う意図を感じる部分である。今回のツアーの第1部に、エピックソニー時代の曲を中心に攻撃的な楽曲を集めている。

今、エレカシとして振り返りたい時代がエピックソニー時代と言うのはなかなか意味深長である。エピックソニー時代と言えば、およそ”構築された”とは言い難い、むき出し・荒削りのロックである。

しかしエレカシは常にエピック時代の精神性を引き継いできた部分があり、宮本氏はその幻影に苦しめられてきたようにも思う。

エレカシはかくあるべきではないか?という宮本氏の苦悩の原点に、エピック時代があるように思えてならない。

ただエピック時代は赴くままに音楽ができていた時代なのかもしれない。まだ何者でもない若手バンドが、自由奔放に音楽をすることを許されていた時代である。

だからこそエレカシらしさ、その真髄がやはりエピック時代にあると、改めて感じているのかもしれない。

さらには、エレカシのライブと言う意味において、エピック時代の楽曲が重要な位置を占めてきたことも確かであろう。

ポップで分かりやすい楽曲だけで展開する、今回の2~3部だけのコンサートだったとしたら、エレカシのライブの印象はガラッと変わるはずである。

あの異形の曲たちがあるからこそ、エレファントカシマシなのであろう。筆者としては、今回の選曲・セットリストから上記のような意味合いを読み取ったのである。

【エレファントカシマシ】エピックソニー期という時代 前編(1st『THE ELEPHANT KASHIMASHI』~4th『生活』)

”構築された”アリーナツアーという形態に感じた寂しさ

ここまでセットリストについて考察しがら、「構築された」コンサートだった、ということを述べてきた。

最後に水を差すかもしれないが、冷静に考えるとここまで構築された内容ができたのは、誰かの手によるものではないか、と少し勘ぐってしまった部分もある。

今回は何と言っても、アリーナクラスのコンサートツアーである。しっかりと動員をしなければ収益にならない訳で、それは事務所としても力が入っていることだろうと思う。

それと同時に、CD等の音源・映像もしっかりと売り出したい思惑も動いていたことだろう。

だとすれば、無論宮本氏の意向を伺いつつも、より観客を動員できる形で、しっかりと構築されたコンサートを作り上げるために、誰かの手が加わって出来上がったと考えても不思議ではない。

それだけのビジネスとなれば、当然今まで以上に人の手が加わり、広く一般の層も巻き込んで売り出さなければいけないからである。

今回、エレカシのバンドとしての良さは再確認できた一方、アリーナクラスのコンサートのいろんな意味での距離の遠さは感じた。

それはバンドの演奏の良さが、多少とっ散らかっていてもダイレクトに伝わってくるライブハウス、ホールとは異なる、構築されたショーとしてのアリーナコンサートの特徴である。

どんなに音源が洗練され、メディアに露出しようとも、エレカシのライブは自由な空間だったのが、ライブが”パッケージ化”されたことへの寂しさを、筆者は少し感じた。

それはエピックソニーからポニーキャニオンに移籍した時に、当時のファンの人が感じた寂しさと似たものなのかもしれない。

ただ、もしエレカシがずっと活動を続けていて、ホールコンサートを積み上げ、十分な手応えを得てから、満を持してアリーナツアーを敢行していたら、印象は大きく変わっていたことだろう。

久しぶりのライブツアーで、唐突にアリーナツアーが組まれた、と言う時点で、何か大きな力が動いたのか、と勘繰ってしまう部分があったのは確かだ。

筆者としては、エレカシがもっと知られて欲しい思いはありつつも、巨大なビジネスの中でエレカシが動くとなると、そこには違和感を持ったというのが正直なところである。

ただそれは今回のアリーナツアー1回を見ただけの感想と考察であり、今後の展開を見守っていきたいとは思っている。

ともあれ、エレカシのメンバーが久しぶりに生き生きとライブをやってくれたことの喜びは大きかったし、華々しいユニバーサル前期の楽曲をたくさん堪能できたのも嬉しかった。

筆者としては、これからもエレカシの活動が継続していくことが何より望むところである。35周年の第1歩目でもあり、このまま活動が本格化していくことを期待したい。

そして望むべくは、もっと自由なライブを再び体感したいところである。

今回のツアーで披露された楽曲を多く含むエレカシのアルバム

・1stアルバム『THE ELEPHANT KASHIMASHI』(1988)

現在も披露される楽曲を多数収録した、パワフルなロックンロールが痛快なデビュー作。

・9thアルバム『明日に向かって走れ-月夜の歌-』(1997)

「今宵の月のように」を含む、名曲揃いの不朽の名盤。

・18thアルバム『STARTING OVER』(2008)

ポップでロックな、新しいエレカシの扉を開いた清々しい風が吹くようなアルバム。

・20thアルバム『悪魔のささやき〜そして、心に火を灯す旅〜』(2010)

歴代エレカシのエッセンスを凝縮してまとめ上げた、ユニバーサル前期の名盤。

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