【初心者向け】”はじめてのアルバム” – 第12回:エレファントカシマシ おすすめの聴き進め方+全アルバムレビュー

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エレファントカシマシ全アルバムレビュー

後半では、さらにエレカシを聴きたい人向けに、全オリジナルアルバムレビューを行った。

アルバムの評価として「初心者おすすめ度」「総合評価」の2つを載せている。それぞれの指標の意味は以下の通りである。

  • 初心者おすすめ度:初心者でも聞きやすい作品かどうかを5段階で評価した。★が多いほど初心者にもおすすめできる作品である。
  • 総合評価:エレカシの作品としての筆者による全体的な評価を5段階で示した。作品の人気度、アルバム全体のクオリティなどを考慮している。

初心者の方は「初心者おすすめ度」を参考にしていただきつつも、「総合評価」の高いアルバムを先に聴くのも良いだろう。

1st『THE ELEPHANT KASHIMASHI』(1988)

  • 発売日:1988年3月21日、2013年6月26日(deluxe edition)
  • レーベル:エピックソニー
  • 初心者おすすめ度:★★★☆☆
  • 総合評価:★★★★☆

記念すべきエレファントカシマシのデビューアルバム。シンプルなロックンロールと若さを感じるストレートな演奏が爽快な作品。

「ファイティングマン」「デーデ」「花男」など今も演奏される楽曲も多数収録されている。

RCサクセション・The Street Slidersなどの影響下にあり、ロックンロール色を感じさせるが、ここまで音楽的カラーのはっきりしたアルバムは本作だけである。

そのため後のエレカシとはやや異質なアルバムと言えなくもない。本作はむしろデビュー前までのエレカシの集大成と言っても良いかもしれない。

2nd『THE ELEPHANT KASHIMASHI II』(1988)

  • 発売日:1988年11月21日
  • レーベル:エピックソニー
  • 初心者おすすめ度:★★☆☆☆
  • 総合評価:★★★★☆

1stから間髪空けずにリリースされた本作は、音像はそのままに、よりヘヴィな楽曲が増えたアルバムである。

1stのようなロックンロールの雰囲気も残しつつも、「おはようこんにちは」「待つ男」など、どっしりとしたビートの曲が増えた。

「優しい川」「サラリ サラ サラリ」など、3rdアルバム以降に繋がる内省的で重苦しい雰囲気も感じさせる。1stで見せたストレートな怒りが、マグマのように溜まっているような感覚である。

ただ3rd以降に比べればストレートな楽曲も多く、トータル的にはバランスの良いアルバムとして聴ける。

3rd『浮世の夢』(1989)

  • 発売日:1989年8月21日
  • レーベル:エピックソニー
  • 初心者おすすめ度:★☆☆☆☆
  • 総合評価:★★★★☆

前作のヘヴィな方向性をさらに深めた3rdアルバム。そこに日本文学のエッセンスが加わり、独自の宮本ワールドが広がり始めた記念すべきアルバムだ。

シンプルな演奏は変わらないが、「上野の山」「浮雲男」のメロディには演歌さえ感じる独特な楽曲になっている。

何と言っても強烈な「珍奇男」は、フォークのようであり、激しいロックの怒りでもあり、エピック期の代表曲の1つ。

宮本氏がギターを弾き始めているが、めちゃくちゃな演奏であり、それがさらに狂気の世界観を作り出している。宮本氏の絶叫もエピック随一と言え、かなり聴く人を選ぶアルバムである。

4th『生活』(1990)

  • 発売日:1990年9月1日
  • レーベル:エピックソニー
  • 初心者おすすめ度:★☆☆☆☆
  • 総合評価:★★★★★

エピックソニー期の頂点と言っても良い、問題作にして名盤4thである。前作で見せた文学少年的な世界観をさらに広げ、より音楽的にも構築された長尺な楽曲はまるでプログレのようである。

「男は行く」のような絶叫ロックもあれば、フォークのような「偶成」、絶叫の中に美しさを感じる「月の夜」など、音楽的に充実したアルバムとなっている。

訥々と語りかけるかのように、引きこもりの心情を歌った「遁世」は、後のミュージシャンにも多大な影響を及ぼしているのではなかろうか。

しかしサウンドは宮本氏のボーカルとギターが非常に大きなミックスがなされており、バンドサウンドは崩壊している。サウンド面を見ても、宮本氏の自己が肥大した、思春期的な作品と言える。

【アルバムレビュー】エレファントカシマシ -『生活』(1990)

5th『エレファントカシマシ5』(1992)

  • 発売日:1992年4月8日
  • レーベル:エピックソニー
  • 初心者おすすめ度:★☆☆☆☆
  • 総合評価:★★★★☆

『生活』が思春期の悩める青年をテーマにした作品ならば、本作は社会に出て疲れてしまった大人を描いたようなアルバムである。

描いているものの本質は変わっていないはずだが、宮本氏の当時の実年齢からすれば年老いた人間の視点から歌詞が描かれ、そのせいかどんよりとしたムードが漂う作品だ。

「過ぎゆく日々」「何も無き一夜」など、ただ日常が過ぎていくというのっぺりとした楽曲が多くなっている。怒りとも悲しみとも違う、諦めのような感情が漂っている。

前作の評価が高いゆえに、本作は過小評価されている節がある。楽曲はリフを主体としたハードロックが多く、楽曲の構成などは宮本氏の成長が窺える力作だと筆者は感じる。

6th『奴隷天国』(1993)

  • 発売日:1993年5月21日、2009年9月30日(再発)
  • レーベル:エピックソニー
  • 初心者おすすめ度:★☆☆☆☆
  • 総合評価:★★★☆☆

1stアルバムのようなシンプルなバンドサウンドへの回帰を目指して作られた6thアルバム。確かにバンドらしい音には戻ったが、宮本氏の暑苦しい絶叫の方が印象に残る作品である。

「奴隷天国」は最も怒りが前面に出た楽曲であり、「絶交の歌」「道」などテンションが高く、暑苦しいほどに宮本氏が叫びまくる曲が多い。

一方で「いつものとおり」「寒き夜」など、ポップなメロディも見え始めている点は興味深い。

個人的には本作の暑苦しいシャウトと江戸っ子のようなべらんめえ口調の楽曲が好きなので、もっと高評価でも良いが、やや曲調が似通っていると言えばそうでもある。

7th『東京の空』(1994)

  • 発売日:1994年5月21日
  • レーベル:エピックソニー
  • 初心者おすすめ度:★★★☆☆
  • 総合評価:★★★★★

エピックソニーでの最後のアルバムにして、最も溌溂とした爽快感のある名盤だ。これまでアレンジでバンドに任せていた部分を、宮本氏がすべて担うという変化が本作の風通しの良さになっている。

「この世は最高!」「極楽大将生活賛歌」などテンションの高さは前作と同様だが、よりポップな表現になっているため聴きやすくなっている。

「誰かのささやき」「星の降るような夜に」などポップなメロディはさらに増え、ポニーキャニオン期を予感させる楽曲も多い。

エピックソニーの時代を通じて描いてきた怒りや悲しみの表現を、ついに作品として消化できた記念すべきアルバムでもある。

【アルバムレビュー】エレファントカシマシ – 『東京の空』(1994)

8th『ココロに花を』(1996)

  • 発売日:1996年8月21日、1999年12月8日(再発・EMI盤)、2009年9月16日(HQCD)、2013年6月26日(deluxe edition)
  • レーベル:ポニーキャニオン
  • 初心者おすすめ度:★★★★☆
  • 総合評価:★★★★★

ポニーキャニオンからの第1作目である本作は、前作以上にカラッと爽やかな雰囲気のアルバム。新たなエレカシの幕開けであり、何かが始まる予感で満ちている。

「悲しみの果て」「四月の風」など、これまでのエレカシにはなかったストレートで分かりやすいメロディには、まだぎこちなさもある朴訥とした歌い方が良い。

一方で「ドビッシャー男」「かけだす男」など、エピックの雰囲気を残した楽曲もあり、作風が移行していく過渡期を体感できる作品でもある。

エピックソニー時代にはあり得なかった、初夏のそよ風のような心地よいアルバムだ。

9th『明日に向かって走れ-月夜の歌-』(1997)

  • 発売日:1997年9月10日、1999年12月8日(再発・EMI盤)、2009年9月16日(HQCD)
  • レーベル:ポニーキャニオン
  • 初心者おすすめ度:★★★★★
  • 総合評価:★★★★★

エレカシ最大のヒット作にして、バランスの取れた超名盤である。「今宵の月のように」が収録されたアルバムとして知られるが、他にも名曲が多数収録されている。

とにかく宮本氏のソングライティングが冴え渡り、いずれもシングルカットできるクオリティの曲ばかり。シングル曲のカップリング「遠い浜辺」「赤い薔薇」なども良い味を出している。

前作が初夏を感じさせるとすれば、本作の季節は秋~冬、さらに夕方から夜の時間帯を思わせる楽曲が多い。副題に”月夜の歌”とつけられているのも納得ができる。

そのため前作よりは暗いトーンであるが、初期からエレカシが描いてきたものと一貫している。よりエレカシらしい作品でありつつ、高いクオリティを持つ名盤なのだ。

【アルバムレビュー】エレファントカシマシ -『明日に向かって走れ-月夜の歌-』

10th『愛と夢』(1998)

  • 発売日:1998年12月9日、1999年12月8日(再発・EMI盤)、2009年9月16日(HQCD)
  • レーベル:ポニーキャニオン
  • 初心者おすすめ度:★★★★★
  • 総合評価:★★★★☆

前作以上にポップな楽曲で固めたアルバムであり、全体を通じて非常に聴きやすいアルバム。前作よりも悲しく哀愁の漂う楽曲が多くなっているのが特徴である。

冒頭の「good-bye-mama」から暗いトーンで始まり、「ヒトコイシクテ、アイヲモトメテ」「真夏の星空は少しブルー」なども、このアルバムならではの悲しげな雰囲気である。

前作までの溌溂とした雰囲気はなくなり、バンドらしさも薄れ、宮本氏のソロ的な要素も強まってきている。どこかに気持ちを置いてきてしまったような感覚があるが、それが本作の味とも言える。

攻撃的な要素も全体には薄いのだが、ラストの「おまえとふたりきり」には牙のある攻撃性を潜めており、次作以降の展開を予感させるものである。

11th『good morning』(2000)

  • 発売日:2000年4月26日
  • レーベル:東芝EMI
  • 初心者おすすめ度:★★☆☆☆
  • 総合評価:★★☆☆☆

ポニーキャニオン期のポップな路線から激しいロックサウンドに変わった東芝EMI移籍1作目。レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンなどの打ち込みを用いたロックに宮本氏が影響を受けていたと言われる。

前作よりバンドサウンドから離れ始め、ついに宮本氏の打ち込みが中心となり、バンドメンバーが全員参加しているのは「ガストロンジャー」だけとなっている。

「so many people」「武蔵野」など代表曲も収録される一方で、宮本氏のソロ作品的色合いが強すぎるため、やや他のエレカシ作品とは異質な肌触りである。

エレカシらしい良さに欠ける本作は、筆者としては好まない作品であるが、こうした打ち込みサウンドのロックが好きな人には好まれる作品なのかもしれない。

12th『ライフ』(2002)

  • 発売日:2002年5月2日
  • レーベル:東芝EMI
  • 初心者おすすめ度:★★★★★
  • 総合評価:★★★★☆

前作の大幅な方向転換の反動からか、本作はポニーキャニオン期に戻ったかのようなポップな楽曲が並んでいる。プロデューサーに小林武史氏を迎え、洗練された音作りになっているのも特徴だ。

相変わらずエレカシのバンドらしさには欠ける作品になっているが、前作ほどは宮本氏ソロの印象を感じさせない。それは『ライフ』というタイトル、テーマ性にあるのかもしれない。

「普通の日々」「秋 -さらば遠い夢よ-」など、生活や季節感をタイトルにした楽曲は、『good morning』でぶっ飛んでいた宮本氏が、日常に戻ってきたような印象も与える。

個々の楽曲のクオリティは高いが、今後どのような楽曲・サウンドを作っていくのか、模索している様子もうかがえるアルバムである。

13thミニアルバム『DEAD OR ALIVE』(2002)

  • 発売日:2002年12月26日、2009年9月16日(再発)
  • レーベル:東芝EMI
  • 初心者おすすめ度:★★★☆☆
  • 総合評価:★★★★★

サウンドの方向性を模索していた宮本氏だったが、再びシンプルなバンドサウンドに回帰したアルバム。『DEAD OR ALIVE』という攻撃的なタイトルからも、その決意がうかがわれる。

エピックソニー期の頃のリフを主体としたロックが戻っているが、初期のようなただ荒々しいロックではない。「漂う人の性」「何度でも立ち上がれ」などメロディもしっかりしたロックになっている。

ミニアルバムということでやや地味な立ち位置であるが、粒ぞろいの作品であり、ロックサウンドとメロディの良さで、非常にバランスの取れた名盤である。

14th『俺の道』(2003)

  • 発売日:2003年7月16日、2009年9月16日(再発)
  • レーベル:東芝EMI
  • 初心者おすすめ度:★★☆☆☆
  • 総合評価:★★★★☆

前作でバンドサウンドに回帰したエレカシが、若手バンドのような荒々しいサウンドで、さらにロックの初期衝動にまで立ち戻ったアルバム。

楽曲も「生命賛歌」「ハロー人生!!」など、激しいロックサウンドに宮本氏の絶叫が復活し、エピックソニー期を彷彿させるという声もある。

表題曲「俺の道」はまるでサイケデリック・ロックのようなユニークな楽曲。ハードなサウンドの中にも楽曲のバラエティは豊かである。

隠しトラックの「心の生贄」は、本作唯一と言っても良い爽やかなメロディが聴ける名曲。

15th『扉』(2004)

  • 発売日:2004年3月31日
  • レーベル:東芝EMI
  • 初心者おすすめ度:★★☆☆☆
  • 総合評価:★★★★☆

真っ黒な背景に宮本氏の顔が浮かび上がるジャケットが印象なアルバム。レコーディングの様子が『扉の向こう』として映画化されたことでも知られる。

全体に硬質な楽曲が多い印象で、重苦しい雰囲気が漂う。「地元の朝」「生きている証」などで両親への思いを歌うなど、中年になった男の心情を歌った楽曲も多い。

「歴史」はポップなメロディを持ちながらも、森鷗外を紹介するような歌詞になったことを宮本氏自身は、やや悔しく語っていたのが印象的である。

宮本氏の苦悩がダイレクトに表れたアルバムであり、評価が難しい作品だ。それをエレカシらしさと捉えれば良作であるし、個々の楽曲のクオリティで言えば微妙なものもあるように思える。

それでも突出した楽曲の良さから星4つとした。

16th『風』(2004)

  • 発売日:2004年9月29日
  • レーベル:東芝EMI
  • 初心者おすすめ度:★★★☆☆
  • 総合評価:★★★★☆

前作『扉』と同時期に作られた楽曲で構成され、わずか半年でリリースされたアルバム。前作と対照的に白色が基調のジャケットで、内容もどこかさっぱりとした楽曲が多くなっている。

長尺の「平成理想主義」から始まるのは異例だが、ライブで人気の「友達がいるのさ」、儚く美しい「風」など、楽曲は粒ぞろいである。

編曲に久保田光太郎氏が加わり、宮本氏がギターを演奏していないこともあり、前作よりまとまった音作りになっている。

エレカシらしさは弱いが、作品としてのまとまりは本作の方が強い。エレカシ色の強かった前作『扉』とは対照的な作品と言えるだろう。

前作で見えた苦悩からは脱したような、まさに”風”が吹き抜けるようなさりげないアルバムだ。

17th『町を見下ろす丘』(2006)

  • 発売日:2006年3月29日
  • レーベル:東芝EMI
  • 初心者おすすめ度:★★★☆☆
  • 総合評価:★★★★☆

プロデューサーに佐久間正英氏を迎えて制作された東芝EMI在籍時最後のアルバム。『扉』『風』から続く、中年の男を主人公としたアルバムの集大成的な位置づけのように筆者には思える。

「シグナル」「すまねえ魂」など、哀愁漂うメロディアスな楽曲が印象的である。その一方、「地元のダンナ」「今をかきならせ」など、1stの頃のようなロックンロールも復活している。

ポップな方向性に向かいたいような、成熟したロックバンドでありたいような、まだ悩みの中にあるようにも思える。

しかしこの時点で出せるものを出し尽くしたような印象もあり、「なぜだか、俺は祷ってゐた。」が東芝EMI期の有終の美を飾っているようにも感じられる。

18th『STARTING OVER』(2008)

  • 発売日:2008年1月30日
  • レーベル:ユニバーサルミュージック
  • 初心者おすすめ度:★★★★★
  • 総合評価:★★★★★

ユニバーサルミュージックに移籍して第1弾のアルバムは、一気に華やかな作風に変化している。ジョンレノンの楽曲からタイトルを取った本作は、まさに”始まり”を感じさせる。

シングルとなった「俺たちの明日」「笑顔の未来へ」など、前向きなパワーに満ちた楽曲が魅力である。「まぬけなJohnny」「starting over」など前作の作風を残す楽曲も存在する。

ポニーキャニオン期に戻ったか、と言われると、しっかり東芝EMI期で培った渋い大人のロックも継承しつつ、ポップな作風になっている。

等身大のロックでありつつ、幅広い世代に届くポップスが並ぶ作品だ。まさにエレカシの復活を告げる起死回生の名盤である。

19th『昇れる太陽』(2009)

  • 発売日:2009年4月29日
  • レーベル:ユニバーサルミュージック
  • 初心者おすすめ度:★★★★★
  • 総合評価:★★★★☆

エレカシの第2の黄金期真っ只中、快進撃を続ける中で制作されたアルバム。オリコンチャートでは『明日に向かって走れ-月夜の歌-』の2位に次ぐ、3位と売り上げも大きく伸びた作品だった。

渾身の楽曲「桜の花、舞い上がる道を」やCMに起用された「ハナウタ〜遠い昔からの物語〜」など、ポップでパワフルな楽曲が充実している。

アルバム曲ではハードロックな「おかみさん」、打ち込みを用いた「ジョニーの彷徨」など、思いのほか音楽的には拡散しているようにも思える。

そのため前作に比べると、アルバム全体のまとまりにはやや欠ける印象もある。

20th『悪魔のささやき〜そして、心に火を灯す旅〜』(2010)

  • 発売日:2010年11月17日
  • レーベル:ユニバーサルミュージック
  • 初心者おすすめ度:★★★★☆
  • 総合評価:★★★★★

タイトルに”悪魔”と言う、やや意外な言葉が入っているアルバム。基本的には前作までの流れを踏襲しつつも、よりアルバムとしての完成度が高くなっている。

シングル曲「幸せよ、この指にとまれ」「彼女は買い物の帰り道」などを中心に”陽”のエレカシを見せつつ、”陰”の部分も見せる作品である。

エピックの頃も思わせる物悲しい「九月の雨」、『good morning』のような打ち込みを用いた「悪魔メフィスト」など、歴代のエレカシを振り返る内容になっているのも興味深い。

筆者としてはアルバムトータルの充実度と言う点で、ユニバーサルミュージック期の頂点に君臨する作品だと思っている。

21st『MASTERPIECE』(2012)

  • 発売日:2012年5月30日
  • レーベル:ユニバーサルミュージック
  • 初心者おすすめ度:★★★★☆
  • 総合評価:★★★★☆

タイトルに”傑作”を意味する英語をあてた、自身のうかがえるアルバムである。全体的にアレンジが美しく、壮大な楽曲が多くなっているのが特徴的である。

シングル曲「大地のシンフォニー」「約束」など、成熟したポップスを聴くことができる。一方で「東京からまんまで宇宙」「穴があったら入いりたい」など軽快なロックがアクセントになっている。

なお「我が祈り」「Darling」など、宮本氏がすべての楽器を演奏している楽曲がある。どこか宮本氏ソロ的な印象は強く、バンドメンバーの顔があまり見えてこないアルバムではある。

充実した内容ながら、既にピークの過ぎたような感覚が、ポニーキャニオン期の『愛と夢』のような位置づけのアルバムだと筆者には思える。

22nd『RAINBOW』(2015)

  • 発売日:2015年11月18日
  • レーベル:ユニバーサルミュージック
  • 初心者おすすめ度:★★★☆☆
  • 総合評価:★★★☆☆

宮本氏の療養期間を経て、復帰後に制作されたアルバム。前作とは異なり、再びバンドを中心に据えたサウンドに戻っている。

本作もシングル曲「愛すべき今日」「Destiny」などはポップな楽曲である点は変わらないが、アルバム曲はバンドとしてどんな楽曲を作っていくのか、非常に模索した形跡を感じる。

「昨日よ」「なからん」などは4th『生活』を意識したようであり、「雨の日も風の日も」なども7th『東京の空』辺りを思わせる点は興味深い。

「RAINBOW」は宮本氏の復活を思わせる新機軸の楽曲だ。なお復活後の宮本氏はキーが上がったように思われ、個人的には若干違和感がある。

23rd『Wake Up』(2018)

  • 発売日:2018年6月6日
  • レーベル:ユニバーサルシグマ
  • 初心者おすすめ度:★★★★☆
  • 総合評価:★★★★☆

前作から2年5か月の時を経てリリースされたアルバム。シングル曲は全てタイアップがつくなど、エレカシへの注目度はますます高まる中での作品だった。

「Easy Go」こそ爆走パンクロックであるが、その他は良質なポップスが並ぶアルバムだ。スケール感のある「風と共に」やエレカシらしい名曲「旅立ちの朝」も良い。

レゲエ調の「神様俺を」や、見事にマーヴィン・ゲイの「いつもの顔で」など、ブラックミュージックの要素も入っている点は面白い。

前作に比べるとバンドの一体感も戻ってきたことで、アルバムとしてのクオリティもぐっと上がった印象である。

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まとめ

今回の記事では、前半でエレファントカシマシを初めて聴く人向けのアルバム、後半で全アルバムレビューを行ってきた。

エレカシは歴史が長い分、作品数も多い上に、アルバムごとのカラーも異なるので、どれから手に取って良いのか迷うかもしれない。

極論すれば、「気に入ったものから聴いてほしい」ということではあるが、何か指針をと感じる方に向けてこの記事が参考になればと思う。

エレカシはレコード会社の移籍とともに、作風が変化しているのが特徴であることを述べてきた。

比較的ポップな曲の多い、ポニーキャニオンユニバーサルミュージック時代が初心者向きと言えるだろう。そこから過去に遡ったり、新しい作品を聴いたり、と各々で楽しんでいただければと思う。

ここ数年は宮本氏のソロ活動が多く、エレカシのとしての活動は限りなく少なくなっていた。デビュー35周年の2023年はようやく本格的にツアー活動も再開する。

このタイミングで新たにエレカシを知る人も出てくるのだろう。このユニークなバンドの、凄まじい曲たちがさらに世に知られることを願っている。

初心者におすすめのエレファントカシマシのアルバムまとめ

・ベストアルバム『All Time Best Album THE FIGHTING MAN』(2017)

・9thアルバム『明日に向かって走れ-月夜の歌-』(1997)

・18thアルバム『STARTING OVER』(2008)

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